EPISODE169:夜の街には危険がいっぱい PART3
天宮学園高校に危機が迫っている――。時間を無駄にはできない。健とアルヴィーは天宮学園へ向かって疾走していた。
「急がなきゃ……!」
「健、今から龍の姿になる。だから私の背に乗れ!」
「え? わ、わかった!」
健に龍の姿に戻ると告げ、アルヴィーの体が白い影に変わっていく。そして再び本来の姿である――白い龍になった。背中に迷わず飛び乗り、健はしっかりとしがみつく。
「善は急げ、だ。健、しっかり掴まっておけよ」
「オッケー!」
少し身を後ろに引き、空中へと飛び出すアルヴィー。空へと昇っていくその速さはジェット気流に乗ったようだった。気付けば街の中から、雲を突き抜けて空の上に行っていた。ビルが立ち並ぶ夜の高天原市の市街地もまた、ライトアップされていて美しい。
「す、すごいや……まさか空の上から夜の街を見下ろせるなんて、夢にも見なかった」
「今は感心している場合ではないぞ。天宮学園はどこだったかの?」
「確か……小高い丘の上にあったよ」
「丘の上か……よし、だいたい分かった」
上空で会話を交わす健とアルヴィー。アルヴィーはその巨体からは想像もつかないようなスピードで空を飛び回り、丘の上に建てられた学校――それに当てはまるものを探していく。
「……あった、アレだよアレ! あの学校!!」
やがて街の少し北の方で健が天宮学園高校を発見。その場所を指差した。
「あそこか! 空から見てみると意外に見つけにくいものだの」
「とにかく、急ごう! あの神父さんのおばけみたいなヤツが言ってたことも気になるし……」
「そうだな!」
こうしてアルヴィーは体を地上へ向け、風に乗って急降下。天宮学園高校の校門前へと降り立った。ちなみに、健が言っていた神父のおばけみたいなやつ――とは、先ほど戦ったファンタスマゴリアの事を指している。
◇◆◇◆◇◆
健がアルヴィーに乗って空を飛んでいる頃――夜の天宮学園高校の校舎へ足を運んでいるものがいた。バラ色の髪を一本の三つ編みに束ね、腰に鞘を差して静かに夜道を闊歩するその華麗な姿――。
「――今日は誰も来ていないようですね」
その少女、葛城あずみ。この学校の二年A組で日々学んでいる、葛城コンツェルンのお嬢様だ。だが、その彼女がなぜ武装して夜の校舎に来ているのだろうか。
「でも、変ね。嫌な予感がする……」
校庭の中に入り、辺りを見渡す葛城。彼女は感じ取っていた。不吉な前兆を――。
そしてその不吉な前兆は、当たった。ポケットに忍ばせていたピンク色のシェイドサーチャーが音を鳴らしている。それも強く、激しく振動しながら。
「ッ……!」
葛城の周囲にあるものの影と隙間から――次々にシェイドが現れる。目と鼻が無く、表面がドロドロしたゾンビのようなもの。両腕に鋭い鎌を備えた巨大なトンボのようなもの。ナタを持ったジャガーのようなもの。――それらで構成された大群だ。
「……出ましたね」
葛城が険しい表情になり、腰に差していた鞘から剣を抜く。斬るより突き攻撃に向いた、洗練されたデザインが特徴的な細身の剣――レイピアだ。彼女が右手にレイピアを持つと同時に、地中からイバラが突き出て周囲を取り囲んでいたシェイドを串刺しにしていく。そして霧散させた。
「マスター、数は敵の方が圧倒的です。一気に蹴散らしてしまいましょう」
葛城の影から、バラの意匠がある騎士のようなシェイドが現れた。身長は葛城より高く、その水晶のように透き通った鎧にはイバラが巻き付いている。顔にはフルフェイスの兜を被っている。佇まい・体型共に女性的で胸に膨らみがある。声も凛々しい女性のものだ。階級は上級か通常か分からないが――人間の言葉を流暢に話していることから、少なくとも知能はかなり高いようだ。
「ええ。言われなくともそうするつもりよ、クリスタローズ」
「では参りましょう。マスターは前をお願いします」
「そうね。後ろは任せましたよ」
クリスタローズと――そう呼ばれた騎士のシェイドが右手に剣を構える。『彼女』に背後を任せた葛城は周りを囲うシェイドにレイピアの切っ先を向けた。
「『風』の力――あなた達のような邪悪なものには、絶対に渡しません!」
月下に佇む華麗なる女騎士とそのしもべ。一人と一匹がシェイドの大群へ刃を向ける。果たして、勝者は――?
Q&Aコーナーだしー
Q:人語を喋れるのは上級のシェイドだけじゃなかったの?
A:通常のものでも知能が高いものや、人語を饒舌に話せるものはいますよ。以前に出てきたアイアンガーゴイルやポットパスがそれです。
Q:クリスタローズは上級シェイドですか?
A:はい、上位クラスです。え? この前のツチグモとジグモはどうかって? うーん、せいぜい中くらい。
Q:不破さんは?
A:心配しなくても不破さんは今必死で戦ってるよ!