EPISODE155:季節の変わり目
暑かった夏も過ぎ去り、涼しい季節がやってきた。それは秋だ。秋というのは不思議な季節で、食欲が沸いてきたり、芸術やスポーツ、読書が盛んになったり――とにかく色々なことがある。
主な行事には運動会(場所によっては体育祭)、文化祭などがある。他にも紅葉や石焼き芋などは秋しか楽しめない。――だが、良いことばかりでもない。悲しいかな、季節の変わり目というのは妙な事が起こりやすく気が狂った者も出てくるのである――。
「待てぇーー!!」
「待てって言われて待つ奴がいるかーーーーっ!!」
ある晩の東京都内にて。逃走中の銀行強盗を警官たちが追っていた。強盗はハゲ頭にひげ面の中年の男性であり、路地裏へ逃げ込んで上手いこと警官を撒いた。
「ひい、ふう、みい……へへへ」
路地裏にある廃ビルへ逃げ込んだ強盗は盗んだ金を入れた風呂敷から札束を取り出し、下品な笑いを浮かべながら枚数を数える。少なくとも一千万は超えている。いや、三億円はあっただろうか? 何にせよかなりの額だ。
「これだけあれば一生遊んで暮らせる! 盗んだ甲斐があったぜーーぃ!! ダーッハッハッハッハ!!」
大方この男は会社で働き続けるのが辛くなって、楽をして儲かろうとでも思ったのだろう。あるいは元々定職に就いておらず、単に働くのが面倒くさかったのか。
「これでもう部長のクソ野郎や若い連中からとやかく言われずに済む。上司と部下の間に板挟みにされずに済むんだ……ッ!?」
――喜びも束の間、突然何者かが外から窓ガラスを割って廃ビルへと飛び込んできた。
「あひええええぇぇぇ〜〜!!」
突然の出来事に驚き、うろたえる強盗は後退り。乱入してきた何者かはゆっくり歩きながら強盗の男を壁際へじわじわと追い詰めていく。
「だ、誰だてめえ!? なにもんだぁ!?」
乱入者は強盗からの問いに何も答えない。聞く耳も持っていない。
「クックック……」
乱入者が不気味に笑う。――だが、その表情は読み取れない。何故ならば仮面をつけているからだ。細い目と口の笑い顔のような仮面を。
更に黒いローブを着ていて男か女かも分からない。ただ――身長はそれなりに高く、声は低め。可能性があるとすれば――この黒いローブの乱入者は男だ。
「嫌な世の中になったものだ――。お前のような奴がこの国を腐らせる」
「ハァ!?」
「お前が今持っているその金はどこで手に入れた?」
「し、知らねえよ!」
「ククク……そうか。あくまで教えるつもりは無いと言うわけだな」
道化師がつけてそうな仮面の下で男は笑う。手のひらで顔を覆ってまで――。彼にとってはよほど滑稽な事だったのだろうか。
「しかし、遊ぶカネ欲しさに強盗か。……たとえどんなに小さな罪でもそれは許されない。いや、この私が許さない」
うってかわって、真摯な口調でそう言うと黒いローブの男は右手をかざす。するとビルの中に風が吹きすさび、男の手元に黒い風や緑色の風を伴って大鎌が現れた。柄には緑色の宝石が光っており――その鋭利なシルバーグレイの刃は外からの月明かりに照らされて光っていた。
「ひええええっ!!」
「――私は死神だ。貴様のような罪人はこの世には必要ない。あの世まで貴様の魂を案内してやろう」
「か、カネならいくらでも出す! だから命ばかりはあああああッ!!」
両手に大鎌を握りしめ、『死神』を名乗る男はおびえている強盗へと歩み寄る。そして――。
「死ね!!」
その凶刃を振り下ろした。上半身と下半身を真っ二つにされた銀行強盗は豪勢に血しぶきを上げ、白眼をむき絶望を抱えた表情でこの世を去った。
◆◆◆◆◆
「先日深夜0時頃、銀行強盗で元サラリーマンの只野義男氏が目黒区の廃ビルで上半身と下半身を真っ二つにされて死亡しているのが発見されました。目撃者の情報によると、他にも同じような殺され方をした被害者が何人もいるそうです」
所変わって、京都駅前のアパート『みかづきパレス』。その一室で三人の男女が茶の間で朝食を食べながらテレビのニュース番組を見ていた。一人はやや頼りなそうな青年で、一人は白髪に赤眼の大人の女性。もう一人は青紫の髪の幼い少女。
「信じられないよ……なんでこんなことをするんだ」
右手に箸を、左手に白いごはんが入った茶碗を持ちながら青年が嘆く。彼は茶髪の外ハネヘアーで瞳は青色。『まほろば』という文字がプリントされたTシャツと長ズボンを穿いていた。彼は、名を――東條健という。
「輪切りにして殺害するとは……なんと面妖な。正気とは思えない」
その大きな乳房をたくしあげるように腕を組みながら、白髪に赤眼の女性が眉をしかめる。彼女は名をアルヴィーといい、透き通るような肌と抜群のプロポーションの持ち主。
しかしその正体は――巨大で神々しく、威厳に満ち溢れた白龍。力の消耗を抑えるため、普段はこうして若く妖艶な女性の姿に化身しているのだ。余談だがあまりに胸が大きいためか――今にも彼女が着ているセーターははち切れそうだ。
「おかしいよ。絶対こんなのおかしい……。悪いことしたらいけないのに」
茶碗を片手に持ちながら、幼い少女がやるせない思いが詰まった複雑な表情を浮かべる。彼女は――糸居まり子。純真無垢だが反面冷酷であり、嗜虐的。
心を冷たく、堅く閉ざしていてなかなか開こうとしない。だが、本当は女の子らしく繊細で優しい。神出鬼没だった彼女は何度か健の前に現れ、最終的にこのアパートに住み着いた。
彼や旧知の仲であるアルヴィーとの交流を経て、近頃は少しずつ心身ともに成長しつつある。そんな彼女の正体は――女郎蜘蛛のシェイド。禍々しい蜘蛛の化け物だ。
しかし彼女もまた、アルヴィーと同じ理由で普段は人の姿をとっているのだ。もっとも、自分が最も敬愛している健におぞましい姿を見せたくない――という感情もあるのかも知れないが。
健たちは朝食を食べ終え、食べた跡を片付けて食器を洗った。順番に歯みがきや洗顔も終え、パジャマから着替えて気分を入れ替える。
窓を開けて空気の入れ換えも行った。今日は晴れだ。外には秋の涼しい風が吹いている。洗濯物も干し、それを日光のもとへ晒す。こういう日は天日干しに限る。
「ふぅ〜……」
朝から結構動き回って疲れたので、健は少し休憩をとることにする。窓の近くで太陽の光を浴びて日向ぼっこだ。
彼のうしろではアルヴィーとまり子が楽しげに話をしていた。いったい何を話しているんだろう――と気にしながら、健は二度寝をはじめた。
「シロちゃん……だーいすきっ♪」
「わっ!」
嬉しくなったあまり、唐突にまり子はアルヴィーに抱き付く。まり子の顔はアルヴィーの胸に当たっており、だいぶん気持ち良さそうだ。
形がきれいでもちもちしていて、なおかつ柔らかい肌触りなのだから仕方がない。このままアルヴィーのグラマラスな肢体に埋もれていたいとさえ思っていた。
「こ、こらッ……やめんか」
「エヘヘ〜」
「まったく……子供っぽいんだから」
いたずらに抱きついてきたまり子を見て、困った顔をしながら笑うアルヴィー。頬が少し赤くなっていた。
「……ん?」
アルヴィーが何か気付いたような視線をまり子に向ける。
「のう、まり子」
「どしたの、シロちゃ〜ん」
「お主……少し背が伸びていないか?」
「へ?」
背が伸びた、つまり体が少し成長したのではないか――? そうアルヴィーはまり子に訊ねる。が、まり子は「全然伸びてないよ〜。おっぱいも相変わらずスカスカだし」と即答。やはり気のせいか、とアルヴィーは少しばからしくなっていた。
――が、平穏のときは長く続かなかった。健の近くに置かれていた白くて丸い電子機器――シェイドサーチャーがシェイド反応を感知して音を発していたのだ。目覚ましがわりに。
「……ッ!? シェイドかっ!?」
サーチャーが鳴らしていた音を聞いた健が急に目を覚ます。サーチャーのスクリーンを見ると――大きな点が二つ、いや三つ。それだけ強い怪物が来ているという証拠だ。
「のんきにしてる場合じゃない。早く行かなきゃ!」
上から赤いチェックの上着を羽織り、ズボンをグレーのカーゴパンツに履き替える。更に靴下も履いて準備万端。
「みんな……準備できた?」
「ああ、いつでもいいぞ」
「わたしも!」
確認するまでもなく、みんな準備は出来ていた。早速出ようとする一行だったが、急に健が立ち止まる。
「まり子ちゃん、悪いけど……お留守番しててくれない?」
「え?」
「もしもの事があった時のために……」
――本当ならまり子も連れていきたいが、そうは行かない。シェイドとの戦いはたった一度の勝敗が全てを決める。
健は今まで連戦連勝を続けてきたが、いつ敵の攻撃で倒されて命を落としてしまうか分からない。だからそうなったときの為に誰か一人に留守を任せようと思ったのだろう。
「わかった。サクッとやっつけてきてね!」
「ああ!」
しょうがないな、と言いたげに微笑みながらまり子は健の頼みを承諾。一刻も早く、一人でも多くの命を守るべく――健とアルヴィーはシェイドが発生した場所に向かった。
どうも。
今回から第9章スタート!
ちょっとシリアスな感じですが、いかがでしたでしょうか;
もうちょい明るめの方が良かったかなぁ^^;
Q&A
Q:とばりさん作のシェイドサーチャーはシェイドの反応をキャッチするんですよね? アルヴィーやまり子に反応しないのは何故ですか?
A:とばりさんが制作したサーチャーは色が白いだけではなく、シェイドの情報を記録してアラームのON・OFFを設定できるようにカスタマイズされています。つまり、前もってアルヴィーやまり子の情報を登録してあるのでこの二人には反応しないというわけです。