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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第10章 嵐のあとには
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EPISODE180:信じるものは救われる


 昼休み、葛城はみどり達に「今日は一人で食べたい……」と告げて二年A組から出て行った。三人とも、出て行く彼女の姿を不思議そうに見つめていた。――やはり今日の葛城は様子がおかしい。いったい何があったのか。もしかして理事長に何か言われて落ち込んだのではないか? と、みどりは感付いた。彼女はなんといっても葛城の親友だ。だからこそ何となく気がついたのだろう。


「……はあ」


 校舎の中庭。花壇に色とりどりの花が植えられており、中央には噴水がある。草の壁も印象的だ。そこにあるベンチに座って、葛城は弁当を今まさに食べようとしていた。その表情は――限りなく曇っていてあまり元気が無い。


「みんな楽しそうでいいですわね。でも……いったい誰が敵で誰が味方なのか。わたくしにはそれすらもわからない」


 ――葛城は、風のオーブと『高天原の死神』に関して理事長と話し合った際に言われたことが引っかかっていた。身近な人間が『死神』となって、連続殺人を犯しているのかもしれない。誰が敵で誰が自分の味方なのか? そんな風に周囲に対しての猜疑心が彼女の中に芽生え始めていたのだ。


「……まあいっか。とりあえず食べましょう」


 重箱を開けて中身をつまみはじめる葛城。その中身は伊勢海老にイクラに、それからかやくご飯などなど――定食ばりに豪華なものばかり。どうしてここまで豪勢なのだろうか? 何を隠そう彼女は――葛城コンツェルンのお嬢様。故に大金持ち。だから弁当も定食並みに豪華でおいしいものばかりなのだ。――いつもこんな感じなので、実は彼女は庶民的な味を味わいたいのだ。


「たまにはひとりで食べるのも悪くないですね」


 彼女が言うようにひとりで豪華な昼食を食べ、優越感に浸るのも悪くはない。でもやはり――それはそれで寂しいものだ。前は友達と笑いあって食べていたのに。時たま呆れることもあったが、楽しかった。でも今は誰を信じればいいのか分からない状況である――。


「あら。あなたもしかして、ひとり?」


 そこへ憂いを帯びている葛城に明るく、優しく声をかけた者がひとり。赤い瞳と同色のフレームの眼鏡をかけ、白い髪を束ねた若い女性だ。スーツがよく似合っており――何より、胸がある。


「あなたは?」


 葛城が顔を上げて白髪の女性を見る。落ち込んでいる影響か、彼女の青い瞳はいつもは澄んでいるのに今は少しばかり曇っていた。


「私は教育実習生の白石って言います。よろしくね、二年の葛城さん」

「白石先生ですね。……えっ?」


 教育実習生の白石、彼女はまるで葛城のことを知っているかのようにそう名乗った。戸惑う葛城は重箱をいったん置くと、「し、白石先生……何故わたくしのことを?」と白石へ問う。


「それは、ヒ・ミ・ツ♪」

「ヒミツなんですか?」

「ふふふ。誰だってヒミツはあるの」


 何故白石は葛城のことを知っていたのだろうか。彼女ははぐらかして何も語ろうとしない。


「ところであなたと一緒に食べてもいいですか?」

「わたくしと、ご一緒にですか? ……どうぞ」


 葛城は白石の要求を呑んで自分の隣を少し空け、白石をベンチに座らせる。葛城が重箱で中身も豪華なのに対して、白石の昼食はコンビニで売っている弁当。実に質素で、実に庶民的だ。


「……それ、コンビニ弁当でしょうか? いいなぁ」

「珍しそうに見てるけど、葛城さんどうかしました?」

「いえ、食事が毎日豪華なものばかりなんです。わたくし、たまにはそういう庶民的なものを食べてみたいと思ってまして……」

「へえ。そういえば……葛城さんってお金持ちのお嬢様だったっけ」

「はい、一応」


 弁当の違いをきっかけに、葛城と白石の話し合いが始まる。――もう説明はいらないかも知れないが、実はこの二人は面識がある。以前、『高天原の死神』が夜にこの学園に現れたときのことを思い出してみよう。そのときに健がパートナーとして白い龍のシェイドを引き連れてはいなかっただろうか? そう、白石は――アルヴィーなのだ。でも葛城は、白石がアルヴィーであることにまったく気付いていなかった。



「そうですか――、そんなことがあったの」

「はい……そうなんです。わたくしの身近な人が悪さをしているのではないか、という話を聞きまして」

「それで誰も信じられなくなったってこと?」


 話をしているうちに、『この人になら相談に乗ってくれそうだ、話しても大丈夫だ』――と考えた葛城は、思いきって自分が抱えている悩みを打ち明けた。


「……信じてあげてもいいんじゃないですか?」

「えっ、ですけど……敵も味方も分からないような状況なんです」

「だからこそです。あなたのご家族やクラスメート、それにお友達……信じてあげなくていいの? 人間って、お互いを信じて助け合っていく生き物じゃない。確かに疑うことも必要だけど、だからって人を信じなかったらいざというときに誰も助けてくれないよ」


 猜疑心を抱き、迷う葛城に白石が優しく語りかける。芯が強そうで、まさに頼れるお姉さん、といった雰囲気だ。


「信じるものは救われる。――私から言えることはこのくらいですけど、信じる心を失くしたらダメですよ」

「白石先生……」


 白石アルヴィーに諭されたからか、それまで曇っていた葛城の顔がだんだんと明るくなっていった。まるで暖かい陽の光が、暗雲を追い払ったかのようだ。葛城を諭した本人も鼻が高いというもの。


「いけない、もうこんな時間! 昼休みが終わってしまいますわ!」


 いま何時だろう――と、葛城は携帯電話のカバーを開く。ディスプレイに映ったミニ時計によると、いまの時間は十二時四十五分。――急がなくてはまずい。


「白石先生! 今日は付き合ってくださってありがとうございました」

「ええ、こちらこそ!」

「また、縁があれば!」


 重箱を片付けて立ち上がると、葛城は感謝の言葉と共にお辞儀をした。忘れずに白石も笑顔を送り返し、教室へと急ぐ葛城を見送った。


(――白石先生、お胸の大きい人だったなあ)

(安心してくれたみたいで何よりだ。でも気付いてなかったな……)


 結局葛城は白石がアルヴィーであることに気がついていなかったようだ。アルヴィーの方は彼女がエスパーであることもとっくに知っていたのだが――。

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