EPISODE154:持つべきものは、家族
南来栖島、三泊四日間の旅。シェイドが突然現れたり、まり子が人を殺しかけたり、みゆきが急にアタックを仕掛けてきたりといろいろあったが無事に旅を終え、本土へと帰ってきた健はある場所を訪れていた。それは――滋賀県大津市にある実家。
「二人ともいるかなぁ」
玄関のドアの前で健が呟く。その片手には家族の為に買ってきた土産を入れた袋を持っていた。待ち遠しいのだ、家族に会える瞬間が。喜びを分かち合えるその時が。健の後ろにいるアルヴィーとまり子も同じ気持ちだった。
「あっ……健やん! お帰り〜、旅行お疲れさま!」
インターホンを鳴らすと、中から現れたのは長い髪をなびかせたおっとりした雰囲気の女性。年齢を感じさせないほど若々しく、美しい。そして胸がある。他のところも素晴らしいが、とにかく胸がある。そして母性的だ。
「お母さん、ただいまー♪」
何を隠そうその女性は健の母――東條さとみであった。微笑みながらそう言うと健は靴を脱いで玄関へ上がる。
「ご無沙汰しております」
「は、はじめまして♪」
健に続いてアルヴィーとまり子も玄関へ上がった。はじめて入った最愛の義兄――健の実家を前にして、まり子の気分は高揚している。
「あっ! 健と白石さんやん!」
「姉さん、ただいまー!」
リビングでは髪をうしろで束ねた若い女性がくつろいでいた。彼女は健の姉の――綾子だ。気さくで陽気な性格の姉御肌。健とは幼い頃よく喧嘩をしていたが、そのくらい仲が良かったというわけだ。
「これ、南来栖島で買ってきたおみやげや!」
「あっ! わざわざ買うてきてくれたんやな、ありがとう!」
「ぬいぐるみもあるで〜」
「ホンマに? やったー!」
「良かったやん! これで綾子のぬいぐるみコレクションがまた増えるなぁ〜」
「うんうん!」
健が買ってきたお土産を前にして綾子は大はしゃぎ。彼女やさとみの嬉しそうな笑顔を見られて健は満更でもなさそうだ。心暖まるこの空気の中で、「家族っていいなあ♪」「私もそう思うぞ」とまり子とアルヴィーは微笑んでいた。
「ところでさ……」
「なんや、姉さん?」
「あのちっちゃい子は誰なん?」
盛り上がってきたところで綾子がまり子を指差す。ビックリしたかまり子は「えっ!? わ、わたし!?」と動揺していた。目を丸くしたりしてややわざとらしいが、可愛らしくもある。
「ホンマや。確かに気になるなぁ〜。その子ってもしかして……」
「も、もしかして?」
「お母さん、あの子アレやろ。健と白石さんの子供ちゃう? ひひひ」
「は……はいいいいいいいいいいッ!?」
母からそう訊ねられたとき、健とアルヴィーに激震が走った。一方でまり子はさほど気にしていなかった。「この二人の子供か……それも悪くない」とでも思ったのだろうか。
「な、なんでそう思ったの?」
「えっ、そう言われたかって……なぁ」
「うん。あんたと白石さん、めっちゃ仲ええからデキててもおかしくないんちゃうかって思ったんやけど」
「えええええええ!?」
自分が知らない間に、聞いていないところでそこまで話題が膨らんでいたとは。己がまいた種とはいえ、健は開いた口が塞がらない――。
こうなったら最後の手段だ。嘘の上に嘘をぬったくることは出来ればあまりやりたくはないが、それでも――やるしか道はない。
「ちゃうちゃう! この子とはそんな関係やないって!」
「ふーん。じゃあなんなん?」
うろたえる健へ対して、綾子。やや意地悪そうに笑っている。健の反応を見て楽しんでいるに違いない。
「あんなー、この子まり子ちゃんって言うんやけど……まり子ちゃんは白石さんトコの親戚の子なんよ」
「な、なーんや。親戚やったんや?」
「あらら~、せやったんか~」
意を決して、健は綾子とさとみにまり子は白石の親戚だといって誤魔化す。少々気が引けるが信じてもらえたので良かったことにしようと、健は胸を撫で下ろした。
◆◆◆◆
「スイカ切れたよ〜。みんなで食べよか〜」
「はーい!」
それからしばらくして、さとみがスイカを切っておぼんに乗せて持ってきた。まだまだ残暑は続く。だから甘くてみずみずしいスイカを食べて、スッキリするのだ。健も綾子も、さとみもアルヴィーも――みんな美味しそうにスイカを食べていた。
「うっま! 久々に食べたけど、めっちゃうまいでコレ!」
「せやろ〜? お母さんが切るスイカはやっぱり絶品やなぁ!」
「そう言ってもらえて嬉しいわ〜。暑いのまだ続くから、みんなさっぱりしてってや〜」
水分をたっぷり含んだスイカは喉が乾きやすい夏にはぴったりのフルーツだ。一口かじっただけでみずみずしい食感が舌先から伝わっていく。
「夏はやっぱりスイカだのぅ。……ん?」
「じーっ……」
アルヴィーがまり子に目をやると、彼女はスイカを一口もかじらずにただまじまじと見つめていた。何を考えているのだろうか? 気になったアルヴィーはまり子に、「妙に真剣な顔をしておるが……食わんのか?」と訊ねる。
「いやさ……スイカ見てるとさ、思うんだよね」
「何をだ?」
「わたしもちっちゃくなる前はこのくらいあったのに、って」
「はははっ! そうかそうか、やはりそういうことか」
スイカを見て抱いた願望。何となく思い浮かべたかつての艶かしく美しい姿。切る前のスイカ並か、それより一回り大きいか小さいぐらいで夢いっぱいの――豊かな胸。早く大人の姿に戻りたいまり子は「胸がスカスカするのって、なんか寂しいのよね」とスイカを持った手を上下に揺さぶる。
「ぷっ……くすくす」
「ちょっと、何がおかしいのよぉ?」
「いや、すまん……つい」
「もぉ〜」
まり子をからかうアルヴィー。眉をしかめ頬を膨らませるまり子。そんな二人を見て東條家の三人は「かわいいな〜……」と目を輝かせ口元を緩ませながら和んでいた。
○●○●○●
「いってきまーす!」
「ほな、気を付けてな〜♪」
「遠慮せんとまた顔見せてなー!」
「はーい!」
翌日、実家で一晩を過ごした健たちは京都へ帰ろうとしていた。三人とも暖かく微笑みながらさとみと綾子に手を振って、大津駅へ向けて歩いていく。
三人を見届けたさとみと綾子は家の中へ戻り、リビングでそれぞれがやりたい事をはじめた。さとみは皿洗いを、綾子はテレビ番組の観賞を。
「しっかし健も薄情やなぁ。アイツもうちょい家におってくれても良かったのに――」
「でもしゃあないやん。あの子仕事あるさかい、あんまりのんびりもしてられへん」
「せやけど……久々に帰ってきたって思ったらすぐ帰っちゃって。心配やねんな……、お父さんみたいにいなくなるんちゃうか、って」
自分が心配していることを呟きながら、ため息をつく綾子。かつて、父である明雄はある日出かけたきり帰ってこなくなった。強気に振る舞う一方で、健も父のように二度と帰ってこなくなるのでは――と危惧していた。つまり綾子は不安になっていたのだ。
「お父さん、か〜」
さとみが少し憂いを帯びた表情で呟く。やがて皿洗いを終え、綾子の近くへとやってくる。「どないしたん?」と綾子はきょとんとした表情で訊ねた。
「なんていうか……お父さんとおんなじにおいがするんよ」
「えっ……誰から?」
「――白石さんからや」
――そう言ったときのさとみはどこか嬉しそうで、しかし、切なさもあった。彼女はひょっとしたら、薄々感付いていたのかもしれない。
生前明雄が何をしていたのか、その後どのような末路を辿ったのかを。母の言葉と表情に衝撃を受けた綾子は――何も言わなかった。否、言えなかった。
SAI-Xです。
今回で水着回はおひらきとなります。
次回からは第9章が始まります。
とある特撮番組はギャグ回の次はシリアスになりますが、
果たして『同ドラ』ではどんな展開になっているのか?
それでは次回をお楽しみに!
引き続き感想・評価等お待ちしております!