EPISODE163:もっと青春するべき
この天宮学園高校に潜入していたのは、何も健とみゆきだけではない。――アルヴィーと白峯とばりもいるのだ。
この二人はどういう役割かというと――アルヴィーは教育実習生で、白峯は学校の保険医。ではアルヴィーが何をしているかを覗いてみよう――。
「なあなあ、聞いたかー? 今日からここに、教育実習生が来るらしいぜ」
「マジ? どんな人!?」
「なんでもすっげえ美人な先生らしいよ!」
「おおーーッ!」
健とみゆきが転入したA組より二つほど隣の、二年C組。そこは美人な教育実習生がやって来るという話で持ちきりだった。
「あ、きたきた!!」
「べっぴんさんキター!!」
「フォオオオオオオオオオウ!!」
やがてその『べっぴんさん』が入ってきて、教壇へ上がった。白髪に赤い眼、赤いフレームの眼鏡。前を少しはだけたスーツにミニスカート、すらりとしたおみ足。そして抜群のプロポーション。健全な生徒たちの煩悩を刺激するのは時間の問題だ。
「みなさん、はじめまして! 教育実習生の白石龍子です」
教材を置き、笑顔を浮かべる実習生――白石龍子。もとい、アルヴィー。チョークで黒板に名前も書いてすっかりノリノリだ。そんな彼女を見た生徒たちは興奮するあまり、「すっげえきれーい!」「カッコいい!」「おっぱいでかーい!!」「結婚してください!」などと叫びを上げ――。
「す、すごくエキサイトしてますね。あっ、担当教科は歴史です」
「歴史ですか? 白石先生と一緒なら楽しく学べそう!」
「はい! ここを中心に皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。よろしくお願いしまーす♪」
白石先生の言葉を聞いて「やったー!」と声を上げる生徒たち。男子も女子も関係なく、みんな嬉しそうだ。
(ふふふ、みんな気分上々だ――。これは期待に答えねば、な)
実のところ、アルヴィー自身は教育実習生でも先生でも何でもない。この学園のどこかに眠る『風のオーブ』を求めてここへ潜入したに過ぎない。
だからといって手を抜くのは失礼に値する。ならば本格的に、この学校の先生として共に学んでいこう。そしていい思い出を残そう。――そうアルヴィーは思っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
午前の授業も全て終わり、昼休み。みんな昼食を食べていた。弁当を食べるものもいれば、購買で買ったパンを食べるものも。
「あら、そのお弁当美味しそうですわね。誰がお作りになられたのですか?」
「え? こ、これは自分で作ったんだ。中学まで母さんに作ってもらっていたけど、いつまでも迷惑かけられないかなって思って……それで高校からは僕の手作り」
「そうなんですか。すごく立派なことだと思います。わたくし、料理が下手なのでいつもメイドに作ってもらってまして」
健は葛城と話をしながら弁当を食べていた。冷凍食品や卵焼きなどで構成された、平凡で質素な庶民の味だ。それでも健にとってはごちそうだった。
一方、葛城の弁当は分厚い重箱。中身も当然定食並みに豪華で、イセエビが丸ごと一匹入っている。他にも高級食材が目白押しで贅沢な一品だった。
「すごーい……お家にメイドさんがいるんだね。ってことは、葛城さんってお嬢様なの?」
「ええ。葛城コンツェルンの会長の跡継ぎですから」
すました微笑みを見せながら答える葛城。衝撃を受けたか、健は「か、葛城コンツェルン!?」と大声を上げて椅子から転げ落ちる。
「だ、大丈夫ですか?」
「こ、このくらい、大丈夫です」
「それなら安心ですわね」
立ち上がって倒れた椅子を立て直す健。座り直して食事を再開するも、痛そうに頭のてっぺんを掻くなどまだ痛みは残っていそうだ。「この人、こんな調子で大丈夫でしょうか……」と思いながら、葛城は弁当を食べていた。
「か、葛城コンツェルンの跡継ぎって言ってたけど……?」
「うん。コングロマリット企業っていうのかな。要するに電化製品とか自動車の工場とか、いろんな独立した会社が一緒になってるらしいの。あずみんはそこのお嬢様なんだよ~」
「へ、へぇ……」
みどりと一緒に食べていたみゆきは一部始終を見ており、かなり驚いた様子だった。更にみどりから葛城コンツェルンがどんなところかも聞き、ますます動揺を隠しきれないでいる。
「健くんビックリしてたけど、葛城さんってそんなにスゴいところのお嬢様だったんだね……」
「みゆきちゃんだけじゃないよー。あたしも最初はビックリしたな〜」
にっこり笑いながら語るみどり。彼女はみゆきとはまた違うベクトルで明るく、全体的にのほほんとしていてマイペースだ。しかもすぐにみゆきと打ち解けている。
「そ、そういえば葛城さんさ……」
「なんですか?」
「料理があまり得意じゃないんだっけ。よかったらお教えしますけど……いかがですか?」
「け、結構です! それには及びませんわ。今度メイド長に教えてもらいますから!」
赤面して声を上げる葛城。一瞬ながらすごい剣幕だった為、健は肩がひきつった。すぐ打ち解けたみゆきと違って、こちらは相手が強気なのでかなりの苦戦を強いられそうである。
◆◇◆◇◆◇
「東條さん、それに風月さん。ここへ転入するにあたって下見などはなされましたか?」
「い、いえ……一応しましたけど、まだ完全には把握できてません」
「わ、わたしも。急に転校することになっちゃったので」
「あら、そうでしたの。もしお暇でしたら学園の中を案内して差し上げてもよろしくてよ」
「えっ、本当に? じゃあお願いします!」
「そうと決まれば、出発進行〜♪」
――放課後、葛城とみどりの計らいでこの天宮学園高校の中を案内してもらえることになった。まずは校舎の中だ。一階には保健室や理科室、二階には家庭科室、三階にはコンピューター室や図書室など――他にもいろいろな部屋があった。どれも重要な部屋ばかりだ。
次は校舎の外だ。健とみゆきも思わず目を見張るほどの広大なグランドと、そのすぐ近くにあるテニスコート。保健室の付近から通路に繋がる大きな体育館。その裏にはプール。プールは水泳部が冬でも活動できるようにするためか、温水でしかも屋内にあった。
そして体育館の中はとても広く、柔道部や剣道部の部室、フェンシング部の部室なども内包していた。また、葛城はフェンシング部に所属していてインターハイで優勝したこともあるほどの腕前を誇っているらしい。葛城自身も自慢げに「血もにじむような努力を重ねた末に栄光をつかみとることが出来ました。まさに努力の賜物ですわ。何事も努力と精進は欠かせませんね」と健たちに語っていた。
「お疲れさまでした。いい運動になりましたね」「広かったでしょ? けど、これでもう明日から迷わないねっ」
「葛城さんもみどりちゃんも、今日は本当にありがとう!」
貴重な時間を割いてまでわざわざ案内してくれた葛城とみどりに礼を告げる健とみゆき。見上げれば空は茜色。もう夕方だ。「それじゃ、また明日ね!」と健とみゆきは校門から外へ出ていった。
「これから毎日、楽しくなりそうだね♪ 健くんもみゆきちゃんもいい人だし」
「それはどうかしらね……」
嬉しそうにするみどり。一方で葛城は疑念を抱いているのか、ため息をついた。
「えっ、どうして?」
「あの二人、ちょっと怪しく感じますの。……とくに東條さんからはただならぬ何かを感じましたわ」
「――それって、あずみんが健くんに惚れちゃったとかじゃないの?」
みどりが転校生二人に疑念を抱く葛城へ訊ねる。葛城の発言の意味を理解していないのか、それとも理解した上でわざと言っているのか――よく分からない。
「ちっ違います! そういうことではありません!」
「そっかー。違ったか……」
「わ、わたくし達も帰りますわよ!」
「は、はぁい」
赤面しながら全力で否定する葛城。もしかしたら脈ありじゃないのかと思いつつも、みどりは葛城と一緒に下校した。やや怒っている葛城に手を引っ張られながら。
その頃、保健室では――。
「……そうか。そちらもとくにめぼしい情報はなかったか」
「うん。やっぱり来たばっかりじゃ大して集まらないわね」
窓の外から夕陽が射し込む中、実習生に変装したアルヴィーと保険医に変装した白峯が話し合っていた。白衣の下には薄紫のワンピースという、いつもと変わらない格好の白峯だが――何故だか様になっている。とはいえ、科学者と保険医は別物なのだが――。
「けど――風のオーブを見つけ出してさっさととんずらするなんてガラじゃないし……、ここに来たからには青春していかないとね」
「うむ、私も同じ意見だ。とばり殿」
「じゃあ、決まりね。ゆっくり学校生活を楽しみましょ!」
「ああ!」
改めて意気投合したアルヴィーと白峯。自分達がここまで潜入捜査をしに来たことを忘れているような気がするが――まあ、大丈夫だろう。
Q&Aコーナー
Q:葛城さんってツンデレ?
A:たぶんそう。
Q:体育館デカすぎね?
A:大学の体育館みたいなイメージで書いてしまったからなー……。もっと小さくしても良かったかも
Q:不破なんだけど、オレは潜入させてもらえないのか
A:お前のような高校生がいるか!!
Q:市村やけど、わしは入れへんの?
A:お前のような(ry
Q:まり子だけど、わたしは入っちゃダメなの?
A:お前の(ry ま、デカくなったらまたおいで。