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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第11章 女・王・再・誕
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EPISODE203:時間を潰しに


 『トワイライト』をあとにして、健たちは駅前のアパートへと帰った。いつになく機嫌を悪くしたみゆきのことを気にかけながら――。


「やっべ、どうしよう……」

「あの様子じゃあ当分顔も見てくれんだろうな、相当気まずいことになった」

「わたしのせい……なのかな」


 頭を抱え込む健と、深刻な表情で腕を組んでいるアルヴィー。まり子は自分のせいでみゆきは機嫌を損ねたのでは――と、恋のライバル(?)のことを気にかけていた。


「のう、みゆき殿はいつ頃バイトを終えるのだ?」

「だいたい十七時ごろには終わるけど……そのくらいの時間には家にいるかな」

「じゃあ、みゆきさんちまで行って謝ってくる?」


 「うん」と、健は首を縦に振る。みゆきの家がどこにあるかはもちろん知っている、山科駅から徒歩五分の住宅街だ。


「まり子ちゃんは行かないの?」

「わたしは……いいや」

「なんで?」

「みゆきさんとはあんまり顔合わせたくないし」

「そっか。まあいいや、僕ひとりで行くよ」


 君も一緒に謝るべきじゃないのか、と、健は思った。とはいえ、無理に同行させても余計にみゆきを怒らせてしまう。健は思いきってひとりで行くことに決めた。


「だが健、どこで時間を潰すんだ?」

「んー……どうしよ」


 顎に手を当てて健が思考を巡らせる。そのとき、健の携帯電話が鳴った。なんとも都合が良すぎるような気がするが――細かい事は気にしない。


「もしもし、東條ですが!」

「あっ、東條くん?」

「とばりさん!」


 電話をかけてきたのは白峯とばり。みゆきの知人である女性科学者だ。頭が良くて料理もうまく、おまけに美人。知的なだけでなく性格も快活で、まさに男性の理想を絵に描いたような素晴らしい女性である。ちなみに、意外にも彼氏はまだいないという。それはそれでもったいない話である。


「あれから調子はどう?」

「はい、絶好調です。僕も風のオーブも」

「そう。葛城さんも今頃きっと喜んでるわ」

「だといいなあ〜!」


 テンションを高くして電話に応じる健。


「ところで、今空いてる?」

「はい、今日は出勤日じゃないんで!」

「今からこっち来れそう?」

「もちろんです!」

「じゃあ、待ってるからねー」


 白峯との電話はそこで切れた。相変わらず元気そうで健はホッとしていた。


「とばり殿からか、なんと言っておった?」

「家に来ないかってさ。ちょうど時間も潰せそうだし、顔見せに行ってこようかな!」


 白峯から家に来ないかと誘われ、健は嬉々とした様子でアルヴィーに答える。


「行くんだ。わたしたちも行こうかな」

「いや、僕ひとりで行く!」

「えー……あ、そっか。その足でみゆきさんち行ったらいろいろめんどくさいもんね」

「あれ、ひょっとして行きたかったの?」


 「言ってみただけだよー」と、まり子。どこまで冗談でどこまで本気なのやら――そのつかみどころの無さとくれば雲のようだ。『くも』だけに。


「……お主、もう行くのか?」

「うん、あんまり待たせちゃ悪いし」


 白峯の家に行く準備の一環で健が服を着替える。『GENBU』と文字がプリントされたシャツの上に薄紫のパーカーを着て、その上にダッフルコートを重ね着。ズボンはブルージーンズだ。あとは、携帯電話と財布と定期券。愛用の青いノートパソコンは、そもそもプライベートにしか使っていないので置いていく。


「――準備万端ッ」


 健がガッツポーズで喜ぶ。サブリュックも肩にかけて準備は万端だ。


「いってきまーす!」

「行ってらっしゃーい!」

「怪我するんじゃないぞー」


 アルヴィーとまり子に見送られて健はマンションを出た。今は十四時、まだまだ外は明るい。だが――暗くなるのも早い。時期的にはハロウィンが近くそこを過ぎれば冬が近付いてくる。この日本は、より寒くなろうとしているわけだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 健は京都駅から電車に乗り、白峯とばりの自宅がある西大路へと向かう。徒歩十分から十五分ほどの位置にあるモダンな屋敷だ。運動するには適度な距離である。


「ここに来るのも久しぶりだなー」


 澄み渡る青空の下で、西大路の街をぶらりと散歩しながら白峯邸を目指す健。


「今度鴨川とか二条城行きたいな、あ、金閣寺もいい……」


 西大路のみならず京都は観光スポットが多い街である。健は現地に住んでいるので行こうと思えばどこにでも行ける。動物園にも、金閣寺や銀閣寺にも、清水寺にも。近所なのだ。たまには気分転換にと、みゆきや高天原で知り合った葛城らと一緒にどこへ遊びに行こうかプランを立てていた。


「いや映画村も捨てがたいな……」


 しかしながら観光すべき場所はたくさん存在している。かなり悩むところだ。そんな彼の背後から忍び寄る――ひとつの影。考え中だった健はまったく気付いていなかった。


「おい!」

「!」


 健の背後から何者かが肩に手を置く。振り向くと、そこにいたのはサングラスをかけて、対峙している龍と虎のワッペンがついた黒いスカジャンを着た若い男性だった。髪は青く、男性にしては長め。女性から見れば短めだ。


「あんちゃん……白峯とばりはんちがどこにあんのか、教えてくれまっか」

「だ、誰ですか? 今から僕もそこに行こうとしてるとこなんですが……」

「おいおい、わからへんのけぇ? わしやがな、わし」


 胡散臭い風貌の男性は流暢な関西弁でしゃべっている。健のことを知っているような口ぶりだが健には彼が誰なのかさっぱりわからない。――いや、思い当たる人物が一人だけいる。それは――。


「市村やがなー!」


 サングラスを外して市村が名乗りを上げる。ようやく気付いた健は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で市村に視線を向けた。


「市村さんだったんですか!? てっきり『近江の矛』の生き残りかと……」

「そんなわけあらへんっちゅうねん、かなんわホンマ! ライバルの顔も忘れるとか、わしゃあ悲しゅうてしゃあない!」


 動揺する健と彼に呆れた市村。――なお、健が述べていた『近江の矛』とは、以前大阪を中心に活動していた自警団である。リーダーを務めていたのは新藤剛志。だが、彼はシェイドが人間に化けた姿だった。大阪の侵略を目論んでいた新藤だったが、彼は倒され現在は解散している。健の脳裏には、その新藤が鉄パイプに肘を乗せてにやついている姿が浮かんでいた。なぜか「ゲーソッソッソ」という、妙な笑い声を上げていたようである。


「す、すみません。それでどうしてとばりさんちまで行こうと思ったんでしょうか?」

「ん? ああ、いっぺんそのとばりはんに会うて話してみたいって思うたんよ」

「はあ、そうだったんですか」

「そういうことやし、案内よろしゅう頼みますわ!」

「はいっ」


 なんでも、市村は一度白峯とばりに会って話がしたいのだという。ちょうどいい、せっかくの機会だし一緒に行こう。――そう思い、健は市村の要求を呑んだ。


「かくかくしかじかで風のオーブを手に入れて、葛城さんって女の子ともまた会う約束をして……」

「ほうか、ほな良かったやん」

「いろいろあって帰ってきたわけですけども、まり子ちゃんが……」

「ど、どうなったん!? あんたらが帰ってくる前に訊ねてもシーンとしとって家開けてくれへんかったけど、何があった!?」

「繭に入ってました……」

「繭ゥ!?」

「しばらくしたら、繭の中から二十歳ぐらいになったまり子ちゃんが……」

「なんやてぇぇぇ!?」


 白峯邸を目指して歩いている最中に健は市村と世間話をしていた。まり子に関する話題を出した際は、市村は終始大声を上げて驚いていた。昼間から騒いだりなどして近所迷惑にも程がある。


「……は、二十歳……」

「そうですね、童顔でムチムチボインボインな感じになりましたよ……ウェヒヒヒ」

「グハァァァァァ」


 健が鼻血を出し、市村もまた興奮しすぎて鼻血を豪快に吹き出し転倒した。――白峯に会いに行くだけとはいえ、二人ともこんな調子では先が思いやられる。


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