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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第9章 死神が住む街
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EPISODE178:会いに来ました


「結局、今日も手がかりはナシ!」

「まあまあ、気楽に探そうよ。せっかくのハイスクールなんだしさ、楽しまないと」

「うん! そうだよね」


 それからはとくに変わったことも事件もなく一日が過ぎ、あっという間に放課後を迎えた。一日を振り返って話をしながら、階段を降りる健とみゆき。

 他の生徒も何人か同じ階段を降りていたが、みなさほど気には留めていなかった。友達同士で話をするのに夢中だったし、何より余計な首を突っ込むつもりなどない。


「そーいや、今日木曜だったね」

「うん。明日金曜日だよ。もう一息だね!」

「木曜はあんまりいいイメージ無いんだよねぇ」

「なんでよー?」

「なんでって。……そりゃあ、しご……」


 下駄箱を出て校庭を歩きながら話をしいている途中、健が唐突に咳き込む。危うく正体をバラしてしまいそうだった――。もう忘れてしまっているかもしれないが、彼らはそもそもこの学園に『潜入』して、どこかに眠る風のオーブのありかを『探りに』来ていたのだ。


「……い、いや、ガッコが終わってようやく休みだ! って思ったらまだもう一日あるってのがヤなんだ」


 焦った素振りで、健がみゆきに語りかける。


「そっかー。毎日疲れるもんね」

「わかってくれた!?」

「でもさ、そんなのだらしないわ。たった一日だけじゃない。一日ぐらい頑張んなきゃ」

「う……」


 わかってないようで、わかっていない一言。だがみゆきが言っていることは正しい。それも否定のしようがないくらいだ。


「明日は、明日の風が吹くー♪」

「わあっ! み、みゆきっ」


 みゆきが健の右手をつかんでスキップをはじめる。健を引っ張ったらそのまま校門を飛び出した。実に楽しそうで何よりである。


「ハッハッハ! まさに青春だな」


 特徴的な前髪をかきあげて、二人の様子を見ていた烏丸がつぶやく。相変わらず爽やかな笑顔だ。


「……僕にも、ああいう時代があったっけねぇ」


 ――かと思えば、急に烏丸は表情を曇らせた。過去に何かあったものと思われるが――果たして、その意図とは。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「ん? みゆき、あれ……」

「あの屋体は!」


 帰宅中、その道中でのことだ。通学路を歩いて十分ほどの地点。その脇に、ある一台の移動屋台が置いてあった。しかも「いちむら」と書かれたのれんが飾られ、すぐ近くには「たこ焼き」と書かれた旗も立てられていた。――間違いない。市村だ。彼もこの街を訪れていたのだ。


「へいへい、たこ焼き1パックやね? ほい!」

「わあっ、おいしそう! ありがとうございます」

「お会計、200円になりますー」


 ――あの口調。あの青い髪と青い目。やはり市村だった。屋体の付近には、「全国を回ったいちむらのたこ焼き、おいしいよー! 今ならなんと200円! 焼きたてやでー!」と、熱心に客の呼び込みを行う若い女性の姿が。市村のガールフレンドの逢坂アズサだ。間違いなくそうだ。


「2パックちょうだい! おれと啓介の分ね!」

「よしキタ2パック! ふたつあわせて400円でっせー」


 友達と来ていた男子生徒から2パックが欲しいという注文を受け、既に作っていた分のパックをふたつ渡す。受け取った男子生徒と友人の啓介は嬉しそうに食べ始めた。もちろん他の客の邪魔にならないように場所を空けて。


「ほな、次のお客さんどうぞー!」

「早よぉ買わな売り切れまっせー!」

「ここで逃したら、次はいつ買えるかわかりまへんでぇ!」

「早いもん勝ちですよー!」


 二人で威勢よく、元気いっぱいに呼び込みを行う市村とアズサ。


「僕にも」

「わたしにも」

「くださいっ!」


 健とみゆきは急に腹が減ってきた。見てるだけではつまらない。ここはやはり――買わなくては。


「オッ! おーっ! キマシタナー!!」

「キハッタワー!!」


 健とみゆきの姿を見て、指差しながら興奮する市村とアズサ。


「すごいや、市村さん! こっちでも繁盛してるみたいですね!!」

「あったりまえじゃあ! 日本各地を回った味やからなぁ! ワハハハハ!!」


 市村が豪快に、誇らしげに笑う。日本各地を回って商売をしていたということは、それだけ売れていた証拠。そのうち世界へ進出するかもしれない。


「アズサさんもお久しぶりです!」

「ひっさしぶりー! 健クンもみゆきさんも、制服めっちゃ似合ってるやん!」


 元気よく笑顔を浮かべるアズサ。健とみゆき、両者の手を握ると、「ささ、遠慮せんと買ってってちょうだい」と、二人を通す。


「ホンマや! アズサの言うとーり、二人ともよぉ似合っとるのう!!」

「え、そ……そうですか?」

「えへへ〜」


 しきりに健とみゆきの制服姿をたたえる市村とアズサのその様子と来たら、まるで誉め殺しだ。健もみゆきも照れながら喜んでいた。来た甲斐も着た甲斐もあったというもの。


「じゃ、じゃあたこ焼き2パックね!」

「あいよ、400円になりますー!」


 こうしてはいられない、早く食べよう。財布をポケットから取り出し、「支払いなら任せろー!」と、財布のチャックを開けて500円玉を取り出す。


「……あり?」

「い、いま……100円が」

「独りでに浮きおった……?」

「うそー……」


 ――が、なぜか100円玉が勝手に浮かび上がり、健が持っていた500円玉も一緒にカルトン(※レジなどにあるお金を置く皿、トレー)の上に置かれたではないか。これには流石の四人も驚いた。何が起こったのだ、と、疑問を浮かべていると――。



「ねえ、わたしの分も買ってくれない?」



 健がうしろを振り返れば、奴がいた。ちょっぴり癖のある紫紺の髪に、吸い込まれるような青緑の瞳。蜘蛛の巣柄の奇妙な黒い服。見た目は子どもなのにどこか大人びているような不思議な雰囲気――。糸居まり子だ。


「ま……まり子ちゃん?」

「フフッ。おとといから、ずっと見てたのよ〜」

「で、でも、きみ、留守番……」

「影から見マモル。なんちゃって」


 そう――彼女はこっそりアパートを抜け出して、ずっと見守っていたのだ。「そんな……約束したのに」「またあたしから健くんを奪おうとしたわね、ドロボーが……ッ」、と、健とみゆきはショックのあまり真っ白になってしまった。


「あれー、健クンもみゆきさんも白くなってもうた」

「わしら、……なんかしたかいな?」

「フフッ、……かわいいじゃないのよ〜」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 今日まで何が起きたのか、誰かと仲良くなれたのか、どんなことを教わったのか――。それをすべて打ち明けてみろ、と、市村は胸をドン! と右の拳を叩いて二人に呼びかけた。健もみゆきも遠慮などせずに、すべてを打ち明けた。――ただし、警視庁に協力してもらっていることを除いて。


「はーん。そんでお前さんはその気ィ強いお嬢と知り合って、正体バラしてもうたっちゅうんか」

「はい。でも隠しようが無かったんです。シェイドも出たし、悪いヤツに襲われてたし」

「ま、せやったらしゃあないな」


 ある晩、葛城に正体を知られたという健の話を聞いてニヒルに笑う市村。


「せやけど、あんたがエスパーやっちゅうこと自体は隠さんでええんとちゃいまんの?」

「え?」

「要はやな、実は僕、天宮学園の生徒やないんですって言わんかったらええんよ」

「つまりどういうことで?」

「だーっはっはっはっはっ!!」


 言葉の意味を問う健を見て、市村が大笑いする。「アホやなぁ、お前」と、余計な一言も加えて。


「ちょっと、市村さん! 健くんになんてこと言うんですか、謝って!」

「今のはひどいわ。たこ焼き屋さん、ふざけてるの? 死にたいの!?」


 心ない一言。本人はあくまでライバルだと主張しているが、一応仲間同士。なのになぜそんなことを言うのか。みゆきとまり子はそれぞれ怒りをぶつけた。なにがどうしてこんな険悪なムードになったんだ、と、健は困惑している。


「ちょ、イッチー……今のは言いすぎちゃうん?」


 アズサが困り顔を浮かべながら肩を寄せる。とはいえ、市村とは長い付き合いだ。彼が何を意図して発言したのかは薄々わかっていたかもしれない。


「い、いや……そういう意味やあらへん。待ってくれや、みんな」

「じゃあ、どういう意味なんです!?」

「あーもう! そないカッカしなさんなやぁ!!」


 問い詰めてくる女たちを一喝し、静かにさせる市村。ここで怒鳴ることはしても手を上げるような真似はしない。それが市村だ。


「……怒鳴ったりしてすまんのう。まあ、なんや。わしの言い方があかんかったな」


 頭のうしろを掻きながら市村が謝る。気まずそうな空気が変わらず漂っていたが、少しは晴れた。


「東條はんよぉ、あんた……もうちょいオープンになってもええんとちゃうか?」

「えっ?」

「わからんか? 別にエスパーであることを無理に隠さんでもええってことや」

「……」


 ――正体を、自分がエスパーであることを隠す。知り合いや職場の同僚、家族など――身近な人間に危険が及ばないようにするために健はそうしてきた。それもこれも人々をひとりでも多く守るためだ。


「でも、迷惑かけたくないんです。家族や友達を危険に晒したくないんです」

「アホやなぁ! 人間、迷惑かけてまうもんとちゃうんかい」


 市村がまたも豪快に笑い飛ばす。また性懲りもなく――と眉をしかめたみゆきとまり子だったが、市村の意図を読み取ったのかすぐ穏やかな表情になった。


「え?」

「あんた、現在進行形でオカンとか職場の人らに世話んなってるやろ? その時点であんたは既に迷惑かけとるんよ」

「あっ、確かに市村さんが言う通りだ……」

「それにや。みんなが危険な目に遭わんようにしたいんやったら、襲ってくる連中しばいたったらええねん。わしなんて正体知られても困る人、だーれもおらんよ? オトンにもオカンにも、あんたぐらいの時にエスパーになりたいんやって何べんもハナシつけたしな」


 悩む健へライバルとして、同じエスパーとして市村が語りかける。――まさに豪放磊落。細かいことは気にしない。


「わしの場合は地元じゃ有名やさかい、隠す意味もあらへん」

「市村さん……!」

「ま、あんましひとりで悩みなさんなや。あんたにゃ、仲間がぎょうさんついとるんや。いつでも相談に乗ってもらい。なあ、アズサ?」


 市村はアズサに確認をとる。するとアズサは明るく笑って、


「せや! ひとりで背負う必要なんかない。ウチで良かったらいつでも乗ったげるわ。困ったときは電話とかメールとかしてやー!」

「アズサさん……ありがとうございますっ!」


 嬉しそうに笑うアズサが、健にはまぶしく見えた。健は笑顔でアズサに礼を告げて、それを皮切りに他の全員も笑顔を浮かべた。



「それじゃ市村さん、アズサさん! また会いましょう!」

「おう、また手合わせしてくださいや!」

「いつでも連絡してやぁ!」

「お元気でー!」


 健とみゆきは市村とアズサに手を振って別れを告げた。――気付けば空は茜色、夕方だ。早く帰らなければ、不破はきっと怒るだろう。夕焼けの空を見上げて、「綺麗だなぁ」、などと呟きながら健とみゆきは帰路を歩く。まり子も一緒だ。夕焼けの中で彼女の奇抜な格好は良く目立つ。


「……あの」


 その途中、まり子が立ち止まってつぶやく。


「なんだい?」

「まだかかりそう?」

「うーんと……もうちょっとかかりそうかな。まだ手がかりが掴めてないんだよね」

「そっか……」


 漂う哀愁と孤独感。まり子の微笑みはどこか寂しそうだ。そして自ら、健とみゆきから離れて――道の隙間の方に歩いていく。片足を縁石の隙間に突っ込むと、「早く帰ってきてよ?」と二人に呼びかけた。


「うん。それじゃもう少し……留守番頼むね!」

「風のオーブを見つけたらそっちに帰るわ。待っててね、おみやげも買ってくるから!」

「はぁい!」


 清々しい笑顔を浮かべた健とみゆきに見送られ、まり子は全身を隙間の向こう――異次元空間へと沈める。行き先は――健が住んでいるアパート。



 その晩、まり子は布団の中で今日の出来事を――健とみゆきの授業風景を思い出していた。影と隙間から見ていた限り、健もみゆきも楽しそうだった。

 向こうで友達も出来たようだし、とくに変わった様子もなかった。ただひとつ、ただひとつだけ気になることがあった。


「……お兄ちゃん、いまは優しくしてくれてるけど……やっぱりみゆきさんの方がいいのかな」


 まり子にとって気がかりなこと。それは、健はやはり自分よりみゆきの方が好きなのでは――ということだ。

 彼女は今でこそ子どもの姿だが、本当は立派な大人だ。それも健やみゆきよりずっと年上。そんなことはわかっている。だが――すっかり子どもを演じてしまっている。これではダメだ。いつまでも現状に甘えて、自分を偽っている場合ではない。大人にならなくては。


「大人にならなきゃ。でなきゃ――わたしは……」


 複雑な心境の中、彼女は眠りに就いた。――何故だろうか、胸が急に苦しくなった。そのうち痛みが全身に回り、だんだんと意識が遠のいていく。髪の毛が急激に伸びて彼女に覆い被さり――やがて、髪が硬化。



 まり子は――繭に包まれた。

Q&Aコーナーだゾ


Q:イッチーはいつ日本全国を回ったの?

A:2年前ですかね。在学中にたこ焼きの修行をして、エスパーになるために特訓して。大学を出て、各地で商売をして。本当に長い道のりでございました。だからこそ、彼のたこ焼きはおいしいのです。


Q:あれ? まり子、もしかして…

A:大丈夫。手は考えてある。もしでかくなっちゃっても、皆様が血の涙を流すことが無いようにはします。


Q:烏丸先生怪しいんだけど

A:それ言ったらみどりも怪しいですよ。転入生にあそこまで優しくするなんて怪しくないかなあ?


Q:みどり怪しいんだけど

A:前言撤回するけど、あの烏丸って先生も怪しいんじゃないかなあ?

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