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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第10章 嵐のあとには
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EPISODE184:魂を刈るもの


 『聖域』の外――学園の敷地へと飛び出した健と葛城は烏丸とぶつかり合っていた。現在、風のオーブは葛城がその手に持っている。なんとしてでも奴の手から守らなければならない。もし負けてしまえば――待っているのは『死』だけ。戦いというのは遊びではない、立派な命のやり取りなのだ。


「ハッ!!」


 烏丸が左手から真空波を巻き起こす。葛城をかばう形で健は盾を前方に構えて踏ん張った。彼はなんとしてでも烏丸から葛城を守らなければいけない。風のオーブを奪われてしまうだけでなく、葛城の命をも奪われかねないからだ。彼の決意は硬く揺るがない。


「生徒が先生に楯突くとは笑わせる! いや、そもそも君は生徒ではなかったね? 東條健ッ!」


 大鎌を掲げ烏丸が全速力で駆け寄ってきた。長剣を携え、健は烏丸を斬りつけてつばぜり合いへと持ち込む。金属と金属がかち合って火花を散らし、戦いはより白熱する。両者とも一歩も譲らない。どちらかといえば――健と葛城の方が劣勢だ。戦闘能力は烏丸の方が圧倒的に高く、二人を上回っている。


「これ以上葛城さんに手を出すな!」

「君たちがさっさと風のオーブを手放せば済む話だ!」

「渡すもんか!」

「ちぃッ!」


 つばぜり合いに打ち勝ち、健は跳躍しながらの唐竹割りを繰り出す。烏丸は唐竹割りをすばやくかわすと大鎌をボウガンの形に変形させ――葛城に狙いを定めた。


「食らえ!」


 烏丸のボウガンから、圧縮された空気の矢が次々に放たれる。すべて葛城に向けて撃たれていた。この命に懸けてもオーブを守らなくては――と、葛城は前に出てレイピアを構える。バラバラに放たれた空気の矢をすべて――目視できないほどのスピードで突いて落とした。


「っふ、お見事……。だが、これはどうだ!」


 ――これが彼の狙いだった。バラバラに放った矢をすべて落として油断しきったところに、巨大な空気の矢を放って葛城を殺そうという算段だったのだ。


「……しまった!」


 気付いたときにはもう遅く――巨大な風の矢は葛城の眼前に迫ってきていた。


「危ないッ!!」


 しかし盾を構えた健がとっさに踏み込み、巨大な風の矢から葛城を守った。防いだ反動は大きく――健はその場に立ちすくむ。


「やはりしつこいな。何が君をそうさせるんだい?」

「誰かを守りたい、それだけです! 人をシェイドから守らないなんてどうかしてるっ!」

「そうかそうか……フハハハハッ!!」


 ひた向きに自分の思いを口に出した健を、烏丸が嘲る。


「何がおかしいんです!?」

「逆に聞きたいね。何故そうまでして赤の他人を守ろうとするのかな?」

「僕は誰かが苦しむ姿を――誰かが恐怖におびえる姿を見たくないんだ!」


 烏丸と斬り合う健。相手はやはり機敏に動き、やみくもに斬りかかったところで命中などしない。


「炎で行くか!」


 赤いオーブを取り出し、長剣――エーテルセイバーの柄に装填。一瞬にしてシルバーグレイの長剣は赤く染まり、黄色のラインが刀身に走る。そして紅蓮の炎をまとった。


「ふーん……今のが噂に聞くオーブの力かい?」

「そうです。これであんたを止める!」


 炎をまとった剣で烏丸を斬る。火が烏丸に燃え移り、体を回転させて揉み消そうとする。その隙を突いて葛城が烏丸を突き、そこから切り上げる。健は跳躍し烏丸を斬って地面に叩き落とした。


「ナイス、葛城さん!」


 宙を舞い、着地した健がニッと笑い親指を上に突き立てる。サムズアップ――というものだ。


「いえ、あなたもナイスでしたよ!」

「それはどうも!」


 声を掛け合う葛城と健。直後、烏丸が起き上がって右手に大鎌を携えて力を溜め――。


「せやああああぁ!!」

「うあっ!」

「きゃあっ!」


 大きく鎌を振りかぶって突風を巻き起こし、健と葛城を吹き飛ばして離ればなれにする。烏丸にとってこれはまたとない好機(チャンス)。ニヤリと笑うと大鎌を掲げて瞬間移動し――葛城の前に立つ。


「ッ……」

「ハハハハハ!! そろそろ観念したらどうかな?」

「か……葛城さん!!」


 風のオーブはもはや目前。葛城を倒せば、今この場で瞬く間に自分のものとなる――! 烏丸が、勝ち誇ったかのように笑った。


「やめろ! 葛城さんに手を出すな!」

「ええい、うっとうしい!!」


 長剣を携えて少し屈みながら全力で走り、烏丸を止めようと斬りかかる健。振り向きざまに、烏丸はその凶刃を振るい――血しぶきが宙を舞った。目を丸くした健が地面に叩きつけられ、更にそこへ烏丸が鎌鼬を放って追い討ちをかける。――健はあえなく、返り討ちにされたのだ。


「ハッハッハッハ! 君の友達は、もう君を助けてくれないようだぞ?」


 血だまりが出来た。その真ん中には傷だらけで倒れ、苦痛にあえいでいる健の姿。血を流した健を笑う烏丸の姿は、まさに残忍冷酷な死神そのものだった。


「そんな……東條さんッ!」


 仲間が痛め付けられた光景を見て、いたたまれなくなった葛城が叫ぶ。――健は、自分を省みずに葛城を、風のオーブを守ろうとしていた。それだけ必死だったのだ。自分が手に入れたいからか、それともただ単に烏丸の非道を許せなかったのか。彼女がそれを考える暇も無く、烏丸は大鎌を振りかざす。バックに宙返りして、ときに攻撃を弾いたりして凌ぐも――壁際へと追い詰められてしまう。こうなればもう逃げられない。


「……へぇ。まだ僕にあらがうのか?」


 壁に大鎌を突き立てて脅すように、烏丸が呟く。


「往生際が悪いね、君。男も女もしつこい奴は嫌われるよ」

「何度も言わせないでください。あなたのような方にお渡しするわけには――」


「ならば、奪ってやる! 殺してやる! 破壊してやるッ!! 君の大切なものすべてをねッ!!」


 葛城の言葉を遮るように烏丸が雄叫びを上げた。その歪んだ表情には、冷静沈着で聡明なイケメン教師の面影などもはや残っていなかった。


「それが嫌なら、おとなしく先生の言うことを聞きなさい。いい子だから……」


 眉をしかめ、唇を噛み締めている葛城の顎を手にとる烏丸。いつもの爽やかなものとは明らかに違う、何かを企んでいそうな怪しい笑みだ。しかし、葛城はここまでされても断じて渡そうとはしなかった。屈しなかった。



「烏丸ッ」


 そこに響くハスキーな女性の声。顔を険しくし、壁に突き立てていた大鎌を抜くと――烏丸は声が聴こえた方向に振り向いた。


「白石先生――あなたも僕の邪魔をするんですか」


 次から次へと邪魔が入ることに辟易した様子で、烏丸。気だるげでため息が今にも聴こえてきそうだ。


「いや……こういうべきだったかな? アルビノドラグーン」

「どうでもいい。……これ以上、健と葛城殿に手を出すな」


 みどりとみゆきの前に立つアルヴィーを見て、「ふん」と、烏丸が鼻息を鳴らす。


「そうしたいところなんですが……この子達が思ったより強情でね」


 烏丸は悪意に満ちた笑みを浮かべ、そのまま地面に倒れている健を踏みつけ、腹を蹴っ飛ばして転がす。


「健くん!?」

「東條くん!?」

「健ッ!」


 傷だらけの健に駆け寄る、みゆき、みどり、アルヴィー。自分をかばい続けて負傷した彼や駆けつけてくれたアルヴィーたちを葛城は見過ごせず、走りながらすれ違いざまに烏丸を一閃。健たちから遠ざけた。


「葛城さん!」

「本当に無茶がお好きなんですね、東條さん」

「ま、まあ……」


 長剣を杖がわりにして立ち上がる健。彼を皮肉った葛城も、頬に傷が出来ていた。一方の烏丸には目立った外傷はあまり見られない。口から血が出ていたり、頬に傷口が開いていたりはしたが――。


「わからないね。風のオーブならまだしも、他人を意固地になってまで守ることに価値があるのかい?」


 そう言って健たちのやり方を否定する、烏丸。左手の指をパチン! と鳴らすと――周囲に強い風が吹き始める。


「な、なんだ!?」


 今にも健たちを吹き飛ばさんばかりの強風。腕を前方に構えるなどして耐えるみゆきやみどりを、前にいる健やアルヴィー、葛城が守り通す。――やがて、空からけたたましい雄叫びと共に巨大な怪鳥が舞い降りてきた。

 緑色を基調とした渋くて鮮やかな色彩の羽毛に、身につけた甲冑。眼光鋭い赤い眼。そして八〜十メートルはあろう巨体。人が飛び乗れそうだ。まるで――緑色の鳳凰のような姿だ。その威圧感から、健たちを震撼させることなどわけはなかった。


「きょ、巨大な――鳥……?」

「やれ!」


 竦み上がった健を気にも留めず、烏丸が緑色の鳳凰のようなシェイドに指示を出す。鳳凰のようなシェイドは大きく羽ばたいて風を巻き起こし――それは瞬間的に竜巻を巻き起こした。驚く健と葛城を巻き込んで、二人を空中へと打ち上げていく。


「健くん!?」

「あずみん!?」


 アルヴィーに守られる背後でみゆきとみどりが叫ぶ。


「はああああああッ!!」


 烏丸は空高く跳躍。竜巻に打ち上げられた健と葛城を鎌で切り上げ、または切り下ろすとパートナーである鳳凰のようなシェイドの背中に飛び乗り――そのまま急降下しながらの体当たりをお見舞いした。


「うわああああああッ」

「ぅあああああああッ!!」


 刹那、空中で大爆発が起きる。二人は爆風の勢いでそのまま地面へと叩きつけられ、苦痛にあえぐ。


「こんなものか」


 鳳凰のようなシェイドが着陸し、烏丸はその背中から飛び降りる。


「ここで君たちを倒して風のオーブを手に入れることは容易いが、それでは面白くない」


 怪しい笑みを浮かべ、右肩に大鎌を担ぎながら闊歩する。何を思ったか、その視線をみゆきに向けると――瞬間移動すると同時に彼女を抱き抱えて鳳凰のようなシェイドの背中へと移動。



「イヤぁ! 離してぇ!!」

「な、何をするんです!?」


 健が起き上がり烏丸に向かって叫ぶ。片目を瞑っていて痛々しく、いや懸命だ。


「東條健、葛城あずみ! 明後日の九時、風のオーブを持ってこの街の北東にある神宮司高原(じんぐうじこうげん)へ来い。そこで君たちを試してあげよう!!」

「なにっ!?」

「何の真似です、烏丸先生!」

「フハハハハッ! 待っているぞぉ!」


 烏丸がそう言ったのを合図に鳳凰のようなシェイドが羽ばたく。「健くん! みんなあああああああぁぁぁ!!」と叫ぶみゆきだったが、その叫びもむなしく鳳凰のようなシェイドはそこから飛び立った――。



「そ、そんな〜。みゆきちゃん……」

「みゆき……」


 空を見上げて立ち尽くすみどり、地面を叩いて悔しさに唇を噛み締める健。複雑そうな顔を浮かべて風のオーブを握りしめた左手を見つめる葛城、悔しさから拳を握りしめるアルヴィー。――みな、辛かった。信頼をよせていた教師が連続殺人犯だった上に大切な友達をさらわれてしまったのだ。気が沈んでしまうのも無理はない。


「みゆきぃぃぃぃぃぃッ!!」


 天に向かって健が叫び声を上げる。――その叫びには烏丸の非道に対する憤怒と、みゆきを守れなかった悲しみが入り交じっていた。もっとも彼女がさらわれてしまうのは良くあることではあるが、決して笑い事ではないのだ。彼らの様子を見ればよくわかる。



 命を懸けてでも守らなければならない大切な人がいる。もし大切な人を失えば、健はどうなってしまうのだろう?


Q&Aコーナーですが、何か。


Q:烏丸のパートナーの名前は?

A:シルフィードです。フレスヴェルグとかガルーダとか、シャンタクとかの方が良かったかな?


Q:烏丸強すぎ

A:別にいいじゃない。


Q:トバりもんは?

A:急いではことを仕損じる


Q:『急いては』でしょ?

A:さっきのはわざとです。

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