EPISODE15:徹底リサーチ
翌日の水曜日。健はいつも通りにバイト先へ行き、今日もあくせく働いていた。もちろん情報収集は欠かさずに。自分自身を平凡とはいうものの、彼はパソコンに関しては意外と強い。キーボードは早く打てるし、苦手な、あるいはやったことのないことでも手取り足取り教えればキッチリこなせる。経験したことが、彼の中へ蓄積されていっているのだ。その飲み込みの早さから、職場内では注目の的となっていた。本人は謙遜しているが、それほど彼のコンピュータに関する腕前は目を張るものがある。
「うわぁ、またかよ。ホント最近はおっかないな……」
きょうの仕事の合間に見たニュースの中には、思わず目を疑ってしまうようなものがあった。嵐山の渡月橋で突然起こった発火事件。幸いこの前の高架下のものと違い、死亡者は出なかったらしい。
「普通はこんなのありえない。ってことは……エスパーのしわざだ! みなさんに聞いて回ろう。何か手がかりが得られるはず」
健はサーチをかけはじめた。知りたいことには何がなんでも首を突っ込んでしまう、彼の悪いクセだ。これでもだいぶ深追いしなくなった方であり、小さい頃はもっとひどかった。小学校のときに性教育の授業で余計なことまで聞いてしまい、この事は健にとって一番の黒歴史になったという……。健はマッハでちあきやみはる、ジェシーらにサーチをかけた。ケニー係長も気さくに話しかけてきたが、どうせまた城の話だろうと思い無視。最終的には、この職場のチーフである大杉に聞いてみた。聞いた事をまとめてみると、発火を起こしたのは黒ずくめの男性ではないかという確証が得られた。
「東條くん、今日もご苦労さん。また今度も頼むよォ~」
バイト代を受け取り、健は帰宅。
「ただいま〜」
「おぅ、早かったの」
やはり……というべきか、アルヴィーによって健のおやつがまたも削られていた。今回犠牲となったのは、珍しい紫色の芋けんぴ。健は残念そうにしながら、洗面所へ駆け込んだ。
「こたつから出たくねぇ~」
「お主はネコか?」
こたつに入ってしばらくほっこりしたあと、健は今日起こった出来事を洗いざらいアルヴィーに説明した。ココナッツサブレを食べながら。やれやれ、と、少し呆れるように微笑む彼女の姿は、もう一人の姉のようだった。――そういえば姉は、綾子ねえさんは元気にしているだろうか。母さんを支えてあげられているだろうか。ここ数ヶ月はまともに顔も見せていないし、そろそろ会いに行ったほうがいいのかもしれない。
(まるで姉さんがもう一人いるみたいだ。でも、あの人は怪物なんだよな)
それにしても、アルヴィーと出会ってからもう何週間経つのだろう。彼女は今でこそヒトの姿をとっているが、元はといえばバケモノ。ヒトならざる者だ。
――人知を超えた『人外』。元はあの怪物どもと対して変わらない、危険な存在。しかし彼女の本来の、荘厳で神秘的な姿。シェイドとは次元が違う、あの壮麗さ。偉大さ。あれには文字通り魅了された。彼女は本当にシェイドなのだろうか? 彼女はシェイドを名乗っているだけで、実際は幻獣とかの神に近い存在なのではないのだろうか?健は少し、不安になっていた。いつか食われてしまうのでは……と。気付けば自分は考え事をはじめて悩みを抱え出して、食指が止まっていた。アルヴィーが頭上に『?』マークを浮かべて、こっちを見ている。
「健、そんな暗い顔をしてどうした?」
「あ、いや……なんでもないよ。さ、食べよ食べよ」
そうやって再び食べだすと、容器にあんなにたくさん並んでいたサブレはあと一枚を残すのみになった。
「……アルヴィー、最後の一枚あげる」
「もうラスイチか、早いものよな。すまぬが、それはお主がもらってくれないか」
実はアルヴィーは、健が考え事をしだした時にサブレをこっそりとつまんでいたのだ。そのために数が減って残り少なくなっていたのだ。
「……うん、分かった。そうさせてもらうよ」
健は最後の一枚を、遠慮なくいただいた。