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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第8章 太陽とビキニと夏の陣
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EPISODE153:巨大クラゲと聡明なる翼

「ブクブク……ブクウウウウウウ!!」


 巨大なクラゲがその触手を振り下ろし、地面へと叩きつける。爆発するように砂塵が飛び散り、健の視界を遮る。盾を構え目もつぶってなんとか凌いだが――直後、強力な電撃が放出された。


「!? すごいエネルギーだ……防ぎきれない!」


 何十、いや何百という数のクラゲが合体した上で繰り出されたのだ。その威力は大きく――防ぎきれなかった。健は吹き飛ばされ近くのヤシの木へと打ち付けられる。反動で血を吐いた。


「ッ……防ぐよりかわしたほうが良さそうだね」


 立ち上がり体勢を整える健。回避はもちろんだが、こちらから攻撃を加える際にも気を付けなければならない事がある。それは、相手の体に直接攻撃をしかけるとこちらが感電してしまうということ。直接叩くのがダメなら間接的に攻撃すればいい。

 だが――相手とは距離が離れている。中途半端な距離から攻撃しても届かない。ある程度近づく必要がある。そして雷属性は吸収されてしまう為使っても意味がない。決して打つ手がないわけではないが――苦戦は必至だ。


「……来るぞ!」

「!」


 巨大クラゲが咆哮を上げ触手を振るう。跳んでかわすが、そこへ間髪入れずに二撃目が放たれる。かわしきれずに直撃し、健は吹き飛ばされた。更に巨大クラゲは電撃を放って追い討ちをかける。またも直撃し、健の全身に電流が走る!


「だあああああああっ!!」


 地面が爆発し、粉塵と共に健は宙を舞う。波打ち際まで飛ばされて着水。なおも立ち上がり、剣と盾を構えて相手の様子を伺う。


「アルヴィー、どうしよう」

「見ての通りあやつには雷は一切効かん。吸収されてしまうぞ」

「じゃあ……炎と氷かな?」

「それが良いな」


 アルヴィーが健の問いに答える。龍の姿になってもその流れるような姿は美しく、神々しい。


「電気を帯びていると言えどもヤツの体は水分の塊だ。熱すれば蒸発して冷やせば凍り付く」

「よし……そうと決まれば!」


 アルヴィーの助言をしっかり聞いたあと、健は疾走。巨大クラゲが飛ばしてくる電撃弾をかわし、かいくぐりながら跳躍して剣を振り炎を放つ。

 相手は命中した部分から蒸気を上げ悶えるが、これだけでは倒せない。それにあの巨体だ。まったく効いていない可能性もある。


「ブクアアアアアァ!!」

「が……っ」


 悶え苦しみながら巨大クラゲが触手を振るう。地面へはたき落とされてしまう健だったが、すぐに立ち上がり跳躍。


「やったな……お返しだ!」


 空中で炎をまとって回転しながら斬りかかり、触手をいくつか切断。だが電撃が横から飛んできてまたも地面へ落とされてしまう。


「くっ!」


 健は赤いオーブを外し、代わりに青いオーブを装填。刀身が青くなり、剣に刻まれた刻印は薄い緑色へ変化。更に辺りに冷気が漂いクラゲの体が凍っていく。やるなら今だ。


「うおおおおおーーッ!!」


 今度こそトドメを刺すべく健は今一度必殺の刃を振るう。凍結した相手を何度も斬りつけて粉砕! 巨大クラゲはそのまま粉々になった。


「よっしゃ! これでひと安心……」

「いや、安心するにはまだ早いぞ!」

「えっ!?」


 ガッツポーズをとる健。だがアルヴィーが彼に注意したように――まだ終わってはいなかった。砕かれてバラバラになった巨大クラゲの破片が組み合わさってひとつになり、なんと再生したではないか。


「しまった!」


 驚きを隠しきれない健に巨大クラゲが電撃弾を放つ。今までは中ぐらいのサイズだったが、今度はかなり大きい。盾を構える健だったが――。


「はあっ!!」


 そこへ超高速で何者かが割り込み巨大な電撃弾を一閃。当たる寸前で大爆発を起こし、健は直撃を免れた。もし当たっていたらただではすまなかっただろう。


「ケガはないか?」

「不破さん!」

「不破殿……!」


 不破がランスを回して振り払う。一息つくと、「ったく。手間かけさせやがるぜ」と呆れるように呟いた。


「東條、あのでかいクラゲはダメージを与えてもすぐに再生しちまうぞ。やるなら一気に決めろ!」

「一気に決めろ、か……。はいっ!」


 不破のアドバイスを聞いて健が頷く。


「それで、あのデカブツを倒せる手立てはあるのか?」

「手立てなら思い浮かぶものがひとつだけある」


 アルヴィーが不破へそう告げる。やや信じられなさそうに「なんだって、それは本当か?」と不破は訊ねる。


「ああ。きっとお主も腰を抜かすほどすごいぞ」

「そ、そうか。まあいいや……」


 苦笑いする不破。すぐ真剣な表情に戻り、眉を吊り上げて「オレがヤツを引き付ける。お前らはその間にあいつを攻撃するんだ!」と健とアルヴィーへ告げた。



「ブク……オオオオオウウウウウウウウ!!」


 一度体をバラバラにされたことに怒っているのか、巨大クラゲはしきりに雄叫びを上げていた。そしてその矛先は目の前にいた不破へと向けられ、触手から電撃が放たれる。


「来やがったな……?」


 走りながら電撃をかわす不破。相手の攻撃は強力だが、どれも大振り。巨大クラゲの攻撃をかわすのは超高速で走る彼には容易いことだ。走っている彼を狙って触手が振り下ろされるも、不破は余裕の表情で回避。


「おおっと! かかったな……おりゃあッ」


 それどころか触手を切り落とした。紫色の血しぶきが宙を舞い、巨大クラゲは悲痛な叫び声を上げる。ますます怒った巨大クラゲは不破めがけて電撃弾を数発発射したが、いずれも打ち払われてあさっての方向で弾け飛んだ。


「チッ! おつむはアレだが、こいつ……パワーだけは侮りがたいな」




 思っていた以上の強さを前に不破が舌打ちする。地面ごとこちらを吹き飛ばしてきそうな敵の猛攻をかわして、「東條、まだかかるのか!」と不破は健へ呼びかける。


「はい! もうすぐ出せそうです!」


 健が不破へ叫ぶ。彼が持つ長剣の柄には三つの穴が開いている。そのうちの二つには既に赤いオーブと青いオーブがはめられていた。そこに黄色いオーブをはめこみ――準備完了。刀身が三色の光を帯び始めた。


「これで決める!」


 力強くそう叫び、高く跳躍する健。唸り声を上げて巨大クラゲが触手で絡めとろうとするが、アルヴィーが口から炎を吐いて焼き払い妨害。


「はああああああッ!!」


 彼の必殺奥義が連続で放たれようとしている。まず一撃目、激しく燃え盛る紅蓮の炎。水分の塊である巨大クラゲの体が急激に熱され真っ赤になり、蒸発していく。


「な、なんだ!? 今のは……」


 不破が目を丸くする。それだけに留まらず、健は間髪入れずに二撃目を放つ。今度は輝くほどに冷たい――凍てつく氷の刃。蒸発しかけた巨大クラゲの体は凍り付き、身動きがとれなくなった。


「でえやああああああッ!!」


 そして最後の一撃――激しく轟く稲妻の太刀。大きく薙ぎ払い凍り付いた巨大クラゲの体を一刀両断。巨大クラゲは空中で大爆発を起こし、周囲には雨のように氷のつぶてが降り注いだ。あれほどの猛攻を受けたのだ。もう二度と再生することはないだろう。


「ははっ、こいつは……たまげたな。南国にあられが降るなんて」


 降り注ぐ氷の中で、不破。彼の下にふらつきながら健が寄ってくる。その隣には人の姿に戻ったアルヴィーがいた。


「これで一件落着、ですね!」

「ああ!」


 お互いの拳を握りしめて交わらせる健と不破。最初はあんなに険悪な仲だったのに二人ともすっかり丸くなったものだ。その光景を見守りながら、感慨深そうにアルヴィーは微笑んでいた。



 その翌日、早朝――。



「いやー、いい景色だなぁ」

「いい景色ッスね」

「あおーい空、ひろーい海……こんなのなかなかお目にかかれないぞ」


 密かに健たちを追跡して南来栖島まで来ていた辰巳と多良場ことカルキノスは、山の展望台で朝焼けの空と海を拝んでいた。どこまでも広がる水平線に、青い空と白い雲。一見ありふれた光景だが、素晴らしいコントラストだ。


「ん……?」


 そんな折、辰巳が覗いている望遠鏡に雲を突き抜ける影が映る。


「バイトくん、今の見たか?」

「え? は、はい。あのジェット機みたいに速い――」


 多良場に確認をとると、ひらひらと羽根が一枚落ちてきた。近くで鳥が飛んだのか? キョロキョロする二人だったが――刹那、二人の間に何者かが舞い降りる。


 いったん膝を突いてから立ち上がったその者はミニスカートを履いたスーツ姿で茶色い髪を後ろで束ねており、眼鏡をかけている。その下には遠くのものも良く見えそうな鋭い切れ長の瞳。色は金色だ。最大の特徴はなんといっても――背中から生やしていた一対の大きな翼。


「き、君は……!」


 翼を生やした女性を見て辰巳が目を丸くする。まるで以前から面識があるような、彼女を恐れているような――そんな風に震えながら。


「……本部へ向かう途中で立ち寄ってみれば……お二人ともこんなところで何をしておられたんですか?」


 しかめっ面で、しかし丁寧な口調でスーツの女性が二人へ訊ねる。この女性、いかにも生真面目で不真面目なことや人物を嫌っていそうな雰囲気を漂わせている。


「え? あー、その……バイトくんと親睦を深めようと南来栖島(このしま)までバカンスに来ていたんだ」

「バカンスに来た東條健を駆逐する……の間違いでは?」

「あ、あー、そっちだ! 私としたことが言い間違いをしてしまった」


 バレバレの苦しい言い訳。辟易したような表情を浮かべながらスーツの女性はため息をつく。そんな二人を見た多良場は、スーツ姿の女性から言い知れない恐怖を感じていた。


「と、ところでそこのねえちゃん、お名前は……?」


 苦い顔をしながら、多良場が女性へ訊ねる。


「失礼、あいさつが遅れたわね。鷹梨(たかなし)です。以後お見知りおきを」


 スーツ姿の女性がすました顔で鷹梨と名乗る。眼鏡のフレームを持ち上げ位置を整えると、彼女は辰巳と多良場を見て「とにかく……無断でこんなことをした以上、どうなるかは分かっていますね?」と訊ねた。やや機嫌が悪そうだ。


「は、はい……」



□■□■□■□■□■□



「おお、鷹梨ではないか! よく来てくれたな!」

「ええ。私もお会いできて光栄です、社長」

「俺もだ。不真面目な連中ばかりだからな――お前が来てくれたお陰でわが社は安泰だ」


 闇組織ヴァニティ・フェア――その本部に当たる機械仕掛けの古城。その玉座に屯する『社長』甲斐崎の前で、鷹梨や辰巳が膝を突いていた。

 先程とは違い、鷹梨はすました微笑みをたたえている。また、普段は冷徹に振る舞う甲斐崎も今日に限っては妙に嬉しそうだ。それだけ彼女を信頼している――ということだろうか。


「それより――辰巳、多良場」

「はっ……!」

「ひいいい!!」


 辰巳と多良場を甲斐崎が睨む。とてつもない眼力だ。その気になれば相手を殺せそうなぐらい。


「鷹梨から聞いたぞ? 二人そろって南来栖で遊び呆けていたらしいな」

「は、はい!」

「まったく見下げたものだ……」


 ため息混じりに、甲斐崎。


「お前たち……まさか人間の世界を楽しいと思ってはいないか?」

「い、いえ……滅相もございません。人間どもは滅ぼすべき敵、わかりあおうとはこれっぽっちも……」


「くどい!!」


 甲斐崎が立ち上がり、言い訳がましい辰巳を一喝して黙らせる。辰巳のすぐ横で多良場は腰を抜かしていた。


「人間は我らから『光』を奪い自分たちだけ栄光を謳歌した……許されざる者共だ。そんな連中が作り上げた世界を楽しむなど、笑止千万ッ!!」

「ひええええっ」

「命が惜しいのなら、今後勝手な行動は慎むことだ……」


 辰巳と多良場へそう告げると、甲斐崎は再び玉座へ腰かけた。


「……社長」


 それにしても凄まじい剣幕であった。あれも彼が帝王だから成せるものなのか――。少し動揺しながらも立ち上がり、鷹梨は甲斐崎の方を向く。


「耳寄りな情報がひとつだけあります」

「なんだ? こっちへ来い、聞いてやろう」


 そんな鷹梨を手で招き、自分のそばへと近寄らせる。そして甲斐崎の耳元で鷹梨は何かをささやく――。



「……そうか。『風のオーブ』のありかが……」

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