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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第10章 嵐のあとには
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EPISODE183:決断のときは来た


「ウソだ! 烏丸先生が『高天原の死神』だったなんて……!」

「っていうことは、烏丸先生が連続殺人を!?」


 犯罪者だけを狙う連続殺人犯、『高天原の死神』。その仮面の下に隠された正体は、こともあろうか烏丸元基だった。あの聡明で生徒たちからも慕われていた彼が、何ゆえ――?


「烏丸先生がそんなことするはずないよ。何かの間違いだよ! 先生、そうですよね!?」

「残念だけどね……これは事実なんだ」


 烏丸が『死神』であることが受け入れられず錯乱するみどり。彼女を前に烏丸はあくまで冷静に振る舞い、祭壇から降りると同時に――目にも留まらぬ速さでみどりのもとに移動。一瞬の出来事だった。


「キャッ!?」

「さあ、立ちなさい!」


 恐怖から腰を抜かしていたみどりを無理矢理立たせると、烏丸は大鎌をその右手に召喚。みどりの喉元に刃をあてがった。


「みどりさん!」

「烏丸先生、みどりちゃんに何する気です!?」

「まさか……やめて!!」


 葛城が、健が、みゆきが叫ぶ。まさか烏丸はみどりを殺すつもりなのか。犯罪者のみならず、自分の教え子にまで手をかけようというのか?



「自分の命より友達の命を心配するのかい? 美しい友情だね。その友情が本物かどうか、僕がテストしてあげよう! 風のオーブを持ってきたまえ。妃さんの命と交換だ!」

「貴様……この期に及んでふざけた真似を!!」


 烏丸はどうやらみどりの身柄と引き換えに風のオーブを手中に収める算段をしていたようだ。あまりにも狡猾、あまりにも非情。そんな烏丸を前にアルヴィーが憤る。


「それが出来ないなら、妃さんには死んでもらう」

「やめて、渡しちゃダメ! あたしのことはいいから……」

「さあ、どうするね?」

「……ッ……」


 烏丸はハッキリみどりを殺すと言ってきた。奴はもはやなりふり構わないのか。烏丸に風のオーブを渡さなければみどりの命は刈り取られる。だが、風のオーブは決して渡してはならないもの。大切なものだ。だが、だからといってみどりを見捨てるわけにもいかない。――究極の選択だった。二つにひとつ、どちらかを捨てなければどちらかを得ることは出来ない。少し悩んだ末に、葛城は――。


「……風のオーブをあなたに渡せば、みどりさんを解放してくださるのですね?」

「ああ。僕は約束は守る主義だからね」

「……承知しました」


 ――友を救うためなのか、それとも何か他に考えがあるのか? あれだけ風のオーブを誰にも渡すまいとしていた葛城が、烏丸の要求をあっさりと承諾してしまったではないか。


「葛城さん、ダメだ! あいつに渡したりなんかしたら……!」

「そうだよ! 烏丸先生は約束を破るかもしれないのよ!」

「何故なんだ、葛城殿! これは奴がしかけた罠だ!!」


 葛城に健やみゆき、アルヴィーが問い詰める。切羽詰まった状況で白石として演技をしていられないからか、アルヴィーの口調はいつもの古めかしいものになっていた。しかし、葛城は焦燥を覚えた三人に、「大丈夫です。わたくしにいい考えがあります」と呟いた。いったい何をしようというのか?


「何をごちゃごちゃと……。早く持ってきなさい!」

「あずみん、やめて! 烏丸先生の言う通りにしないで!」


 血迷った親友を止めようとみどりが叫ぶ。そんなみどりの悲痛な叫びに耳を傾けず、葛城は祭壇の階段を登る。台座に置かれていた、ビー玉からピンポン玉サイズの緑色の宝珠――。風のオーブを前にして葛城は立ち止まった。


「――気が変わったのか?」

「あずみん……」


 多数を救うためにひとりを犠牲にするのか、ひとりを救うために多数を犠牲にするのか――。


(……どちらかひとつだけだなんてとても選べないわ。みどりさんも、みんなも――)


 ――守護者としてこの『聖域』を守ってきたが、何だかんだで非情には徹することは出来ない。ましてや親友を見捨てるようなことなど――出来はしない。


(わたくしはどちらも守ってみせる!!)


 その左手で風のオーブを掴み取り――、硬い決意と共に力強く握りしめた。果たしてどうするつもりなのか。祭壇から降りた葛城は、皆から視線を浴びる中烏丸のもとにゆっくりと歩いていく。


「フフフ……。どうするか決めたようだね」

「ええ」


 妖しく笑う烏丸。対して葛城の表情は凛としていて、硬い。


「いい子だ。さあ、オーブを……」



 まだか、まだか――そう言いたそうな烏丸を見上げると、葛城は左手に持っていた風のオーブを見せる。透き通っていて、吸い込まれてしまいそうなエメラルドグリーン。その中には風が渦巻いている。


「おお、美しい。早く僕に……」

「……あなたのような方に渡すぐらいなら……」


 だが、葛城は烏丸に風のオーブを渡すことを拒んだ。


「こんなものッ!!」

「何をするんだ? やめろ、やめろ!」


 それどころか左手を振り上げて、守るべきものを破壊してしまおうとしたではないか。血迷った葛城を見た烏丸は取り乱し、人質にしていたみどりを離した。――そこで葛城は口元を綻ばせ、


「……今です!」


 健たちに振り向き叫んだ。立ち上がった健は全力で走り、みどりを捕らえていた烏丸の懐に向かう。


「みどりさんを返せ!!」

「ぐぅッ!!」


 思いきって烏丸に体当たりして、転倒させる。そばに立っていたみどりに振り向くと、「もう大丈夫だ」と優しく微笑んだ。


「東條くん……それにみんなも、ありがとう」

「へへ、僕は何もしてないよ。お礼なら葛城さんに言って」

「うん、そうだよね〜!」


 恐怖でひきつっていたみどりの顔に明かりが戻る。みゆきやアルヴィーに、葛城もつられて微笑んだ。


「……葛城ぃ……」


 そのとき、歯を食い縛りうめきながら烏丸が立ち上がる。ようやく見付けられたお目当てのもの――それを目前にしても手中に収められなかったことへ対する激しい怒り。彼の表情はそれに満ちていた。


「いい加減にしてください、烏丸先生。風のオーブも、この学校の皆さんも……あなたの好きにはさせませんわ」

「君は強欲だな。どちらも守ろうというのかい? ……ハハハハハハッ!!」


 葛城と対峙する烏丸。突然狂気じみた高笑いを上げると、その左手を震わせて突風を発生させる。とっさに吹いてきた突風を防ぎきれず、葛城はまんまと吹き飛ばされた。


「葛城さん!」

「あずみんッ!」

「……ッ」


 壁に叩きつけられてひるんだ葛城に、健たちが駆け寄る。みどりとみゆきの前には、二人を守るように健とアルヴィーが立っていた。歩み寄る烏丸を迎え撃つ為に、健は長剣と盾を構え、アルヴィーはその両手を龍の爪を生やした手甲へと変える。


「――人の猜疑心(さいぎしん)というのは本当に恐ろしいものでね。一度疑えば最後、誰も信じられなくなるんだ。そんな状況でも友達を信じ続けるだなんて、実に素晴らしいことだよ」


 笑いながら烏丸が語りかける。片目を瞑って苦しそうにしながら、葛城は立ち上がってレイピアを鞘から抜く。


「だが、それと僕の邪魔をしたことは別だ。悪い子にはお仕置きをしなくてはね!」

「ッ!」


 烏丸が大鎌を振るう。バックに宙返りしてかわし、葛城は突きで反撃。烏丸は突きを弾き、大鎌を軸にして鋭い蹴りを繰り出す! 蹴っ飛ばされて転倒した葛城に追い討ちをかけようと、瞬間移動で一気に近寄りその凶刃を振りかざそうとするが――。


「葛城さん!」


 寸前で健が盾を構えて烏丸の斬撃を弾く。ひるんだ隙を突いて健は烏丸を斬りつけ、葛城はそこに斬りと突きを連続で繰り出した。


「ぬがァァァ!」


 血を流しながらのけぞる烏丸。メガネ越しに鋭い目で健と葛城を睨み付けると腰を深く落とし――大鎌を構えて一気に飛び出す。


「うおおおおおぉぉぉ――――ッ」

「あああああぁぁッ!!」

「ぐわああああ!!」


 突進してきた烏丸に突き飛ばされた健と葛城、二人を追うように烏丸は瞬間移動する。二人が突き飛ばされた先は、扉の向こう。つまり――『聖域』の外にある学校の敷地だ。


「大変! 東條くんもあずみんも、烏丸先生も外に出ちゃった!」

「まずい……。風のオーブは葛城殿が持ったままだ。このままでは危険だ、二人の身が危ない!」


 焦燥するみどりの前でアルヴィーが両手を元に戻す。彼女が言うように風のオーブは葛城が持ったまま。更に健と葛城が烏丸にやられてしまえば風のオーブはそのまま奪われてしまう。


「は、早く外に出ようよ!」

「でもみゆきちゃん、その前に『聖域』の扉閉めなきゃ!」


 じたばたして焦るみゆきとみどりが言う通り、『聖域』と人間界を繋ぐ扉は開きっぱなしだ。開けるときと同様、扉を閉じられるのは『聖域』の守護者である葛城だけ。その葛城は今は交戦中なのだ。閉じることなど不可能。


「だったら、あとで葛城殿に閉めてもらえばいいだろう。私たちも外に出るぞ!」

「し、白石先生〜……さっきとしゃべり方違うような」

「今はそんなことを考えている場合じゃない!」


 しゃべり方について指摘したみどりに対してアルヴィーが一喝。みゆきとみどりも思わず肩が震えるほどの気迫だ。まあ、この緊急事態でそんなどうでもいいことを聞かれたら怒鳴りたくもなるだろう。


「……ほら、行きますよ!」

「はい〜っ」


 ――みゆきとみどりを連れてアルヴィーが走る。風のオーブを懸けた烏丸との死闘。戦いの女神はどちらに微笑むのだろう? 戦いはなおも続く。


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