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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第9章 死神が住む街
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EPISODE172:死闘のあと


「かくかくしかじかで、あれがそれで、これがこれで……」

「ふんふん……へぇ、そんなことが」


 なぜこの高天原(たかまのはら)の地へとやってきたのか? かねてから疑問を抱いていた葛城に、健は事情を洗いざらい説明する。この天宮学園高校のどこかに眠っている『風のオーブ』を探すためにここへ来たこと、自分がエスパーであること、そして上級シェイドであるアルビノドラグーンと契約していることを――。


「それで仲間の方と一緒にこの街に……道理でどこか変な雰囲気だったわけですね」

「は、はい。そういうわけなんだ」

「これで納得が行きました。あなたが東京のミッション系の学校から来た割には、少し頼りなかったことにね」


 健としては出来れば隠していたかった。だが、隠していた秘密を見抜かれた上で問われた以上は仕方がない――。


「まだちょっと怪しいですけど……ま、いいですわ。今のところは悪い人ではなさそうですし、あなた方を信じましょう」

「ほ、本当ですか!?」

「かたじけない……」


 すました笑みを浮かべながら、葛城は健たちのことを信じることにする。が、レイピアを鞘から抜くと細くて鋭い刃先を向けて、「ですが、あまり変なことは考えないように」と、釘を刺す。可憐な見た目ながら、凄まじい威圧感だ。健の顔が恐怖で少しひきつった。


「場合によっては、わたくしはあなた達を斬らなければならなくなりますから、ね」

「は……はい」

「き、肝に銘じておこう……」


 健とアルヴィーが少し目を丸くする。レイピアを鞘に納めた葛城は一息ついて、「しかし、驚きましたわ」と呟く。やや感慨深そうだ。ちなみにアルヴィーはまだ人の姿に戻っていない。


「驚いたって、何に?」

「何って――決まってるじゃないですか。あなたが契約しているシェイドが上級クラスだということです」

「――え?」


 きょとんとした顔で、健。


「上級だったんですか――? 葛城さんのパートナーって」

「ええ」


 葛城の背後にいた、水晶のように透き通った体をしたバラの騎士――クリスタローズが前に出る。


「紹介しますわ。わたくしのパートナー……クリスタローズよ」

「よろしくお願いします」


 凛々しく気高い女性の声を発しながら、お辞儀をするクリスタローズ。残忍性が強いものばかりのシェイドとは思えぬほど礼儀正しく、温厚な雰囲気。誇り高い葛城のパートナーに相応しい。


「と、東條健です。どうも……」

「はい、健さま」


 気のせいか、クリスタローズがフルフェイスの兜の下で微笑んだような――健はそんな気がした。


「あなたにもお会いできて光栄に思います、アルビノドラグーン」

「お主、私のことを知っておるのか?」

「はい。以前より重ね重ね噂に聞いておりました。無益な殺生を好まず、人間を好む龍のシェイド――同志に会えて本当に嬉しい」

「そうか――」


 どうやら、クリスタローズもアルヴィーと同じように無益な殺生を好まないのだという。


「……アルビノドラグーンさん、と言いましたか?」

「うむ。呼びづらいだろうし、アルヴィーと呼んでくださらぬか」

「じゃあ、アルヴィーさん」


 アルヴィーが愛称で呼んでほしいと頼んだところ、葛城は早速愛称で名を呼んだ。ややお堅いイメージがあった彼女ではあったが――意外とノリが良いようだ。


「あなたやクリスタローズ以外の上級クラスがみんな、あなたみたいに優しい方だったらいいと思ったんですが……」

「……言われてみれば……」


 ――世の中そんなに甘くはない。実際に上級のシェイドはかなり高い知能がついたせいか狡猾で人間を見下し、あるいは憎悪しているものは多いし、話も通じそうで通じない。そういう意味ではやはり、シェイドとしては変わっている方なのだ。アルヴィーも、『女王(クイーン)』ことまり子も、クリスタローズも。


「――あっ、申し訳ありません。わたくしとしたことが変なことを言ってしまいましたね」

「い、いや、むしろこっちが謝りたいぐらいですよ」


 あの高飛車で妙にプライドが高そうな葛城が、この場を借りて謝ったではないか。あたふたする健を見て面白おかしくなったか、葛城は「プッ……くすくす」と、笑い出した。つられて健とアルヴィーも笑い始めるが――そこにバイクのエンジン音らしきものが。その音はだんだんこっちへ近づいてくる。


「東條、無事か!?」


 バイクで校門を飛び越え、急ブレーキをかけて停めてから不破がバイクを降りる。


「――ふ、不破さん!」

「お主……無事だったのか!」

「……誰ですの? この人」


 驚く健とアルヴィーの隣できょとんとする、葛城。


「不破さん、僕たちなら大丈夫ですって!」

「そ、そうか。大したことなくて良かったぜ……」

「それで、ファンタスマゴリアの方は?」


 健が不破に上級シェイド――ファンタスマゴリアと戦ってどうなったかを訊ねる。苦い顔をしながら、不破は、


「わりぃ、惜しいところまで行ったんだが……逃げられちまった」


 至極無念そうに告げた。


「……そのファンタスマゴリアとはなんですの?」

「オレもよくは知らないが、上級シェイドらしいってことは確かだ……」


 葛城からの問いに不破が答え――た、次の瞬間。



「って、このお嬢ちゃん誰っ!?」



 今さら紺のブレザーを着ていて、その下にグレーのスカートを穿いている女子高生――葛城がいたことに気付いた。


「わたくしは、葛城あずみと申します」

「か、葛城あずみ……ちゃん? ど、どうも」


 間抜けた顔を浮かべる不破。思わず「不破さん……プッ!」と健は吹き出してしまう。


「こっ、こらお前! いまオレを笑ったな!?」

「へへへ、すみませんでした!」


 笑う健を前に不破は、「まったくお前って奴は……」と、呆れた。


「……あの、お二人はどういう関係ですの?」

「え? は、はい。この人は不破さんっていうんだけど、訳あってこの人の家に下宿させてもらってるんだ」

「へぇ――つまり、毎晩泊めさせてもらっているってことですか?」

「はいっ、そうなんですっ」


 健が葛城の疑問に答える。まだ聞きたいことがあるのか葛城は更に、「なぜわざわざその不破さんのお家に泊めさせていただいているんですか?」と訊ねた。


「あ、あのねえ葛城さん……そーいう余計な詮索は無用ってもんだぜ、なあ東條?」

「そ、そっそうですよねっ」

「……はあ……」


 あたふたする健と不破。そんな二人を見た葛城やクリスタローズ、アルヴィーはきょとんとした顔を浮かべていた。


「……けど、まあいいですわ。今日はもう遅いですし、また明日にでも」

「はい!」


 葛城がふと、月が浮かぶ夜空を見上げながら別れの言葉を健たちに告げる。すると葛城はクリスタローズの体に触れて、影の中へと姿を消していった。――恐らく、今ので家に向けて帰ったのだろう。少々スリリングだが今の方法を使えば時間はかからない。


「……今のアレ、お前ら以外にもやるヤツいたんだな」

「何を言っておる。エスパーなら誰でも出来る方法ではないか?」

「う、うるさいっ!」


 アルヴィーから言われたことに対して恥ずかしそうにしながら、不破が怒鳴る。彼は怒ったまま「オレぁ先に帰るぞ!」と、健とアルヴィーに言って先に行ってしまった。


「行ってしもうた――さあ、私たちも帰ろうか」

「あ、ああ……うん」


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