EPISODE167:夜の街は危険がいっぱい PART1
異次元空間から高天原市へと飛び出した健とアルヴィーが見たのは、大量にいる目と鼻がない、表面がドロドロしたゾンビのような怪物が――人々を襲っている光景。
「ウゴオオオオオォ!!」
「た、たすけてー!」
そのうちの一体がゾンビさながらの鈍い動きで子供に近寄り、唸り声を上げて噛みつこうとする。――刹那、青い炎が横切ってゾンビのような怪物の頭を吹き飛ばした。
「……あ、あれ?」
それだけではなく、他のゾンビのような怪物も次々に青い炎に焼き尽くされて消えていった。何が起きたかわからず動揺する子供に、炎から逃れた一体が腕を振り上げて襲いかかるも――寸前で何者かにぶった切りにされて霧散した。
崩れ落ちた怪物のうしろに立っていたのは――毛が外に跳ねた茶髪の青年。手にはシルバーグレイを基調とした長剣と龍の頭を模した盾を構えていた。言わずもがな東條健だ。そしてその背後にいる巨大な白い東洋の龍は――アルヴィー。
「あ、ありがとう……」
「ここは危険だよ。早く逃げて!」
「う、うん!!」
先に襲われていた男の子を逃し、健は他の人々を救うために突っ走る。
「こいつら……! これ以上みんなに手出しはさせないぞ!」
力強く叫び、並み居るゾンビのような――最下級のシェイドを叩っ切る。老人に噛みつこうとした一体を斬り、若い女性を襲っていた三体を斬り、二体を相手に角材を持って精一杯抵抗していた工事現場の男性を助けるためにその二体を倒し――。これであらかた片付いた。「これで全部かな?」と、一息つこうとした健だが、サーチャーの反応はまだ消えていない。
「おかしいな。敵はみんな片付けたはずなんだけど――」
「……いや、まだだ。来るぞ、健!」
それと同時にアルヴィーも敵の気配を感じ取っていた。「ど、どこから?」と健が訊ねるとアルヴィーは「地面の下からだ!」と返した。
「下から来るぞ、気を付けろ!」
「……ごくっ」
アルヴィーが発した警告を聞いた健は、唾を飲んで盾を構える。だが本当に下から来るのか? そう思い、ずっと地面を見ながら盾を構えていると――新手が姿を現した。同時に健を突き飛ばし転倒させた。
「健!」
「だ、大丈夫……ホントに地面から来たね。あいてて」
健が痛そうに頭を掻く。地中から現れて健を突き飛ばしたのは――いかついオケラのようなシェイド、モルケットだ。全身が茶色く、脂ぎった質感がなんとも気持ち悪い。
太く大きく発達している、その穴を掘るのに適したショベルのような両手で叩かれたら痛そうだ。柔らかい土だけではなく、硬いコンクリートも掘り進んできたであろうことも考えればなおさら。
「ケラァァァァァ!!」
「のわッ」
両腕を振り回しながらモルケットが走ってきた。盾を構えるも相手は怪力を備えており、ものともせずに健を吹き飛ばす。血を流しながらも起き上がった健に、「慎重に戦え。相手のパワーは強いが、付け入る隙も多い」とアルヴィーが助言する。
「隙か……あるかな」
身構えつつ相手の様子を伺う。するとモルケットは急に地面をえぐり出し――。
「あいつ、何をする気だ?」
緊迫した様子で、健。やがてモルケットは持ち上げた岩をそのまま放り投げたではないか! しかもかなりの大きさだ。ヒト一人潰すのにわけはない。
「健、避けろ!」
「おわっ!?」
だが健はアルヴィーに言われたまま横に転がって岩石をかわす。その隙を見計らったかモルケットが腕をメチャクチャに振り回しながら健へ突っ込んでいく。
「こいつッ」
「ゲラ!?」
盾を突き出して攻撃を弾き、健はそのまま長剣を振り上げて反撃。更に回転しながら斬りつけてモルケットを吹き飛ばした。
「そぉぉぉりゃッ」
「ゲゲラァァァ!!」
ひるんだところをジャンプしながら斬りつけて追い討ち。起き上がったモルケットは地団駄を踏みながら怒り出し、地面を掘って潜行。
「また下から来るぞ!」
「と見せかけて、上から来たら嫌だよ……!」
「なあに、ヤツが出てくる場所は土が内側から盛り上がる。それを見てからでも回避は間に合うぞ」
「わかった、アドバイスどうも!」
アルヴィーからみたびアドバイスを授けられ、礼を言う健。彼女から言われた通りに回避するのも、モグラ叩きの要領で叩くのも彼の自由だ。
「……来たな!」
そのとき健の足元の土が盛り上がった。地面を突き破ってモルケットが飛び出し、跳躍してそのまま空中へ。「今度は上から!?」と健が驚く間もなく、モルケットは空中から健めがけてダイビングを仕掛ける。だが健は盾を天へ向けて構え――落ちてきたモルケットを弾き飛ばして気絶させた。
「よーし、今だ!」
「うむ!」
相手を倒すなら今がチャンスだ。長剣の柄に赤いオーブをセットし、真っ赤な炎の力を剣に纏わせる。健が空高くジャンプすると同時にアルヴィーも宙へ舞い上がり――剣を斜め下へ構えた健を青い炎で後押し。赤と青、二色の炎を纏って突進!
「け……ケラッ」
恐れを成したかモルケットは逃げようとする。だが、時すでに遅し。すぐうしろに健が迫ってきていた。
「ケラァァァァァ〜〜〜〜!!」
そしてモルケットは大爆発。チリと化して炎の中へと消えていった。炎の前に佇んで「やった! これにて一件落着」と喜ぶ健だったが――戦いはまだ終わってはいない。
「……健、喜ぶにはまだ早いようだぞ」
「え? でも敵はみんなやっつけたはずだよ」
「とてつもなく強いシェイドの気配を感じる……信じられないならサーチャーを見てみろ」
アルヴィーが言うにはまだシェイドの気配が消えていないらしい。その証拠にシェイドサーチャーもやかましくアラームを鳴らしている。恐る恐るスクリーンを覗いてみると――大きな点がこの近くにひとつ。
「……まさか、上級シェイド? いやまさか……」
「かも知れんな。嫌な予感しかしない……」
二人の間に緊迫した空気が漂う。やはりというか、嫌な予感は的中し――。
「はっはっはっ! やるではないか。さすが、アルビノドラグーンと契約しただけのことはあるな……」
どこからともなく低音の男性の声が聴こえる――。恐らく壮年だ。同時に辺りは深い霧に包まれた。
「な、なんだ? 何も見えない……」
「いったい誰の仕業だ? 姿を見せろ!」
戸惑う健をよそにアルヴィーが叫ぶ。「ククク……逃げも隠れもせんよ」と声の主は静かに笑い、霧の向こうからゆらゆらとその姿を露にした。
「ンフフフフフ」
やがて霧は晴れていく。声の主はヘーゼルの髪でメガネをかけた壮年の男性。服装は黒い司祭服だ。まるで教会にいる神父のような格好だ。
「誰だお前……って神父さん?」
身構えていた健が拍子抜けする。表情と相まってややマヌケに見える。
「我が名は【ファンタスマゴリア】。またの名をクラーク碓氷……」
名乗りを上げるクラーク碓氷。メガネのブリッジを上げ、瞳を妖しく輝かせてほくそ笑みを浮かべる。
「ファンタスマゴリア、移り変わる幻影……か。気を付けろ、健」
「えっ?」
「ヤツは幻術の使い手。幻を見せて相手を惑わし、その隙にいたぶる事を好むゲス野郎だ。決して惑わされるな!」
「あ、ああ……うん」
クラークを睨みながらアルヴィーが健へ助言する。戸惑いながらも健は返事をして、真剣な表情で武器を構え直した。
「ンフフフフフ、ずいぶん威勢がいいな……。だが、果たして上手く行くかな?」
不敵に笑うクラーク。顔の前で腕を交差させると少し気合いを入れ、辺りに霧を発生させる。
「ま、また霧だ! 相手が見えない!」
「落ち着け。まだ近くにいるはず――」
また何も見えなくなった。霧の中であわてふためく健を狙って――薄青色をした鬼火が飛んでくる。
「があっ!」
「健!?」
健は突然飛んできた鬼火を避けきれず、そのまま吹き飛ばされてしまう。「大丈夫か? しっかりしろ!」とアルヴィーが駆け寄るが、霧が晴れて二人を嘲笑うようにクラークが姿を現す。
「ハッハッハッ! いやー愉快愉快!」
その姿は、ぼろ布を纏った幽霊のような、ガイコツの神官のような不気味なものだった。羽織っている赤紫色の法衣は古びていて左の袖は破れており、爪を生やした長い腕とあばら骨が剥き出しになっている。
右手には黄金色に輝くドクロの杖。右肩には目玉を模したプロテクター、左肩には上半分だけのトゲトゲの輪のようなもの。――これが世にも恐ろしいファンタスマゴリアの姿だ。
「くっ……」
「私も急いでいるのでな……悪いが消えてもらうぞ!」
さあ、戦いだ!
久しぶりだね!【シェイド図鑑】
◆モルケット
オケラのシェイド。
太く発達した頑丈な前足を使って、
柔らかい土から硬いコンクリートまで、
モグラのように何でも掘り進むことが出来る。
地中から奇襲する攻撃を得意としており、
また、力が強いだけではなくそこそこ素早い動きも備えているため気の抜けない相手である。