EPISODE18:バイト君は非常勤
今回予告!
健がバイトに行く日数が月と水にしぼられた。
健がいない中でも頑張る浅田さん達が知らないところで、健は凶悪なシェイドどもを退治していた。
そんな中、銀行で爆発が起きる! 果たして、健の運命やイカに? タコに!
心地よい朝陽が窓から射し込む、朝のオフィス。
羽織ってきたコートをロッカーへ仕舞うと、女はメガネをかけて己の持ち場へつく。
「おはようございますぅ~」
彼女は今井みはる、この事務室に来て2年め。プログラマー志望で、細々と事務仕事をする傍らでプログラマーになるのに必要なことを少しずつ身に付けている。
将来は、ゲームのプログラマーを目指している。自身もかなりのゲーマーであり、休日は自宅でオンラインゲームなどで時間を潰しているのだ。
内向的且つ控えめな性格で、人と対面することが苦手な彼女だが、ネットでは元気で明るく振る舞っている。ネットでは基本的に相手の顔が見えないため、自然と怖じけずに喋れるそうだ。
「おっはよー♪」
腰上まである髪をひとつにくくっている彼女は、浅田ちあき。
職場内のみんなから頼りにされる姉御肌で、本人も面倒見がよく明るい性格をしている。ここへ来て3年目であり、1年上のジェシーと共に後輩への指導やアドバイスを自ら進んで請け負っているようだ。
ジェシーやみはるとは仲が良く、昼休みは三人でよく世間話をし、休日は三人でよくショッピングへ行くほど。
「今日は係長が休みみたいですよ。わたし、係長の分も仕事するわね〜」
流れるようなプラチナブロンドの長髪に蒼い瞳が美しい彼女は、ジェシー・西條・エレノア。外国人の母と日本人の父との間に生まれた、ハーフである。
おっとりした性格で優しく、物腰柔らかい彼女は、この職場における最大の癒しである。
比較的裕福な家庭の生まれであったが、ひそかに普通の暮らし……つまり庶民の生活に憧れており、高校に入ってから一人で生活する力を身に付けるべく、それまでメイドや執事に任せていた家事や雑用を率先してやるようになり、結果として彼女は自立するのに十分な生活力とテクニックを身に付けた。
――とはいえ、天然で高校の時から感覚がズレているところがあり、今でもボケてしまうことがしばしばあるようだ。
なお、彼女はちあきやみはるととても仲が良く、
オフの日は良く遊びに行ったりショッピングしに行ってたりしている。この三人娘の中では一番年上で、同じ年代のちあきと共に後輩への指導やアドバイスを自ら進んで請け負っている。
職場の同僚たち曰く、彼女がいるとなぜか安心感が伝わってくるという。誰からも頼りにされるお姉さんなのだろう。
「東條くんもいないわよ。あの人すっごい働き者だから、いざいなくなると辛いわねぇ」
「本当によく働いてくださいますよね」
「東條さん、ちょっと荒削りなところもあるけど、叩けばきっと伸びるタイプよ。まさに期待の新星ね~」
三人とも共通しているのは、健が月水のみ来るようになって寂しいということだ。
健は明るく話しかけやすい好青年で、しかもよく働く。彼がいるだけ職場もだいぶ助かるというもの。
「みんなも、東條さんと係長の分も頑張って仕事しましょう」
「は~い! さて、あたしは郵便物を……」
「じゃあ、私は掲示物の作成をしますね」
今日は木曜日。健は来ないが、他のメンバーは気合を入れて仕事に取り組んでいた。
「待てェ――――ッ!」
「ゲゲゲ!」
その晩、健はエーテルセイバーを手に逃亡中のシェイドを追っていた。相手はカメレオン的な人型、つまりカメレオンの怪人だ。
現ブツと同じように周囲の環境に併せて体色を変化させることで姿を消すことができ、その特徴ゆえ健も手を焼いていた。
「健、ヤツはあそこだ!」
アルヴィーに言われるがまま、道の少し歪んだ箇所にジャンプ斬りを浴びせると保護色が解け、カメレオンのシェイドが姿を現した。
舌を伸ばし健へと反撃する。だが、健はそれを横に跳んで回避。カメレオンはまたも姿を消し、逃走を続ける。
「あいつ、どこまで行く気だよ……」
不満を洩らしながら追っていると、カメレオンは広いグラウンドのある校舎に逃げ込んだ。
ここは【松宮中学校】。4階建ての中学校で、大きな体育館が裏手にある。当たり前だが人気はまったくない。
夜だから――というのもあるが、それ以前に廃棄されたかのような寂しさを漂わせていた。
「ここに逃げ込んだな? よし、待ってろ……あれ? あ、あかない」
フェンスを乗り越え正面玄関から入ろうとするも、扉は開かない。いくら押そうが一向に開く気配はない。当然だ、こんな夜中である。
もう職員全員も帰宅し、とっくに閉められている。今この校舎に人がいるとすれば、せいぜい人体模型やトイレの花子さんくらいだ。もっとも、これらは人ではなくおばけの類だが……。
「押してもダメなら引いてみな、という言葉があったであろう? 押してみたらどうかの」
「ふんぬーっ!!」
しかし開かない。現実は非情である。たてつけが悪いのか、と、健は首をかしげた。
「す、すまぬ。急がば回れ、だ。非常口なら開いているかもしれんぞ」
「それだ! 探してみよう!」
頷き、健は非常口を探す。校舎のちょうど裏手に回ったところに非常階段を見つけた。
しかしだいぶガタがきていて錆び付いており、少々心許ない。それでもこの階段を駆け登り、3階辺りで非常ドアを叩いた。
だが、案の定この非常ドアも錆びついていて開かなかった。今夜は何かと阻まれてばかりだ。
「阻まれてばかりだの……健、こういう時はどうするか知っておるか?」
「それなら知ってるぜ。力を合わせて扉に体当たりするんだよ。でも僕しかいないからできないや」
とぼけたことを言うな、と、アルヴィーがやれやれと笑いながら人間体へ化身した。
荘厳な白龍から素敵なレディとなった彼女に肩を壊させるわけにはいかないので後ろへ下がらせ、二人で思い切りドアへ体当たりする。
二人分の重さによる衝撃が赤錆びたドアを貫き、校内への道を切り開いた。
■□■
一刻も早くシェイドを見つけなければ、と二人は躍起になる。学校中くまなく探し回ったが、クラスルームにはいなかった。他のところにもいない。
「音楽室にも視聴覚室にもいなかったぞ。ということは考えられる場所はひとつ……」
体育館はまずない。窓から入れるがそんな回りくどいことをしてまで入っている時間はない。
トイレも探そうとしたが乙女なアルヴィーに却下された。職員室はそもそも閉まっている。
美術室も考えられたがその辺まで行くと正直めんどくさい。夜の校舎で怖いところ、何かがいそうなところの定番といえば――?
「もしかして理科室、ではなイカ……」
「ぇ」
まさかと思い、理科室へ。また二人で体当たりしてこじ開けて入ったが、やはり誰もいない。
棚を物色するが、とくにめぼしい物は入っていなかった。そうしているうちに部屋の奥の物置から音がしたので、恐る恐る扉を開けてみると――。
「で……」
健の顔が引きつった。その傍らでアルヴィーが彼にしがみつく。
「出たぁぁぁぁぁぁああああぁ!!」
二人そろって、絶叫。
その眼前には、脳ミソや五臓六腑、神経や筋肉が半身むき出しになっている怪人物の姿が!
だが、その人物にライトを当ててみると――。
正体は人体模型だった。ちびっ子を怖がらせることに関しては定評のあるやくものだ。
「な、なんだ。おしっこチビるかと思った……」
「健、おなごの前でそんなことを言うものではないぞ。まあ許す」
安堵の息をついて物置を出る。シェイドがいない事を確認し、理科室をあとにしようとしたが……。
「ケケケケ……!」
金切り声が、自分たち以外誰もいない部屋にこだまする。
身構え辺りを見渡す健の背後に、長く伸びた舌が襲いかかった。
「た、健っ!」
「しまった! 隠れてたのか!」
健を床へ叩きつけ、起き上がった健に毒液を吐いて追い討ちをかける。
吐き出された毒液を防ぎ、ジリジリとカメレオンのシェイド・インビジレオンへ近寄る。
剣を振るが持ち前の軽いフットワークでインビジレオンは回避。
健を嘲笑うようにインビジレオンは両手を上げ、自慢の長い舌を見せびらかしている。
このままでは埒があかない、と、苛立つ健にアルヴィーがアドバイスを授けた。
「健、相手の背後を狙うといい。まず左右に飛んで回り込んで、ヤツの背後を叩っきれ!」
「左右に飛んで回り込む、そんで叩っきるね。わかった!」
まず相手の真横へ飛ぶ、次に転がって背後へ回り込む。そしてジャンプしつつ切り上げる。
するとインビジレオンは悲鳴を上げ、よろめいた。
「これでも食らえ、イボイボ顔め!」
とどめに、アルヴィーが顔面を蹴っ飛ばす。更にかかと落としをお見舞いし、相手を地に伏せさせた。
「よし、じゃあトドメは僕が……うおおおォ――――!!」
高く飛び上がり、倒れたインビジレオンの咽喉へ真っ直ぐに突き立てる。
うめき声を上げて汚い唾液を吐き出し、インビジレオンは息絶えた。消滅したシェイドを見届けると、健は安堵の表情でため息をついた。
「相手が一体でよかったの。さて、もう夜が更けておるぞ。そろそろ帰らぬか?」
「そだね、帰って寝よう」
△△△
「真っ暗だなー。あ、でも星がきれいだ」
「まっこと、その通りだのぅ」
街頭と手持ちのライトを頼りに暗い夜道を歩いていると、
自転車に乗ってパトロール中の警官が健を発見して近付いてきた。
「こらーッ! こんな夜中にいったい何をしていたんだ。正直にいいなさい!」
「わわっ、すみません! ほ、ホラ、アルヴィーも……ってあれ、いねぇ」
「君は何を言っているんだ!?」
警官に捕まった健は交番へ連れていかれた。
事情を説明した健は謝罪し、警官も軽く注意を促してそのまま帰してくれた。マジメで厳しそうではあったものの、人柄のよい警官であった。
「あー……解放された。あのおまわりさんがいい人で助かった……さて、帰ろう」
このとき、アルヴィーは既にいなかった。あとで分かったことだが、彼女は先に帰っていたという。