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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第9章 死神が住む街
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EPISODE171:高天原の死神


「東條さん……?」


 ――葛城は戸惑っていた。彼もまたエスパーだったというのか? だとすれば何のためにここへ来ているのだ? 誰かを守るためか? それともあの死神のように『風のオーブ』を――いや、今はそんな場合ではない。形はどうあれ、彼は自分の命を救ったのだ。それは素直に嬉しかった。


「武器を構えて、シェイドを従えて……いったいどういうことですの?」

「話はあとです! ……下がって!」

「は……はい」


 健に言われるがまま葛城はクリスタローズと一緒に安全なところへ下がった。彼女を安心させるためかニコッと笑ってウィンクなどして、健には余裕がありそうだ。だがよくみれば――傷だらけ。ここに来るまでに激しい戦いがあったのだ。そう――上級シェイドの一体である、ファンタスマゴリアとの戦いが。


「何者だ……。この学園の生徒か?」

「そうだ。事情は良くわかんないけど、僕はあんたを止める!」


 健が死神に切っ先を向ける。いつもの穏やかだが少し頼りない彼と違い、凛とした目付き。表情を見るだけでもどれだけ真剣なのかがよくわかる。


「ふん。君も私の邪魔をしたいらしいね――。いいだろう、ならば切り刻んでくれる!」


 死神が啖呵を切り大鎌を掲げ、健に斬りかかる。疾風のごときその速さは――肉眼ではとても追い付けない。盾を構える暇も回避する暇もなく、健はそのまま斬られてしまう。


「ッ……は、速いっ」


 大鎌で斬られた健が、血を流しながらのけぞる。敵の驚異的なスピードを前に目を丸くしていた。


「安心しろ……殺しはしないさ。そうだな――全治二ヶ月にしておいてやる」


 完全に舐めきった口調で死神が告げる。まだ余裕がある故の安い挑発だ。


「健、相手は必ずどこかで止まる。その時を狙うんだ」

「オッケー!」


 緊迫した空気の中、アルヴィーが健にアドバイスを授ける。相手が動きを止めるタイミング――。あるとすれば攻撃している時ぐらいだろうか。それかいっそのこと――凍らせてしまうかだ。


「ほう。ずいぶん(さか)しいシェイドを連れているな」


 死神が大鎌を振るい鎌鼬を放つ。鎌鼬を見て健は、


「はっ! この攻撃――!」


 ――デヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! どうだぁ! 俺様の鎌鼬(かまいたち)の切れ味は!!――


 以前にあった戦いを思い出した。そう、死神と同じような武器を使い、同じような攻撃を繰り出していたカラーギャングのリーダー……鎌瀬との戦いを。だがこの鎌瀬(かませ)とあの死神とでは――明らかに『格』が違う。その見た目も雰囲気も、だ。


「東條さん、何をボサッとしていますの!?」

「はっ!? や、ヤバい!」


 葛城の言葉で現実に戻った健は、緊急で鎌鼬を回避。するともう一発、いや、何発も鎌鼬が放たれたではないか。盾を構えて防御体制に入りやり過ごすが、その隙を突いて死神がダッシュしながら鎌を振り下ろしてくる。防御を崩され、健の体が宙に放り出された。


「ノロマめっ」


 死神は放り出された健を薙ぎ払い、健を吹っ飛ばして外灯の柱に叩きつける。地面に倒れた健へ容赦せず、死神は大鎌をボウガンに変形させて風の矢を何発も撃ち込む。命中するたび健はその都度悲痛な叫びを上げ、血を流した。


「あいつ、なんてことを……!」


 残忍極まりない行為。憤りを感じた葛城はレイピアを抜いて健に加勢しようとするが――。「ダメです、葛城さん! こっちに来ちゃ!」と健が呼びかけて彼女を止める。


「いいえ、行きますわ。目の前で誰かがいたぶられているというのに、それを見過ごせというの!?」

「マスター、ここはあの方の言う通りにしてください」


 クリスタローズも制止に入る。


「下がりましょう、これ以上は危険です。下手をすれば死んでしまう」

「ですが――」

「今はあの方を信じてみましょう」


 クリスタローズから説得を受けた葛城は、やや懐疑的になりながらも健を見つめる。――彼は自分の身を投げ出して、あそこまで傷付いてでも人を守ろうとしている。それならなおさら止めなくてはならない。だがクリスタローズは彼を止めようとしている自分を止めようとしている。不本意ではあるが――ここはパートナーの言う通りにしよう。


「……しょうがないですね。彼、案外強そうですし……信じてみますか」


 ――気が変わった葛城はレイピアを鞘に納めうしろへ下がる。気のせいか、クリスタローズが安堵の表情を浮かべた気がした。確かに言われてみれば、これ以上ダメージを受ければ日常生活に支障が出る。それに死んでしまえば花実は咲かない。悔しいが、せめて応援や励ましぐらいはしてみたい。――と、葛城は思った。


「ふっ……何をごちゃごちゃと!」


 横に走りながら死神は矢を連続で放つ。何本もの風の矢が一列に並んだ形だ。


「あぶねっ!」


 盾で風の矢を弾き、健は走って死神の懐に踏み込んで一撃入れる。


「ぬぅ……!」


 跳躍して距離を空けた死神は再び矢を放つ。今度は斜め一列だ。ふと、茂みから見ていた葛城の頭に何かが思い浮かぶ。


「東條さん、矢を斬るのもいいかも知れませんわ!」

「わ、わかりました!」


 そうしているうちに、健を狙って斜め一列に並んだ矢が迫る。葛城の言葉通りに矢を斬ると――なんと矢が跳ね返って死神の方に飛んでいった。矢が命中して「うあっ!」と死神がうめく。


「こしゃくな真似を……」


 仮面の下で歯軋りする死神。ボウガンを元の大鎌に戻すと――突然姿を消した。


「な、なんだ!?」

「瞬間移動か? どちらにせよ気を付けた方がいい!」


 驚く健にアルヴィーが警告する。健が警戒しつつ身構えていると――消えていた死神が背後に現れて、「どこを見ている!」


「なにっ!?」

「せぇいっ!」


 突然の出来事に対応しきれず、健は斬られてしまう。死神は更に瞬間移動を繰り返しながら健を大鎌で切り刻んでいく!


「うがあああああぁ!!」

「きゃあっ!? 東條さん!!」


 噴水の付近に叩き落とされ、健が悲鳴を上げる。表情もその傷だらけな姿も――痛々しい。うめきながらも立ち上がり、苦しげに片目をつぶりながら身構える。


「どうした……そんなものか、出来損ないめ」


 地上に降り立った死神が健を見下すように呟く。


「ひとつ聞こうか。――君に、いや……君『たち』にこの学園を守る義理はあるのか?」

「な……?」

「まあいい……じきに口も聞けなくなるのだからなぁ!!」


 何かを知っているような口ぶりで、大鎌を掲げて死神が急接近する。このまま斬られてたまるか、と、健は長剣を振って死神の大鎌を弾く。


「むうッ!」

「出来損ないなんかじゃない!!」

「ならば何だ! 友達のふりをして他の生徒を騙している悪党かぁ?」

「違う!」

「何が違うんだ? そういう悪い子には罰を与えなければな!!」


 長剣と大鎌がぶつかりあい、金属音が鳴る。激しく火花が散る。それが何度も繰り返された。


「フッハアアアアア!!」

「わああああっ!!」


 武器をぶつけあった末に死神が雄叫びを上げ、回転しながら横に大きく大鎌を振るう。健を切り刻んで吹っ飛ばした――だけではすまさず、ジャンプして健を叩っ斬る。地べたに落ちた健はなおも立ち上がり身構えた。


「しつこいねぇ。手応えは十分だが――そろそろくたばったらどうだ?」

「嫌だね!」


 戦いに辟易(へきえき)してきた死神に対して、苦く、口元を緩めながら健が言う。


「あいにくだけど、僕しつこいんだよね……だからあんたには負けたくないッ!」

「そうだ。お主のような奴には負けぬ!」

「ほう、それで? 君たちが私に勝てる保証はあるのか?」


 健もアルヴィーもまだ食い下がろうとしない。そんな二人に呆れたか鼻で笑いながら、自信たっぷりに死神は言い放つ。そして斬りかかる。


「てぇやぁ!」

「チィ!」


 寸前で大鎌を斬って弾き返し、一瞬だけだが怯ませる。――少し勝機が見えてきた。


「でぇやああああ!!」

「ぐぅうううううゥゥッ!!」


 雄叫びを上げて、健が斬りかかる。力強い斬撃を身に受けた死神は唸り声を上げ、血を吹き出しながら後退する。


「うりゃあああああッ!!」

「ぐおおおっ」


 更に縦に回転しつつ斬りかかり死神を吹き飛ばす。地面に倒れた死神は悶え、仮面の下で歯軋りする。


「健、今だ!」

「とどめっ……!」


 横に構えた長剣――エーテルセイバーに気合いを溜め、健は大きく横に回転しながら死神へ斬りかかる! これぞ属性なし、必殺の大回転斬り――スパイラルクラッシュだ。「すごい気迫……きっと行けますわ!」と葛城は淡い期待を抱いた。


「うおおおおおおおっ!!」


 だが、ダウンしていた死神は起き上がり大鎌で切り払って健の回転を止める。「そんな!?」「止めたというのか!?」と、健とアルヴィーは驚きを隠せない。


「……くっ!」

「手負いとはいえ、なかなか。前言撤回だ。私は少々君たちを見くびっていたようだ」

「なんだと……?」

「しかし……うっ!」


 話している途中で急に死神がうめく。――戦いの中で右足のヒザに傷を負い出血していたのだ。


「……今夜はもう遅い。いずれ、また会おう」


 死神がそう言って背中を向けゆっくりと歩き出す。まさか、逃げるつもりなのか?


「待てッ!」

「待ちなさいッ!」


 逃げようとする死神を止めようとする、健とアルヴィー、葛城。だが、死神は振り向いて左手をかざし――。


「ハッハッハッハッ――さらばだ!」


 自分の周囲に空気の渦を発生させて木の葉や石ころと共に健たちを吹っ飛ばし、渦の中へ消えていった――。



◇◆◇◆◇◆



「っ……く、くそっ……」


 あえぎながら立ち上がる健。もはや長剣を杖がわりにして立っていられるのがやっとの状態だ。


「悔しいけれど、完敗……ですわ」


 葛城も片目をつぶって右腕を押さえ、苦しそうに立っていた。彼女も健も傷だらけで、血がにじんでいる。


「……お怪我は大丈夫ですか?」

「な、なんとも……なくない、です」

「そう……。よければ回復してさしあげましょうか」


 葛城の言葉を聞いた健が、「回復……ってどうやって?」と首を傾げる。「まあ、見ておいてくださいませ」と葛城は右手を天にかざし――辺りに甘い花の香りが漂い始めた。


「花のにおいだ……心地よいものだの」

「でも僕花粉症なんだよね……あ、あれ?」


 健が戸惑うのも無理はない。怪訝(けげん)なことに――みるみるうちに傷が塞がっていったからだ。これで手も足も思うように動かせる。「治った! 治ったぞー!」と、健は妙に子供っぽくはしゃいだ。アルヴィーもにっこりと龍の姿のまま笑った。


「葛城さん、ありがとう。お陰ですっかり元気になっちゃった!」

「か、勘違いしないでくださいよ。今のはわたくし自身の傷を治したついでなんですからねっ!」


 感謝の言葉を贈る健に対して照れ臭そうに、頬を赤くしながら葛城が慌てる。「マスターも素直じゃないんですねえ」と、クリスタローズは鎧の下で微笑みながら主をからかった。


「……それはそうと……」

「はい?」

「東條さん、話をお聞かせ願えませんか?」

「え、あ、あーっと……」

「なんなら、また明日でも構いませんわよ?」

「ど、どうしようかな……」


 あたふたして戸惑う健。そんな彼にアルヴィーが、「仕方ない。ここはもう正直に話してしまわんかの?」と、健に告げる。


「――わ、わかりました。洗いざらいすべてお話しします」

「そう。では、何なりと」


 かくして健は、葛城に事情を話すこととなってしまった――。返答次第では恐らく、いや、確実に斬られてしまうだろう。――それだけ事は重大なのだ。

Q&Aコーナー


Q:死神の正体は誰?

A:それはまたいずれ……(^^;


Q:死神の武器の名前は?

A:可変式旋風鎌(せんぷうれん)『ハルファス』…うわあ、我ながら中二くせー!

※この武器の名前は変更するおそれがあります。

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