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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第10章 嵐のあとには
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EPISODE185:託された力


 烏丸との戦いでダメージを負った健と葛城は、アルヴィーとみどりの手で至急保健室へと運ばれた。受けた傷は葛城の治癒能力である程度治せたが、それでもダメージは大きく結局保健室の世話となる形になったのだ。保健室に入った健たちは、白峯に何があったのかをすべて話した。

 『聖域』と呼ばれる場所に風のオーブが置いてあったこと、烏丸が『高天原の死神』であったこと、その烏丸にみゆきをさらわれたこと――。ただ、白峯は、「外が騒がしいとは思ってた」と語っていたことから、戦いがあったことをある程度認識はしていたと思われる。

 保健室ではベッドに健と葛城が入っていて、アルヴィーやみどりは立っていた。白峯は現在二人の手当てを行っている。二人のベッドはすぐ隣同士だ。葛城は幸い軽傷で済んだが、身を張って彼女を烏丸からかばい続けた健が受けたダメージは大きく、包帯を頭や胸など身体中に巻いていた。


「そう、そんなことが――しかし、あなたたち二人とも本当に無茶なことするよね」


 綿に消毒液を吹き付け、ピンでつまんで健の左腕に開いた傷口に当てる白峯。いつもいつも無茶な戦いをする健を咎めるような一言だ。


「けど、そういうところカッコいいわよ」

「へへ、人を守らなきゃエスパーじゃありませんからねっ……ってイテテ!!」


 にっこり笑う健。直後傷口に消毒液が染みたか、情けないうめき声を上げた。


「ほら、安静に! あとここだけだから、ジッとしてなきゃ治んないわよー」

「はっ、はーい」


 消毒を終え、白峯は健の左腕の傷口にガーゼを貼る。日頃から怪物や悪と戦う戦士であるためか、エスパーは常人より傷の回復が早い。これだけ手当てをすればあとは寝れば治るであろう。


「これでオッケーよ! ただし、明後日までは安静にしてね。とくに東條くんはただでさえダメージがでかいから」

「はい、ありがとうございます!」

「白峯先生、今日は本当にありがとうございました。先生のおかげで助かりましたわ」


 満面の笑みで白峯に礼を言う健と葛城。「別に大したことしてないわよ」、と、白峯は照れながら笑った。


「それにしても……思ってた以上に深刻な事態になっちゃったわね。あの烏丸先生が実は連続殺人犯で、みゆきちゃんもさらわれちゃって、それで風のオーブも……」


 彼女がそう語り出すと、とたんに空気が真剣なものへと変わった。穏やかだった一同の表情も険しく、暗くなっていく。


「これには、使い方次第で都市を一個まるごと壊滅してしまうほどのパワーが秘められているそうなんですの」

「知らなかった……。そんなに恐ろしいパワーが秘められてたなんて」


 葛城が左手に握った風のオーブを皆に見せてその中にある秘密を語り、緊迫感はより高まる。元々部外者である為仕方なかったのだが、眠っている場所を探り当てた白峯でさえも風のオーブの恐ろしさはわからなかった。もちろん、健やアルヴィー、みどりにも。


「だから隠し場所を誰にも話さなくて、誰にもオーブ渡そうとしなかったのね。そうとも知らずにここに来ちゃうなんて、私たちなんだか悪者みたい……」

「……え?」


 白峯と会話している最中、葛城が疑問符を浮かべる。そして、今まさに疑問を口にしようとしていた。


「もしかして、白峯先生も東條さんやアルヴィーさんのお仲間だったんですか?」

「うん、そうなの。騙したりして、本当にごめんね」


 起立した白峯が申し訳なさそうに接しながら、葛城とみどりに頭を下げる。アルヴィーも立ち上がって同じように謝った。


「僕たち、ここまで悪いことしにきたつもりじゃなかったんだ。葛城さんもみどりちゃんも……本当にごめんね」


 すぐには立てないため、ベッドに座りながら健も二人に謝罪。健もアルヴィーも白峯も、申し訳なさそうな気持ちでいっぱいだった。やはり、軽い気持ちで来るべきではなかったのだ。


「……健さんたちは何のために、風のオーブを手に入れようとお考えになられたのですか?」

「倒さなくてはならない敵がいるんです。それも、ちょっとやそっとじゃ倒せないようなのばかり」

「敵……。それはエスパーですか、シェイドですか?」

「シェイドです。それも、上級クラスの手強いやつばかり……」


 なぜ風のオーブを求めてここまでやってきたのかを打ち明けた健。衝撃を受けた葛城やみどりは、きょとんとした顔を浮かべた。


「ホント? それってすごく、ヤバイんじゃ〜……?」

「そう、すべて事実だ。日増しに上級以下のシェイドも強くなってきている」


 日に日に敵は強くなりつつある――。葛城やみどりにもそのことを真剣に語るアルヴィー。葛城はともかく、戦いには無関係なみどりにも語ったのは、もう隠す必要はないと思ったからだろう。


「そいつらに勝つためにはもっと特訓して、新しい力を手に入れて、また特訓して……」

「それで風のオーブを?」

「うん」


 ――風のオーブを求めてこの地にやってきた健たち。彼らからだいたい事情を聞いた葛城は顔をそむけ、複雑な表情を浮かべる。


「か、葛城さん?」


 急にどうしたのだろう、と、気になった健が声をかける。


「東條さん。あなたは何のために戦っていらっしゃるのですか?」

「……エスパーになる前、シェイドに殺されかけたんです。アルヴィーが来てくれたおかげで助かったんですけど、本当に怖かったんです。……それで、思ったんです。人を守りたいって、誰にも恐怖を味わわせたくないって、みんなの笑顔を守りたいって」

「そんなことが――」


 葛城にエスパーになった経緯を語る健。気楽そうな彼だが、中身はあのときからずっとぶれてはいない。戦う動機も一貫して『人を守りたい』、ただそれだけだ。


「――人々を守る。エスパーとして当然の義務ですわ。けれど、いいことだと思います」


 そう呟いて少し経ってから葛城は振り向き、


「承知しました。あなたにこれを託します」


 風のオーブを持った左手を差し出した。


「えっ……い、いいの、もらって? 守らなきゃいけない、大切なものじゃないの……?」

「使うのも烏丸先生に渡すのも、生かすも殺すもあなた次第ですわ」

「けど……そんな大事なものもらえないよ!」


 困惑する健は託された風のオーブを受けとることを拒否する。葛城の思いきった行動には健だけではなく周囲も動揺しており――。


「し、しかし葛城殿……それは誰にも渡してはいけないものだったはずだ。我々が受けとるわけには」

「いいんです。理事長にはわたくしからお話ししておきます。『聖域』の扉も傷が治りしだい閉じに行きます」

「けど、やっぱり……」


 風のオーブが危険なものだとか、誰にも渡してはいけない大事なものだとか、下手すれば街を破壊しかねないほどのパワーを秘めているだとか――そういう話を散々聞いたあとだ。アルヴィーと白峯が遠慮するのも無理はない。そんなとき――。



「なんでみんなそうやって突っぱねるの!?」



 突然、みどりが叫んだ。謙遜し続ける健たちを見てじれったく感じたのか、それまで抑え込んでいた感情が爆発したのだ。


「み、みどりちゃん」

「あずみんはそれだけ東條くん達を頼りにしてるんだよ? 信頼してくれてるんだよ? なのに、なんで突っぱねるの!?」


 涙を流しながら、みどりが自分が思っていたことをぶつける。女の子が泣く姿はあまり見たくない。それは見ていて辛いから、やるせない気持ちになるからだ。健はそういう考えを持っていた。――普段からスケベなのは、女の子には優しくしなければならないと思っていて、それの裏返しだからだろう。


「東條くんも白石先生も、白峯先生も! みんな友達じゃないの!? 少しはあずみんのことも考えてあげてよ!」

「……ご、ごめん……」


 健が頭を下げる。アルヴィーと白峯も彼に続いてみどりに頭を下げた。


「落ち着いて、みどりさん」

「え……?」

「そんなに泣かなくていいのよ。あとはわたくしで話をつけますから。だから、泣かないで」

「……うん」


 泣きじゃくる親友にそう言い聞かせ、優しく微笑む葛城。そのまま健に向かって、「烏丸先生を止めるためにも今は力が必要です。どうかお受け取りください」と、彼に懇願する。


「いや、でも葛城さん……」

「もうッだらしない! うじうじ言わないでください!!」


 受け取ろうとしない健に憤ったか、立ち上がった葛城は健の左手を無理矢理つかんでオーブを無理矢理手渡した。――蛮行だ。アルヴィーや白峯は思わず止めようとしたが、間に合わなかった。もっともここで彼女を止めても、何も意味はないのだが。みどりはそのことを理解していたのであえて何もしなかった。


「……確かに託しましたからね?」

「ど、どうも……」

「街ひとつを破壊しかねないほどの力をお渡ししたんです。明後日、必ずやみゆきさんを救いましょう!」

「はいっ!」


 オーブを渡すと同時に健に贈った激励と誓いのの言葉。ようやく決意が固まった健の表情は曇りから転じて、清々しく晴れた。親友を想うゆえに泣き叫んだみどりも、悪いことをしたと申し訳なく思っていた白峯とアルヴィーも。みんな笑った。



(……しかし、神宮司高原か。まさかまたあの地に向かうことになろうとはのぅ)


 ――笑っていたアルヴィーだが、ふと表情を硬くする。どうやら何かを振り返っているようだが――果たして、過去に神宮司高原で何が起きていたのか。


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