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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第11章 女・王・再・誕
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EPISODE204:しらみねけ


「ひゃー、ここが白峯はんちか! ごっついトコやなあ!」

「ごっついでしょー? けど中はもっとスゴいですよ」


 歩くこと数十分、市村と出くわした健は彼を案内するのも兼ねて西大路の一角にある白峯邸に辿り着いた。地上二階建ての地下一階で、庭は広くてガレージつき。外観も洋館をモダンにした雰囲気の大豪邸だ。玄関でインターホンを鳴らし、程なくしてこの家の主――白峯が二人を迎えに出た。


「とばりさん、どうもー!」

「いらっしゃーい♪」

「どおおおおお!?」


 無邪気に笑いながら現れた青みがかった黒髪の女性。彼女が白峯とばりだ。白衣の下には紫のシャツ。スレンダーながらも出るところは出ていて(胸と尻とそれから太もも)、なかなかセクシーだ。市村は白峯の美貌を前にして転倒する。


「せっかくの休日なのに呼び出したりなんかしちゃってごめんね」

「いえいえ、僕もとばりさんちに遊びに行こうと思ってましたので」

「まあ嬉しい!」


 心の底から喜びを分かち合う白峯と健。刹那、倒れていた市村が目をカッと見開き――上半身を起こす。


「そうか……あんたが白峯とばりはんやな……」

「えっと、どちら様?」

「ああ、とばりさん、彼は――」


 健が市村が何者なのかを説明しようとした瞬間、起き上がった市村は白峯の手を取ると膝を突く。唐突な行動だったため健は開いた口がふさがらない。


「わし、市村正史いいまんねん。たこ焼き屋として全国回ったことがありますんやわ」

「へえ、たこ焼き屋さんなの」

「チビのときから親父とオカンに仕込まれたもんですから、腕には自信ありまっせ!」


 市村が突然立ち上がり、「よろしゅう頼みまっせ!」と生き生きした表情で手を握った。


「こちらこそよろしくー!」


 白峯ももちろん彼の好意を受け取り互いに手を握った。若干困惑していた健もにっこり笑い、三人は家の中へ。



「ヒョ〜! 中もごっついやないの!」

「もう何度も来てますけど、まさに上の上! 上質なおうちだと思います」

「ちょっとぉ、やだー! 照れるじゃなーい」

「お世辞やあらへん、思ったことを言うたまででまんねーん!」


 白峯邸に上がり、その絢爛な内装も見て市村が大興奮。まばゆいシャンデリアに壁に掛けられた額縁つきの風景画、上質な素材で作られた家具に豪華な装飾を施されたツボ。植木鉢には観葉植物が植えられていてよりリッチな雰囲気を引き立てるのに一役買っている。


「ところでとばりはんは誰と付き合うてはるんや?」

「彼氏ならいないけど」

「ななななんやてぇぇぇ!?」

「ぼっぼっ、僕もそんなのはじめて聞きましたよッ!?」


 健と市村が大袈裟な身振り手振りで驚く。彼の気持ちはわからないこともない。白峯ほどの美人なら一人くらいは周囲の異性から想いを寄せられているはずである。なのにそれが一人もいない。となれば、二人ともこう思ったはずだ。「間違いない、彼女は女神だ! 女神はここにおわせられたのだ!」――と。


「ああッ女神様ッ」

「わしら女神様の神殿に来てもうたんやなあ! 光栄なこっちゃあああ!!」

「神よ、この哀れな萌え豚に祝福を与えたまえぇぇぇぇ!!」

「アーメーン!!」


 興奮のしすぎから健と市村は天に祈り出した。――それぞれ、幼馴染みのみゆきと、同じく幼馴染みでガールフレンドの逢坂アズサがこの光景を目にしたら何を思うだろうか。「しょうがない人たちねー」と、白峯は一言だけ呟いて彼らを敢えてそっとしてやった。しばらくしたあと、気を取り直して健と市村は白峯についていく。居間へ移動して、そこでゆっくりくつろぎながら話をすることとなった。ソファーに腰かけて、手を膝に置く健。市村は肘をうしろに置いて威張りながらリラックス。


「お茶にするー?」


 白峯は二人のもとに茶とお菓子をトレイで運んで持ってきた。何種類か味があるクッキーにビスケット、お茶は緑茶と紅茶の二種類。


「わあ、ありがとうございます!」

「早速やけどもろてもええですか?」

「いいわよー、ゆっくり話しましょう」

「やったー! いただきまーす」


 早速、と言わんばかりに健がクッキーを取ってかじる。市村も彼に続いてクッキーをかじる。自家製なのか市販のものかはわからないがおいしい。熱い茶も飲めばよりおいしい。ちょうど外も快晴で優雅なひとときだ。


「そうだ、東條くんはあれから調子どう?」

「順調、順調です!」

「よかった!」

「でも、悩みがないわけじゃないんですよね」

「え?」


 急に健の表情が曇り、戸惑う顔を浮かべる白峯と市村。


「というのも、風のオーブを手に入れてからアパートに戻ったら、まり子ちゃんがいつの間にか繭にこもってて」

「東條はん、さっきもそれ言うてたなぁ。そんでまり子ちゃんが見違えるほど大きくなったんやったね」


 健が状況を説明している傍らで、まり子があのままで成長した姿を思い浮かべ、「にひひ」と市村が淫らに笑う。どうも市村は自分がとんだスケベであることを隠す気はさらさら無いようだ。


「それは大変だったわね。……ところで、風のオーブは使ってみてどうだった?」

「はい、風を操ったり空中を浮いたり、俊足で駆け抜けたり、ときにはワープも出来たり」

「なんやて!? お前ついにルーラ唱えられるようになったんけ!?」


 市村が唐突に大声を出す。だがツッコむところが間違っている。


「違いますー、風のオーブの力ですぅ」

「あ、ああ……堪忍な」

「要するに汎用性が高いってことね。仮に使いこなせるようになれば……」


 思案顔を浮かべる白峯。「なれば……?」「どうなんの?」と、健と市村は緊迫しながら呟く。


「……戦力は今の倍になるわね!」

「やっぱりね! そう出来るようにこれからも頑張ります!」

「その意気や、わしもそろそろ特訓せにゃなあ!」


 白峯の推測では、風の力を使いこなせるようになれば戦力は今の二倍になるかもしれないという。ちょうど健も同じことを考えていた。だがそのためにはまた新しく努力を積み重ねる必要がある。健ならきっと出来るだろう。市村も負けじと努力をすることを胸に誓う。


「……そうだ。東條くんに市村さん、このあと用事ある?」


 それぞれ新しい誓いを胸にして再びティータイムを満喫しようとした健と市村だったが、ふと何を思ったか白峯が呟く。


「僕は十七時からみゆきんちに行くつもりです」

「わしは、明日彦根までたこ焼き売りに行くつもりやけど……」


 何か予定がないのかを訊ねられ、健と市村はこのあとの予定を白峯に話す。二人から予定を聞いた白峯は壁に掛けられた時計を見つめる。――そろそろ十五時だ。


「そう、いまは十五時時前だから……もうちょい大丈夫そうね」

「はい、御用があれば何なりと」

「右に同じく!」

「じゃあ、ちょっと研究室まで来てもらえないかしら?」


 白峯がそう持ちかける。ここに来るのは今日が初めてな市村は、「け、研究室?」と少し困った顔を浮かべる。何か怪しい実験でもしているのではないか――と、想像してしまったからだ。若くて天才で美人なら――十分ありうることである。


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