EPISODE197:湧き上がる憤怒
市村が取り出した大砲のような重火器・バーニングランチャー。本人曰く、連射は利かないが威力は抜群のこの大砲は口径が大きい。その分重量もあって両手で持たなくてはならず、扱い慣れている市村も腰を深く落とすほどだ。――何にせよ威力は折り紙つきなのだ。カルキノスのように硬い外骨格を持った相手には効果てきめんだ。
「おいおい、自信満々のところ悪いけどさぁ。俺にそれ撃っても効かなかったらどうすんの? なあ、どうすんのさ?」
「じゃかましい。お前こそそろそろしっぽ巻いたらどないや? ご自慢の甲羅も吹っ飛ぶかもしれん言うたやん」
カルキノスは必死だ、それも見苦しいくらいに。対する市村は己の勝利を確信したような余裕の表情を浮かべている。鎌瀬は相変わらず隅っこで震えているようで、「そんなのいいからさっさと殺っちまってくれぇ……」と呟いていた。
「たとえば、こんな風にやなぁ!」
「どぉおあッ!!」
バーニングランチャーから極大のビームが放たれ、カルキノスに命中。爆発を起こしてカルキノスは後退。反動も強く市村は大きくのけぞった。
「な……なんだ、今のパワーは!?」
「えええええええぇ――!? 今のなんなの、ヤバくね? ヤバくね!?」
高い防御力が自慢のカルキノスが動揺するほどのバーニングランチャーの威力を前にして、思わず目が飛び出そうなくらい鎌瀬は驚いていた。
「っあーい!」
怯んで動けないカルキノスに、市村はもう一発ランチャーを発射。カルキノスは吹っ飛び誰かの車に叩きつけられた。ガラスはひび割れ、車体は凹んでいる。いっそ破壊した方がマシだといえる惨状だ。
「ファイヤァァァァ!!」
とどめの三発目が放たれ車ごとカルキノスを焼き尽くす! 爆炎を吹き上げて誰かの車は木っ端微塵になり、爆炎の中から飛び出したカルキノスは地面を転がる。
「あー重たかった!」
バーニングランチャーを天井の配線の隙間に放り投げて、市村は武器を交換。愛用の大型銃・ブロックバスターに交換する。銃を持ったままうろたえるカルキノスに近寄ると銃口を突きつけた。鎌瀬はやはり隅っこで縮こまっている。
「き、きたねえぞ! こんなの不公平だ!」
「不公平もクソもあるかい!」
「ちくしょー!」
高威力のビームを三発も撃ち込まれてさすがのカルキノスもヘトヘトだ。市村に抗議すると重い腰を上げて走り出す。どこかへ逃げるつもりだ。
「待たんかい!」
「忘れんなよ、この借りは倍にして返してやるからな!」
追ってきた市村に捨て台詞を吐いて、カルキノスは逃亡。柱の影に飛び込んで消え失せた。
「かなんな……ホンマ」
首を傾げる市村。とはいえカルキノスを追い払うことはできた。駐車場の隅っこでガタガタと震えている鎌瀬に歩み寄り、「立ちぃや、あんた」と手を差し伸べる。
「ありがとさん、おかげで助かったぜ」
「そりゃどうも。……んー?」
何を思ったか市村は鎌瀬の顔を覗き込む。
「なんだよ、俺の顔になんかついてた?」
「いや……あんた、どっかで見たような気ぃすんねんけど。どこの誰やったか、えーと……」
鎌瀬が困惑する前で、腕を組んで思考する市村。豆電球に明かりが点いたようにスカッとした笑顔で、「思い出した!」
「は?」
「あんた、あれやろ! 確かチーム青大将の!」
「ちげーよ! グリーンスネークのリーダーだった鎌瀬拘太だよッ!!」
自身がリーダーを務めていたギャング集団の名前を間違えられ、鎌瀬が憤慨する。
「はーん……やっぱりそうやったか」
「だからなんなんだよテメー!」
食いかかる鎌瀬を無視し、市村は携帯電話を取り出して番号を入力する。それは――警察の電話番号。
「もしもし、警察ですか?」
そう、ここに鎌瀬がいたことを知ってか知らずか警察に通報するつもりだったのだ。その瞬間――鎌瀬は目の前が真っ暗になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、健とアルヴィーは話も聞かずに襲いかかってきたツチグモとジグモ――二体のクモのシェイドと戦っていた。眷属を前にしてまり子は未だに立ち尽くしたまま――。
「らァァァァ!」
「ぐっ!」
ツチグモが跳躍し、落下する勢いで蹴りを繰り出す。蹴りが直撃し、健は地面を転がる。
「健ッ」
追撃を加えようとするツチグモをアルヴィーが制止、サマーソルトを浴びせてツチグモをのけぞらせる。起き上がった健の口元がほころぶが、直後ジグモが健にカギ爪を振りかざす。
「ハァッ! でぇい!」
「うぇッ! うぇぇぇぇッ!!」
二回連続で斬りつけられ、ジグモが転倒。紫の血が流れる。
「ジグモ! くそぉ!」
ツチグモがアルヴィーの周囲を跳ね回り撹乱、彼女を飛び越えて回り込む。背後からアルヴィーを殴り飛ばした。
「ッ……なかなかやるな、お主」
「ふん!」
ツチグモが左の手の甲から糸を飛ばしアルヴィーの体に巻き付ける。
「くっ!」
「うりゃあああ」
そのまま大きく弧を描き、地面へ叩きつける。アルヴィーはうめき声を上げた。
「アルヴィー!」
健がアルヴィーに駆け寄る。アルヴィーは起き上がり、健に「気を抜くな、相手は何を仕掛けてくるかわからん」と声をかけた。
「話してる場合かぁ!?」
「くぅーもぉー!!」
ツチグモが二人を挑発しながら飛びかかる。ジグモは奇声を発しながらカギ爪で地面を掘り、地中へと潜る。
「ちぇい!」
「させるか!」
「なぬ!」
ツチグモが健に殴りかかるが健は盾でパンチを弾き返し、ツチグモが怯んだ隙に攻撃。斜めに横に斬って下から切り上げ、とどめに唐竹割り。ツチグモから紫の血しぶきが上がった。まり子は思わず口を塞ぐ。
「俺にひざまずけ!」
「断る!」
「うぇぇぇぇ!!」
ジグモが高速で地中を動き回り、アルヴィーの眼前に飛び出して攻撃を仕掛ける。取っ組み合いに発展し、アルヴィーがジグモを背負って投げる。大の字で横たわったジグモの顔面に鉄拳をお見舞いした。ジグモの顔面から豪快に血しぶきが吹き出して飛び散る。
「やっ……」
まり子は何も出来ず、その場に突っ立っている。そうしている間にも健とアルヴィー、ツチグモとジグモは互いに傷つけあい血を流している。
「……やめて……」
普段なら健とアルヴィーが悪さをするシェイドを叩きのめしているところを見て喜んでいるところだ。だが今回は違う。相手は己の卷属だ、健とアルヴィーもツチグモとジグモも大切な人である。どちらが傷つくのも嫌だ。よって手が出せないでいる。だが――それでいいのか?
「やめろ……ッ」
言ってしまえばどちらも彼女の味方だ。敵対するものには容赦しないまり子であるが、味方同士で殺し合うことは良しとしない。悩んでいる間にも戦いは続く。ためらっている場合ではない、この不条理な戦いを止めなくてはならないのだ。まり子が抑えていたものが今にも溢れ出そうとしている――。その瞳が紫色に光り、歯を食い縛って顔を上げる。
「……やめろォォォッ!!」
「うううッ!?」
「おごぉぉぉォォォ!?」
――やり場のない怒りと悲しみが爆発し、慟哭。特殊な波動をその身に受けたようにツチグモとジグモの体が急に固まり、動かなくなる。まり子が右手を震わせて掌をかざすと身動きがとれなくなったツチグモとジグモの体が、まり子のもとに引き寄せられていく。
「まり子ちゃん!?」
「まり子!」
突然唸りを上げた彼女を見て動揺する健とアルヴィー。体がすくんで動けない――。
「うおあああああッ!!」
唸り声を上げながらまり子がツチグモの首を掴み持ち上げる。ジグモはまり子の傍らで硬直したまま、うめいているのみで動かない。
「ま、まり様、何を……!」
「どうして相手の話を聞かないの、この……利かん坊ッ!」
息を荒げツチグモに問いかけるまり子。瞳は紫色に光ったままで怒りに満ち溢れている。
「昔からそうよね……頑固で融通が効かなくて!」
「お、ごおおおぉ……!」
まり子は怒りに身を任せてその手でツチグモの首を強く握りしめていく。このまま殺すつもりなのか――?
Q&Aコーナー
Q:なぜまり子は眷属の二体をさっさと止めなかった…
A:久々に会ったから動揺していたんです。仕方がない。
Q:買った下着どこ行った
A:その辺に落ちてると思いますが…。
Q:『スナグモ』はいないの?
A:修羅の国に行けばイヤでも会えるんじゃないかな