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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第11章 女・王・再・誕
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EPISODE202:ファミレス震撼


「なに食べるー?」

「入ってから決めるー」


 みゆきが働いている、ファミリーレストラン『トワイライト』。風のオーブの力でそこまでワープし、健たちは店の中へと足を踏み入れる。昼時なので混んでいる――と思いきや、意外にも空いていた。


「いらっしゃいませ〜。三名様ですか?」

「はい!」

「こちらの席が空いておりまーす♪」


 店員が元気のいいあいさつをしたあと、健たちを空いている席へと案内する。窓側に位置する席だ。そこから見える街並みはのどかで見ていて気持ちが落ち着く。このレストラン自体も内装が綺麗で隅々まで整備が行き届いており、清潔だ。


「フフッ、綺麗なお店ね。ここで働けるなんて、みゆきさん幸せなんじゃない?」

「言えてる! 実際評判もいいらしいからね、正式採用も近いかも」

「努力はいずれ報われるからな、しておいたほうがいいというものだ」


 席に腰掛けながら語らう三人。役所のバイトとその同居人二人というよりは仲のいい大学生に見える。これでもしまり子が小さかったら、少々無理があるが親子に見えていたはず。


「何にしよっかなー」


 まり子が隣にいる健と一緒にメニューを見始める。パスタにピザにミックスグリルといったお馴染みのメニューに、まさかのカツ丼やうどん等々――どれも美味しそうなものばかりだ。


「まり子ちゃんは何食べたい? 僕はカツ丼がいいなー」

「わたしはねー、うーん」


 健はカツ丼に決定。まり子は難しい顔をして腕を組みながら考え――程なくして太陽の光を浴びたひまわりのように明るい顔を浮かべた。


「そうだ、お兄ちゃん食べたい」

「あごッ!」

「ま、まり子!」


 ――健を食べたい、確かにそう言ったのだ。もちろんそのままではない、別の意味で。思わず手で抑えてしまうほど鼻血を吹き出し、健はぐったりとうなだれる。


「やだー、冗談よ、じょ・う・だ・ん」

「じょ冗談でもダメだよ。そんなことしたらみゆきに殺されちゃう」


 ティッシュで鼻血をせき止めた健が肩を震わせながら答える。彼の言葉を聞いたまり子は、ふと何かを妄想する――。



「ひどいわ、健くん。あれほどわたし以外の女になびくなって言ったのに……」

「ち、違う。誤解だよ、みゆき」

「聞く耳持たァァァんッ!!」


 夜の路地裏、包丁を片手に藤色の髪をサイドテールでまとめた少女――健の幼馴染みであるみゆきが健を壁際に追い詰めていた。しかもお互い傷だらけだ。


「健くんを殺してあたしも死ぬぅぅぅ――ッ!!」

「や、やめ……うわああああああ!!」


 そして辺りは血で真っ赤に染まった。


(――ハッ! 落ち着いて、まり子。こんなホラーな方向に妄想したらダメ……もっと明るい方向に妄想しなきゃ)



 ――よって、まり子の妄想は仕切り直し。気を取り直して、先程とはまた違うものを妄想し始めた。


「悔しいッ!!」


 今度は健との恋にやぶれて落胆し、夕暮れの街で泣きながら壁に拳を打ち付けているみゆきの姿。そして――静かに佇んでいるまり子。


「信じらんない、健くんがあんな女を選ぶなんて! あたし……これからどうしたらいいの!?」


 みゆきの眼から涙がこぼれ落ちる。幼少時代からずっと想いを寄せていた健にフラれた悲哀と健が選んだ別の女への憎悪――それらが複雑に混じった表情がなんともいえない儚さを醸し出している。


「フフッ、かわいそうね」


 優しく微笑んで、悩ましく体をくねらせながらまり子がみゆきに近付く。片手にはハンカチが握られていた。


「うるさい、あんたに何がわかるッ!」

「わかってほしいの、みゆきさん?」

「ッ……」


 泣きじゃくるみゆきを煽るかのような言葉を投げかけるまり子。片手に持ったハンカチで涙を拭いてやると妖艶に微笑みながら、「あなたに涙は似合わないわ」と言葉をかける。


「嫉妬深い仔猫ちゃん……わたしが可愛がってあげる」


 顔を近付けてみゆきの下顎を手にとるまり子。互いに紅潮していて実に淫ら、実に――流麗。



「これよこれ! これは濡れるッ」

「濡らすんじゃないっ」


 そんな風に妄想を浮かべてまり子は淫乱な表情になっていた。体が成長してリビドーもより旺盛になったのか、だんだんそっち方面へ向かおうとしている。アルヴィーが淫乱なまり子を制止したが、健はまだのびていた。



 ◆◇◆◇◆◇



「よし、注文決まったし店員さん呼ぼう」


 健が起き上がって雰囲気が落ち着いたところで、健たちは改めて何を注文するか決めた。健がカツ丼でまり子がイカ墨スパゲッティ、アルヴィーはミラノ風ドリアだ。健は店員を呼ぼうとスイッチを押す。それから少し経ってウェートレスがやってきた。藤色の髪をサイドテールにまとめた少女――間違いない、みゆきだ。


「ご注文をお伺いいたしますー! って、健くん?」

「ヤッホー、食べに来たよ!」

「ど、どうも」


 突然の来客に驚いたみゆきが笑顔を崩してしまう。ぎこちないながらも元に戻して、注文を伺おうとするも――髪が青紫で身長の高い女性が目に留まる。


「ってかそこのお姉さん誰!?」

「ん? ああ、みゆき殿。彼女は……」

「フフッ、一瞬誰だかわかんなかったでしょ?」

「え?」

「やだ、わかんない? まり子よ、ま・り・こ♪」


 見知らぬ女性はまり子であった。本人から言われてみゆきはようやくそのことに気がつく。無理はない。言動はそのままで声も口調も色っぽくなって、華奢で小柄だった体はいろいろと大きくなって、髪も急激に伸びて――これでは気づきようがない。彼女の変わりようはビフォーアフターどころではない。なんということだろう。


「ギギギ……なんでよりによってあたしよりムチムチなのッ」


 まり子に嫉妬したか、「許すまじ!」と言わんばかりに白目をむいてみゆきが歯ぎしりする。対するまり子は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。


「それで、ご注文は?」


 みゆきはぶっきらぼうな態度で注文の品が何かを問う。冷や汗をかきながら、健は「か……カツ丼とイカ墨スパゲッティ、ミラノ風ドリア……」と答えた。アルヴィーは何も言わず気まずそうな顔でみゆきを見ている。まり子は「さすがに言い過ぎたか……」と思い、自分を戒めて真顔になっていた。


「カツ丼が一点とイカ墨スパゲッティが一点と、ミラノ風ドリアですね。かしこまりました」


 ぶっきらぼうな表情のまま無理矢理笑顔を作ってみゆきは注文の品を復唱。ヤンキーが自分より弱いものにガンを飛ばしているようで威圧感があり、健とアルヴィーは肩がひきつった。まり子は鳩が豆鉄砲を食らったような表情でみゆきを見つめている。みゆきはそのまま席から去っていった。厨房まで注文の品を伝えに行ったのだ。


「…………こ、こええ」

「げに恐ろしきは女の嫉妬か……」

「それ前にも聞いたような……」

「ほ、ほら、複雑なのよ。女の子っていうのは……」


 この世で一番恐ろしいのは女性の嫉妬か。健たち三人は騒然となっていた。


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