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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第10章 嵐のあとには
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EPISODE181:不吉の予兆


 葛城が白石先生(※アルヴィーです)に相談に乗ってもらっていたときに、健たちは何をしていたのかというと――。


「風のオーブぅ?」

「うん、それについて何か知らないかな?」

「一応聞いたことあるけど、そんなの伝説じゃないの? 実在してるわけがないし、そもそも見たことない」

「えっ……」

「ただの噂話を信じてるなんて、君にはちょっとガッカリだな。悪いけどそーいうことだから、他を当たってくれないかな」


 ――この学園のどこかにあるとされている風のオーブ。それの手がかりについてクラスメートに訊ねるも、手がかりに関する情報は聞けなかった。学生生活を楽しんでいた健たちだったが、そろそろ遊んでばかりもいられなくなってきたのである。そう、探さなくてはいけないのだ。ここへ来た目的であるブツ――風のオーブを。


「風のオーブ? んー、ちょっとわかんないな。アレって単なる噂だし、多分どこを探してもないと思うよ」

「そっかー、変なこと聞いてゴメンね!」


 健だけでなくみゆきも聞いて回るも、やはり手がかりは掴めず。だが、この学校の七不思議に関する話はいくつか聞けた。どうやら、風のオーブもその七不思議のうちのひとつのようだ。もっとも、今はものすごくどうでもいい話なのだが……。


「健くん、何か聞けた?」

「いや、何にも。みゆきは?」

「わたしも全然……。もしかしたら無いのかなぁ」

「葛城さんがちょっとナイーブになってるし、風のオーブは見つかりそうにないし、どっちにしても早くなんとかしないとまずいよ……」


 廊下の隅っこで落ち合い、互いに結果を報告する二人。思ったより、いや、思っていた以上に難航している。葛城のことも気になるというのに、こんな調子では何も解決しないではないか。焦燥感を抱く二人だったが、そこに――。


「おや、君たち……どうしたんだい?」


 右側に向かって前髪がツンと伸びた、黒ずんだ緑色の髪。緑色の瞳。メガネとグレーのスーツが良く似合う知的な風貌。――烏丸だ。


「烏丸先生!」

「えっ? あなたが噂の……」

「ははは、僕はそんなに有名人なんだね」


 驚く健とみゆきの前で、烏丸は照れ臭そうに笑いながら頭を掻く。冷静沈着で聡明なだけでなく、気さくな人柄。生徒から慕われているのも納得が行く。


「それで、こんなところで何をしてるのかな」

「じ、実は僕たち探し物してまして。それについてみんなに聞いて回ってたんだけど、なかなか情報が手に入らないんです」

「そう。探し物か……」


 事情を聞いた烏丸が顎に手を当てて思考を巡らせる。やはり頭の回転が早いのかすぐに思考を終わらせ、口元を緩める。


「奇遇だね。実は、僕も探してるものがあるんですよ」

「烏丸先生も、ですか? 何を探していられるんですか?」


 なんと烏丸も探し物があるようだ。それが何なのか知るために、みゆきは烏丸に訊ねる。だが、烏丸は「わるいけど、それはナイショです」、と、微笑みながらはぐらかす。みゆきと健は少し残念そうに、爽やかに笑う烏丸の顔を見つめた。


「……案外、灯台もと暗し、かもね。君達が何を探し求めているかは知らないけど、身近な人に聞いてみたら分かるんじゃないですかね」

「そうだ……確かに! ありがとうございます!」


 烏丸が悩める二人へ助言を授け、二人の顔が明るくなった。悩み事を解決することが出来て、烏丸も満更でもなさそうな笑顔を浮かべていた。やはり爽やかだ。


「烏丸先生、ありがとうございました!」

「ははっ、またおいで。困ったことがあったら、いつでも相談に乗るよ」

「それじゃあ、また!」


 健とみゆきは烏丸に礼を告げ、身近な人――つまり、隣の席にいるみどりや葛城に話を伺うべく教室へと向かい走っていった。廊下は走らない――と警告しようとした烏丸だが、しなかった。止める気など無かったからだ。


「フフ、いい子たちだ。まっすぐで穢れてなくて、何よりギラギラしてる……」


 二人を見送った烏丸は眼鏡を光らせて怪しく笑い、踵を返してどこかへ向かう。不吉な言葉を呟いて。



◆◇◆◇◆◇◆



「あずみんまだかなー、東條くん達もどっか行っちゃったし〜……」


 二年A組。窓側でみどりが心配そうにしながら、葛城や健たちが帰ってくるのを待っていた。窓から射し込んでくる太陽の光が、目を瞑ってしまうほどまぶしい。うとうとしてしまうほど暖かい。


「何も無かったらいいんだけど……むにゅ〜」


 いつしか誘惑に負け、みどりは机に突っ伏してそのまま眠り始めた。今は昼休みだ。寝ても大丈夫。授業の始まりがだんだん音を立てて近付いてきているが、五分前くらいに起きれば問題ない。遅れたのならさっさと準備をすませればいいだけのこと。うたた寝したってバチは当たらない。気持ちよく、さぞ幸せそうに眠るみどりだったが――。


「みどりちゃんッ!!」

「わッ!? た、健くん、みゆきちゃん……おかえり」


 みどりにとって、予想外のハプニングが起きた。驚きざまに目を覚ますと、目の前には鬼気迫る執念を感じさせる表情を浮かべた健とみゆきがいたのだ。しかも何かを訊ねようとしている雰囲気だ。


「いきなりだけど君に聞きたいことがあるんだ!」

「きっ、聞きたいことってなに~?」

「あんまり大きい声じゃ言えないんだけどネ……ひそひそ」


 みどりの耳元に口を寄せて――健が小声で聞きたいことをささやく。言うまでもなく風のオーブのことだ。


「んー……風のオーブかー……聞いた事はあるけど、あたしもあんまり知らないな~」


 難しそうな表情を浮かべて腕を組みながら、みどりは二人にそう告げる。手がかりをつかめず、力が抜けた二人は肩を落とした。


「ただ、その風のオーブと同じものかはわかんないけど……。ちっちゃい頃におばあちゃんからこんな話を聞いたことがあるよ~」

「エッ?」


 気まずげな空気が漂う。二人の役に立てるかわからないが、場を和ませようと――みどりが祖母から聞いたという話を健とみゆきに聞かせてみようと試みた。


「この高天原の町にね、不思議な力を持った緑色の宝玉が眠っている『聖域』があるっていう話なんだけどね~……。そこはすごく綺麗なところなんだけど、硬い『扉』で閉ざされているんだって。しかも、正しい心を持った人じゃなきゃ入れないっておばあちゃんが言ってたんだ~」

「へえ、『聖域』……かー」

「綺麗なんだろうな。僕も、行ってみたいなぁ」

「もし本当にあるなら、あたし見てみたいな~! ちっちゃい頃からの夢だったんだ~」


 ――みどりが祖母から聞いたという昔話は以上だ。この伝承を事実と信じるか、あくまでただの伝説だと笑うか――。しかしながら、こういう夢のある話を「単なるおとぎ話だ」、「そんなものは子供だましだ」、などと笑うようなことは健とみゆきには出来ない芸当。この手の昔話はたいてい本当のことだ。信じてみる価値は十分にある。


「……聖域ですか。わたくしも、そのおとぎ話に出てくる聖域と似たような景色を見たことがありますわ」

「葛城さん!」

「あずみん!」


 みどりから『聖域』に関する言い伝えを聞き終わったちょうどその時だ。凛としていて気品のある声と一緒に、バラ色の髪を一本の三つ編みに束ねた少女が健たち三人の下へと――戻ってきた。そう、葛城だ。葛城が教室に戻ってきた時の時刻は――十二時五十分。暗かった表情も陽が差したように明るくなっていて、可憐で凛々しいいつものすました笑みを湛えていた。


「三人とも、ずいぶん楽しそうですわね。先程はご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした」


 先程、思いつめていたあまり人の好意を拒絶するような態度を三人に対して取ったことを、葛城はお辞儀をして謝罪した。


「あずみん、もう大丈夫なの? 元気出た?」

「ええ、お陰さまで」

「よかった~♪」


 ナイーブになっていた親友が元に戻ったのを見て、みどりはにっこりと笑う。気持ちの切り替えが早いのが葛城の強みだ。立ち直るまでに何があったかまでは知らないが、元気になって何よりである。


「ホント良かった……。あのまま抑えていたものが爆発しちゃうんじゃないかって心配してたんですよ、僕たち」

「何はともあれ、無事でよかったわ!」

「お二方も心配してくださっていたんですね。ありがとうございます」


 再び葛城はお辞儀をする。今度はこんな自分を心配してくれていた健とみゆきに対してのお礼だ。


「ところで葛城さん……、みどりちゃんが言ってた『聖域』について心当たりがあるんですか?」

「正確には、似たような景色を見たことがあるだけですけどね。皆さんさえ良ければ放課後、一緒に見に行きませんか?」

「えっ、いいの~!? どうしよう……!」


 思いきって吹っ切れた様子で、その『聖域』かもしれない景色を見に行かないか――と葛城が三人に話を持ちかける。その『聖域』が何であるか、緑色の宝玉が何の事を示しているか。言いだしっぺの葛城はもちろん知っている。だが、普通はそんなものを見るために連れて行きはしないし誘いもしない。――では何故、この話を持ちかけたのか。それは葛城からみて、健とみゆきとみどり――この三人が信頼に値する人物だからだ。まだ誰が『死神』か特定できたわけではない。だが、白石から教えられたとおり家族や友達ぐらいは信じなくてはいけない。そう思っての行動だ。


「……いけない、授業が始まりますわ! 東城さん、風月さん、みどりさん! 準備はできていますか?」

「は、はい! 今すぐします!」

「わたしも!」

「あたしもだった~!」


 葛城から催促を受けた三人は慌しく、午後からの授業の支度を始めた。――これぞまさに、青春。見ていて微笑ましい光景だ。でも――



 葛城の友を想っての行動が、まさか思いも寄らない事態を招くこととなろうとは誰が予想していただろうか。

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