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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第9章 死神が住む街
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EPISODE165:レア物と仮入部


「ここの校売って何が売ってるんだろ〜な〜」

「うふふ。見てからのお楽しみだよ」


 昼休み、健はみどりと一緒に一階にある校内売店(略して校買)へと向かっていた。場所は下駄箱のすぐ近くだ。午前の授業をすべて終え、昼休みが始まって二人ですぐに足を運んでみたものの――既に何人か並んでいた。さほど混んでいたわけではないが。


「あちゃー。やっぱりみんな考えることは同じか……」


 一応弁当は持ってきているが、あるのはおかずだけ。おにぎりも白ごはんもない。だからここでパンを買わねばならない。ついでにソフトコーヒーかりんごジュースも買うつもりだ。張り紙に書いてあるメニューを見て、並んでいる間に何を買うか考える。

 メニューの一覧に書いてある文字で最初に目に留まったのは――『シルバーチョコロール』なる商品。どんなものかは分からないが数に限りがあるらしいので恐らく、いや確実にレア物だ。他にもチキンカツサンドやクリームパン、あんパンやコロッケパンなどもあるようだ。流石に高天原市の人間ならその名を知らぬものはいないと云われているだけあって、質素ながらも庶民から見ればなかなか豪華な品揃え。


「し、シルバーチョコロールってなんだろう。すっげえ気になる……」

「買ってみてからのお楽しみだよ。でもまだあるかなぁ」


 みどりと話し合いながら前を詰めていく健。やがて自分たちの番がやってきた。「やっとか!」と健は急に血相を変え、財布を片手にカウンターにいる校買のおばちゃんに迫る。


「はいよ、次の方どうぞー……」

「おばちゃんっ! シルバーチョコロールってやつ、まだある?」


 健が鬼気迫る執念で校買のおばちゃんへ訊ねる。日本人は限定品やレア物に弱い人種だ。彼も日本人としての本能を抑えきれず、今のような大胆な行動に出たのだろう。


「あー、シルバーチョコロール? ごめんねぇ、アレさっきの人で最後だったのよね!」

「なッ……なんだとおおおおお!!」


 だが、おばちゃんは非情にもそう告げる。そうやって冗談を言って茶化したのだろうと思っておばちゃんの背後を見てみるも、シルバーチョコロールらしきパンは見当たらない。ということは残念ながら――。


 大好評につき、本 日 は 完 売 い た し ま し た 。


 ――ということになる。


「まあまあ、また明日来てちょうだい。でも毎日十個限定だから、買うならなるべく早めにねぇ」

「……そんなバカな……」


 しょんぼりと床でうなだれる健。みどりは彼に「ドンマイ。気にしないで」と優しく声をかけて立ち上がらせる。


「良かったらあんたの分、キープしといてあげるけど……どう」

「いいです。妥協なんかいりません」

「あらあら!」


 おばちゃんの気遣いもむなしく、健はみどりと一緒に失意のまま購買所を去っていくのだった――。



「ふーん、それで買いそびれましたの? シルバーチョコロールを」

「うん……それで仕方なくチキンカツサンドとチョココロネで妥協したんだ」


 教室に戻って弁当を食べ始めるも、健の表情は沈んだまま。これしきの事で落ち込む辺り、どこか子供っぽい。あまり大人には見えない。


「まあ無理もないですわ。シルバーチョコロールは限定品で、しかも大人気ですからね」

「か、葛城さん食べたことあるの!?」

「ええ。一度だけですが……」


 葛城からシルバーチョコロールを食べたことがあると聞いた健が、急に立ち上がって興味深そうな顔で訊ねる。さっきまで落ち込んでいたのに気持ちの切り替えが非常に早い。情緒が豊かというか、ややオーバーというか――。


「あ、味は? 味はどうでした!?」

「味ですか? えーと……そうですね、表面をチョコでコーティングしていてパンの中には白いホイップクリームが入っていたような覚えがあります」

「それホント!?」


 騒ぎ立てる健。葛城はもちろん、すぐ隣にいたみゆきやみどりもこれには少し驚いた。


「し、シルバーチョコロールってそんなにレアなの?」

「うん。毎日売られてるからそこまでレアってわけじゃないんだけど、十個しか売られてないの。しかもみんな買いに行くものだから、すぐ売りきれちゃうんだよね。卒業した人の中には、シルバーチョコロールを食べそびれたまま社会に出た人もいるぐらいだし」

「すごーっ……」

「だから毎日が激しい争奪戦なの。本当に凄いよね。あたしもまだ三個ぐらいしか食べたことないんだ」


 シルバーチョコロールがどのようなものかをみゆきに語るみどり。やはりというか、シルバーチョコロールは限定品だった。それを買えないまま卒業してしまった先輩もいると聞いて、みゆきはやや不安になっていた。目的を果たしてこの地を離れるまでにどうにか買えないだろうか――と。



◇◆◇◆◇◆



「ふむふむ……」


 放課後、部活動が始まった。学生たちが何をしているのか気になり関心を示したアルヴィーは、何となくグランドの方へ向かう。


「おー、みんな張り切ってやっとるな」


 柵の上に腕を乗せ、グランド付近にある駐輪場からグランドを見下ろすアルヴィー。テニスコートで熱心に練習に励んでいるテニス部の姿が目に留まり、食い入るように見つめていた。台の北側にいた部員がスマッシュを放ったときに何か特殊なエフェクトがかかったような気がしたが――恐らくは気のせいだ。


「――おや、実習生の白石さん。見回りですか?」


 テニス部の部活動を見ていた白石先生――もとい、アルヴィーに誰かが声をかける。爽やかで聡明な雰囲気の男性の声だ。


烏丸(からすま)先生!」


 声の主の名を呼んでアルヴィーが振り返る。その烏丸という男は細身で長身。ツンツンとした前髪が右に流れた独特のヘアースタイルが特徴的だ。髪色は黒がまじった緑色で瞳は緑色。理知的な様相でメガネも良く似合っている。


「いいところでしょう、うちの学校は」

「はい! 本当にいいところですよね。眺めもいいし、生徒たちはみんな一生懸命な子ばかりですし。まだ来たばかりですけどすっかり気に入りました」

「ははははっ。気に入っていただけたみたいで何よりです」


 爽やかに笑う烏丸。見たところ、彼は器量よし、性格もよし、見た目もよしと三拍子そろったこれ以上ないぐらい完璧な教師である。生徒からも、いや同じ教師からも敬われているに違いない。


「何せここは、この高天原市でその名を知らないものはいないほどの名門ですからね。教育実習が終わる頃には、きっとここへ実習に来てよかったと思えるようになっているでしょう。僕が保証します」

「はいっ!」


 満面の笑みで清々しく答えるアルヴィー。どうやら彼女は心の底から教育実習生としてこの学園で生徒たちと共に学び、歩んでいく事を楽しんでいるようだ。


「それじゃあ、僕はこれからテニスコートの方に行きます。顧問なんでね……白石さんはどこへ?」

「私ですか? 職員室に戻ります」

「そうですか。お気をつけて」


 互いに微笑みを浮かべて別れる二人。が、テニスコートへ通じる階段を降りかけたところで烏丸が「あ、そうそう……白石さん」と振り返ってアルヴィーを呼び止める。


「なんでしょうか」

「――近頃、この辺では夜になると『死神』って呼ばれている殺人鬼が出るそうです」

「『死神』……?」

「くれぐれも、夜は外出を控えてください。でないと――命を奪われますよ」

「は……はい」


 死神という殺人鬼が出るから夜はなるべく出歩くな――そう告げて烏丸は階段を下りてテニスコートへと向かった。「何か引っかかるな……」と深刻そうに呟くと、アルヴィーもそこから去った。



○●○●○●



 同時刻――体育館。フェンシング部の部室の中で部員たちが練習に励んでいた。そのうち二人は白いユニフォームに身を包み、運動用マットの上で顔も隠して剣と剣をぶつけあい火花を散らしながら。その二人より先に練習を行っていた三人は休憩を挟んで、スポーツドリンクやお茶を飲みながら世間話をしていた。内訳は男子が二人、女子が三人だ。


「入りますわよ」


 練習中に丁寧な口調の少女の声が聞こえたかと思えば、部室の扉を開けて声の主であるバラ色の髪の乙女――葛城が入って来た。彼女だけではなく、何故か健やみゆきにみどりも一緒だ。


「部長!!」

「古田さん、榎本さん、練習お疲れ様」


 練習していた二人の部員がマスクを外して葛城たちに挨拶する。名前を呼ばれた背の高い男子の古田と、茶髪のショートへアーで少し小柄な体格の女子の榎本――それ以外にも三人ほどいた部員も頭を下げた。


「あれ? 後ろにいらっしゃるのは妃さんと――昨日来た転入生の人ですか?」


 古田がすっとぼけた顔で葛城に訊ねる。


「ええ、そうよ。仮入部……といったところでしょうか」

「はあ……か、仮入部ですか?」


 古田が頭を掻く。彼の隣にいた身長140cmほどで小柄な榎本が健とみゆきを見て、


「えっと、東條くん……だったっけ?」

「はい! 僕は確かに東條だけど……」

「私は二年の榎本文香(えのもと ふみか)っていうんだけど、あなたはここに来る前は部活何してたの?」

「部活? えーっとね……帰宅部!」


 「そっかぁ、帰宅部だったの」と、ちょっと残念そうな顔をする榎本。健が帰宅部以外に何をやっていたと思っていたのだろうか。サッカー部のエースか、バスケ部のエースか。はたまた野球部の四番か。それとも陸上部か。妄想が尽きる事はない。


「じゃあ、風月さんは?」

「わたしはバドミントンやってたよ! 大会には出れなかったけど……」

「バドミントンやってたのかー。うん、すっごくいいと思うよ!」

「ありがとう!」


 ニコッと笑う榎本とみゆき。彼女とも仲良くやっていけそうだ。これでまた友達が増えた。


「おほん!」


 空気を換えようとしたか、葛城が少し険しそうな表情で咳をする。


「まあ、そういうわけですわ。帰宅部として無意義な生活を送っていたであろう東條さんに、有意義な経験をしてもらおうと思いましたの」

「ど、どうも……」


 別に健は無意義な時間を過ごしていたわけではなかった。帰ってからちゃんと家事の手伝いはしたし、勉強もちゃんとやっていた。友達とも遊んだ。でもここは葛城の好意に答えなければ。


「良ければ風月さんもいかが?」

「あ、わたしはいいです!」

「そっか。じゃあ、あたしと一緒に見学しよ~♪」

「さんせーい!」


 みゆきも葛城から体験を持ちかけられるが、遠慮して見学を選んだ。みどりと一緒に部員たちが何をするか傍観しようというわけだ。


「……どうやら決まったみたいですわね。では東條さん、はじめにこの天宮学園高校フェンシング部が誇る部員たちを紹介したいと思います」


 「向かって右から桐生さん、谷村さん、郷田さん。加えて、さっきわたくしが名前を呼んだ榎本さんと古田さん」と葛城が右手の人差し指を出して、部員たちを順に指差していく。少し赤みがかった茶髪で長身の女子が桐生で、やや頼りなさそうだが見た目はカッコいい黒髪の男子が谷村、金髪のセミロングで凛々しい雰囲気を漂わせている女子が郷田だ。

 榎本は先ほど名乗りを上げた茶髪のショートヘアーでさっぱりした雰囲気の女子。古田は見るからにスポーツが得意そうな体格のいい男子だ。みんな見た目や性格は違えど、実力は申し分ない。いうなれば精鋭部隊、いや連合艦隊だ。少々たとえを誇張しすぎたか。


「そしてこのわたくし、部長の葛城ですわ。みどりさんも副部長を務めていますから、わたくしやみどりさんを含めて全部で7人いることになりますね」

「えーッ!?」


 葛城からそう聞いて健が大きな声を上げて驚く。だが驚くところなのだろうか?


「す、すごい……みどりちゃんって副部長さんだったんだね」

「そんな~。大げさだよ~。うちのフェンシング部がインターハイに出場して優勝できたのも、あずみんのお陰だし……」


 後ろ髪を撫でながらみどりが言う。謙遜しているが、それでもすごいことに変わりはない。おっとりしている彼女だが、いざ試合となれば一転して勇猛果敢な剣士となるのだろう。


「……さて、東條さん。驚いている暇はありませんよ」


 真剣な目つきになった葛城を見て健が唾を飲む。部長だけあってか、端正で可憐ながら威圧感がある。


「ユニフォームを貸してあげますから、まずそれに着替えてきてくださいまし。話はそれからですわ」

「は、はい……」


 部屋の隅に置いてあった丈夫な綿で出来たユニフォームとマスクやグローブ、ソックスなどの防具一式――を、葛城は健に手渡した。白くてサイズは大きめ。男性用だ。「わたくしも着替えたいので、なるべくお早めに」と釘を刺し、葛城は健を更衣室へ向かわせた。


「やばい、なんだろう……ドキドキしてきた」


 ユニフォームに着替えるということは、まさか一戦交えることになるのでは? と、健は考えていた。そしてすぐあることに気付いた。


 ――ユニフォームの着方が分からない。


「あ、あの! 誰かユニフォームの着方教えてください!」


 情けない声を上げて助けを求める健。あまりにバカ丸出しな行動である。これにはさすがの葛城も難色を示し、「谷村さん、彼にユニフォームの着方を教えてさしあげて! なるべく丁寧にわかりやすくね」と谷村を更衣室へ向かわせた。こんな調子では先が思いやられる――果たして、無事にお目当てである『風のオーブ』を見つけることが出来るのだろうか。

えーと……

その、ボロボロです!

自分なりにフェンシングがどういうスポーツか調べて書いたつもりでしたが……。

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