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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第9章 死神が住む街
158/394

EPISODE156:見る姿は見られています

「ここかな? サーチャーが感知したのは……」


 シェイドの反応を追った末に健とアルヴィーが辿り着いたのは、人気(ひとけ)のない倉庫。そこには人々を襲うシェイドもいなければシェイドに襲われている何の罪も無き人々もいない。窓の外から光が射し込んでいるだけの――寂しい空間だ。


「それにしては誰もいない……何かあるかもしれんな」


 不気味なほどに静まり返っているこの倉庫。どこか怪しい、絶対に何かある――。そうアルヴィーはにらんだ。


「敵の罠かもしれん。健、気をつけて進もう」

「うん、わかった」


 ホコリが宙を舞う中、警戒しながら二人は倉庫の奥へと進んでいく。


「ぎゃああああ!!」

「なんだ!? 誰か襲われてるのか!?」

「健、急ごう!」


 やがて誰かの悲鳴が聴こえてきた。その音程は低い。恐らく男性だ。早く助けに向かわねば――と、健とアルヴィーは悲鳴が聴こえてきた方向へ疾走。

 そこにいたのは倒れている若い男性と、その男性を執拗に殴ったり蹴ったりしている――二体の蜘蛛のような姿をした怪人。


「やめろ!」

「シャァ!?」


 険しい表情で健が叫び、蜘蛛のような怪人が振り向く。彼らは細身で片方は虎を彷彿させる黄色と黒の体色で、もう片方は白と黒の体色。どちらも全身から突起を生やしていた。

 とくに頭部から生えたそれは、まるで蜘蛛の脚のようである。他にも目が三つ、口元には大きなキバ。右手には鋭く長いカギ爪。肩には蜘蛛の巣のような模様が入った肩当て。――ひと言で言い表すなら不気味な姿だ。


「なんだあいつら……蜘蛛……?」

「貴様ら、何者だ!」


 蜘蛛のような怪人を見て何かひっかかる健とアルヴィー。そんな二人をよそに蜘蛛のような怪人が二人へ言葉を投げかける。


「このツチグモ様の楽しみを邪魔しおって!」

「おれたちは腹が減っているんだ! 晩餐(ディナー)の邪魔をするな!」

「お前らこそ何者だ! 第一、人を殺して晩餐ディナーにしようだなんて……そんなの見過ごせるわけないだろッ!」

「そうだ。私たちはお主らのようなゲス野郎には容赦しない」


 蜘蛛のような怪人に対して健が怒りをぶつける。両手には既に得物であるシルバーグレイの長剣――エーテルセイバーと、龍の頭を模した盾――ヘッダーシールドを携えておりヤル気まんまんだ。アルヴィーもその姿を半分――本来の姿である龍に変身しており、頭からは角を、右手に巨大なツメと背中から一対の翼を、そして尻尾を生やしていた。


「ぬぅ……」

「む? 長剣を使うガキに白髪の女……」


 歯軋りする二体の蜘蛛。そのうち虎のような模様の『ツチグモ』が何かに気づくような表情を浮かべる。


「そうか、分かったぞ」

「何がだ、ツチグモ?」

「なあ、ジグモよ。……あの二人は、我らが『女王』をたぶらかした忌むべき連中だ」

「……『女王』? たぶらかした? どういう意味だ!」


 わけのわからない事を口走るツチグモとジグモへ健が憤る。わからないのも無理はない。彼はこの時、何も知らされていなかったのだから。

 一方でアルヴィーは――二体の蜘蛛の怪人が言及したことについて何か知っているような、複雑な表情をしていた。


「ふん。貴様が知る必要はない!」

「それより……我々の邪魔立てをした以上、貴様らを許しはしない!」

「まずは貴様らから血祭りにあげてやるッ!!」


 二体の蜘蛛の怪人が健とアルヴィーへ襲いかかる。その身動きは素早く軽快で、なかなか攻撃を加える隙を突けない。


「しゃあっ!」

「くっ!」


 虎のような模様のツチグモが跳躍しながらキックを放つ。健はそれを盾で防ぎ即座に斬って反撃した。地面に落とされツチグモは一瞬ひるんだ。


「はあああッ!!」

「ぬがぁ!!」


 跳び跳ねながらアルヴィーを撹乱する、白黒の体のジグモ。だがアルヴィーは一瞬の隙を突いてツメで切り裂きジグモを叩き落とす。


「こしゃくなァ!」


 起き上がったツチグモが健めがけて蜘蛛の巣を吐き出す。それは瞬く間に広がって健を捕らえ動きを封じた。もがいて振りほどこうとするも、体がきつく締め付けられてますます自分を苦しめるばかりだ。


「わははは! せいぜいあがけ。苦しめぇ!!」

「健ッ!」


 高笑いするツチグモ。殴りかかってきたジグモを払いのけ、アルヴィーはツメを振るい衝撃波を放って蜘蛛の巣を切断。健は解放され立ち上がった。


「ええい、さっさとやられたら良いものを」

「それは……」


 思い通りに事が進まず苛立つツチグモ。そんなツチグモに一気に詰め寄り、健は盾で殴りかかる。


「こっちの台詞だ!」

「ぐっはああああァ!」


 怯んだ隙に背後へ回り込み跳びながら回転して斬りつける。そしてそこから歯車のように回りながらの斬撃。叫び声を上げながらツチグモは吹っ飛んだ。


「せいっ! やあああああッ!!」

「グギャアアアアア〜〜〜〜!!」


 アルヴィーはジグモをその大きなツメで切り裂き、怯んだところにハイキックをお見舞い。ジグモは上空へ打ち上げられながら吹っ飛ばされた。


「お、おい……ツチグモ。こいつら、強すぎるぞ!」

「くそぅ! ここは退却だ! 貴様ら……覚えてろよ!!」


 追い詰められたツチグモとジグモはその場から退却を計る。「待て!」「逃がさんぞ!」と健とアルヴィーは二体を追いかけるが二体とも鉄骨の下の影へ吸い込まれるように消えていった。

 シェイドは影と隙間から出でる怪物。故にそこから現れたり、いざというときはそこへ入って逃げることが可能なのだ。


「くそ、逃げられた……!」

「ともかく、シェイドは撃退できた。早くあいつらに襲われていた人を助けねば……」

「わかった! そうしよう!」


 相手を取り逃してしまったが、いつまでも逃した敵にこだわる必要はない。ここはひとまず襲われていた男性を助けて帰ることにする。男性のもとに駆け寄る健とアルヴィー。介抱して「大丈夫ですか!?」と呼びかけ安否を確認する。


「う、うーん」

「よかった。まだ生きてる」

「お主、大丈夫か?」

「は、はい。なんとか……」


 幸い若い男性はまだ生きていた。彼の肩を担いで健たちは出口へと向かう。


「あれ? まだ音鳴ってる……」

「なんだい、それ?」

「あ、レーダーです。シェイドって怪物を感知して知らせてくれるんですよ」

「へえ、そっか……」


 だが、健がサーチャーから鳴っているアラームを気にして取り出すとスクリーンには大きな点がまだ三つ。何故かシェイド反応が消えていなかったのだ。だが今は、男性を病院を連れていくのが先決だ。



●○●○



「ここまで来れば大丈夫です」

「ああ、ごめんな。迷惑かけて」

「いえいえ。……む」


 男性を連れて無事に倉庫の外へ出た健とアルヴィー。男性は血を流してはいたものの、なんとか歩けるようだ。だが――そこでアルヴィーがあることに気付く。


(この男――血が紫色だ。まさか……!)


 そう、男性が流していた血は紫色だったのだ。ということは、つまり――!


「いやあ、助かったよ……」


 頭を掻きながら男性が二人へ礼を言う。だが直後にニヤリと笑い、目を見開いて恐ろしい表情を浮かべる。更にその右手は――大きなハサミに変わっていたではないか。


「お前らがバカなおかげでな!!」

「ッ!」


 そして豹変した男はハサミからビームを撃ち、近くにいた健を攻撃。遠くへ吹き飛ばした。よろめきながらも立ち上がる健へアルヴィーが駆け寄る。


「そのハサミ……まさか!」

「当たりー! そうとも、俺は……」


 片手がハサミになった男性があぶくに包まれ、その姿を変えていく。やがてオレンジ色のカニのような怪人に姿を変えた。甲冑をまとったような、ロボットに見えなくもない重厚でシャープな姿。

 カニを真横から見たような頭部に緑色に光る眼。右手に巨大なハサミを携え、左手には攻撃と防御のどちらにも使えそうなハサミを携えている。


「南の島でお前らと戦ったカルキノスだ!」

「なにっ! そうだったのかっ……! このカニ野郎!!」

「ズルいやつだの。カニのくせに」

「へっ。なんとでも言え。騙される方が悪いんだよ!」


 二人を嘲笑うカルキノス。こんな卑劣な奴を許すわけにはいかない。彼に戦いを挑もうとする健とアルヴィーだったが、そこへ更に「とうっ!」と叫びながら倉庫の屋根の上から新たに二つの影が飛び降りてきた。片方は顔に包帯を巻き異様なまでに厚着をした男。もう片方は軍服を着込んだ金髪の大柄な外人男性。


「久しぶりだな、東條健。バカンスは楽しかったかね?」

「お前は……辰巳(たつみ)!」

「まさかこうも簡単に引っ掛かるとはねぇ。お人好しにも程があるぞ、ボウヤ?」

「くっ」


 包帯の男が健を嘲笑う。その隣にいた軍服を着込んだ外人男性が前に出て「新藤の死は無駄ではなかった、ということだな」と一言呟く。


「なに!?」

「ククク、気付かなかったのかな? 君が持っているその機械を見てみろ」


 鼻で笑いながら辰巳が催促を入れる。サーチャーを取り出すと、やはり大きな反応が三つ。――健はようやく気付いた。そういうことだったのか、と。


「我々が何の学習もせずやられてばかりだと思ったかね? 見る姿は見られているんだよ。そのシェイドサーチャーとやらが我々を感知することを逆手に取ったのだ」

「せっかくこうやって言葉を話せて、物事を考えられる程度にオツムがあるんだ。使わなくては意味がないだろう?」

「久々に少々、いや、だいぶ頭を捻ったがね」


 辰巳と軍服を着込んだ外人男性――ヴォルフガングが種明かしをして笑う。まさかこちらの手段を逆手に取って嵌めてくるとは思いもしなかった。健とアルヴィーは唇を噛み締める。


「……さて。お前らにはここで消えてもらおうか! ぬおおおおおおおッ」


 啖呵を切るヴォルフガング。両手を広げ天に向かって慟哭すると全身が夜の闇のような黒い霧に包まれ、直立した白銀の毛皮に包まれたオオカミのような姿に変身した。

 両手からは大きなツメを生やし、その肩や四股、尻尾からは鋭利な刃が突き出ている。まさに全身が武器になっているようだ。


「はああああああッ!!」


 続けて辰巳も気合いを入れ、毒霧を伴う瘴気に包まれながら変身。三つ首の蛇のような姿になった。肩から蛇の首が生えており、真ん中の胴体は水色で右腕は紫色、左腕は緑色とどぎつい体色だ。見るからに相手を殺せるほどの猛毒を持っていることが分かる警告色。


「……上級のシェイドが三体……そのうち二体は幹部クラスだ」

「幹部クラス!? ってことは……!」

「ああ。油断はできぬぞ、健!」


「同胞の仇……取らせてもらうッ!!」


 さあ、戦いだ!


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