EPISODE152:観光地への来襲
レーダーの反応を追って、町の中で健が見たものは――逃げ惑う人々と、耳をつんざくような雄叫びを上げながら人々に襲いかかるシェイド。頭部の三分の一を巨大な口が占めたようなその姿――まさしく異形だ。
「うわああああ! 誰か助けてくれええええええ!!」
「こっち来ないで~~~~!!」
「ブオオオオオォ!」
恐怖にわななく住民たち。だが無情にも大アゴのシェイドは――大きな口を開けて火の玉を吐き出す。しかし当たる寸前で盾を構えて健が飛び込み、火の玉を弾く。弾かれた火の玉は大アゴのシェイドに命中し爆ぜた。
「あ、ありがとう……」
「みなさん、早くここから逃げてください!」
真剣な表情で住民たちに避難を促し、健は目の前にいるシェイドとの戦いに挑もうとしていた。このシェイドは前述のように巨大な口を持ち、それに比べて胴体は細いという異様な姿をしている。更にどことなく、深海魚のフクロウナギを髣髴させる。腹を通り越して喉まで裂けているペリカンのような口が特徴的な不気味な魚だ。
「せいっ」
剣を振りかぶって叩きつけるフクロウナギのシェイド――ビッグマウスに叩きつける。こんなのに噛み付かれたりでもしたら怪我するだけではすまないだろう。早く片をつけなければ。
「やっ!」
「グウウウウゥ」
更に叩いて斬りつける。火花が散り、うめき声を上げながらビッグマウスは後退。極端に大きい口のせいか、バランスを悪くしてふらついていた。
「とうッ!!」
「ブオオオオオ!!」
両手で剣を持ち、少し力を入れてから一太刀浴びせる。その威力は大きく、遂にビッグマウスは地面に転倒した。しばらくは起き上がれそうにないだろう。やるなら今だ!
「こいつで決める!」
声高く叫び黄色く光るビー玉――雷のオーブを剣の柄に装填。シルバーグレイの刀身が見る見るうちに輝かしい金色に変わっていき、青色の刻印は紫色に変わった。そしてその周囲に激しい稲妻が降り注ぐ。
「ふっ、はっ!」
剣をまっすぐに構えそこから十字を描く。すると十字型の衝撃波が発生し、目の前の敵めがけて飛んでいく。更に追撃で剣を逆手に持ってから振り上げ、後押しとして衝撃波を走らせる。
「クロスブリッツ!!」
以前新たに編み出した必殺技。それが命中し、ビッグマウスは爆発して木っ端微塵になった。残り火を背に「これにて一件落着!」と喜ぶ健だがそこで突然触手が腕に絡み付き――。
「!? あべべべべべべべべ!!」
腕を通して健の体に電流が流し込まれた。感電した為、体内の骨が透けて見えたような――そんな気がした。気付けば髪はチリチリ、全身が少し焦げている。こういうときに口から煙を吐き出すのは、ある意味お約束か。
「い、今の何……?」
かと思えば腕から触手がほどかれ、戸惑いを隠し切れない健が呟く。身構えて辺りを見渡す健だが――心配をよそに触手の持ち主が現れた。ふよふよと体を漂わせながら。
「なんだこいつ……クラゲ?」
◆◇◆
触手の持ち主であるシェイドは見たまんまのクラゲだった。透き通っている体はほのかに水色に染まっており、ある意味美しい。思わず吸い込まれてしまいそうな、すばらしく美しい色彩だ。だからといってこのまま見過ごすわけには行かない。
「でーい!! ってほげええええええええ!!」
ゆっくりとこちらへ寄ってくるクラゲを剣で一閃。その瞬間、健の体に再び電流が走った。煙を上げながら健は後ずさりする。
「しまった……直接叩いちゃダメなのか」
どうやらこのシェイド、常に帯電している為に直接攻撃をしかけると逆にこちらが感電してダメージを受けてしまうようだ。しかも剣を雷属性にしたまま攻撃してしまった為か、電気を吸収してパワーアップしている。
しかもこのクラゲは一体だけではなく、何匹も仲間を引き連れていた。その数は圧倒的だ。打つ手がないわけではないが、この数を前にどうすればと――思った、そのとき。
突然槍が投げられ宙に漂っていたクラゲたちを叩き潰した。更に投げられた槍が持ち主の下へブーメランのように戻り――槍の持ち主が颯爽と姿を現した。
「ケガはねぇか、東條?」
「不破さん! 来てくれてありがとうございます!」
「フッ。これくらい朝飯前さ……」
白い歯を光らせて不破が優越に浸る。
「ってあばばばああああああああああ!!」
が、たまたま近くにいたクラゲが体に接触し感電した。せっかく決めたのにこれではややカッコ悪い。呆然とした様子で、健は痺れている不破をジッと見つめていた。満足したクラゲは「ケケケ」と笑いながら不破から離れていく。なんという屈辱であろうか――。
「と、とにかく! こいつらに直接攻撃は無謀だ。あと電気も吸収されちまう!」
「はい!」
「それからこいつらは海の方からウジャウジャ沸いてやがる! ここはオレがやっておく、お前はビーチに急げ!」
「わかりました! ビーチですね!」
クラゲのシェイドはビーチで大量発生して町の方まで来ている。発生源を叩けと――そう不破から教えられ、この場を引き受けた不破にあとを託して健はビーチへと向かう。
「きゃああああああああ!!」
「く、クラゲだー!! 刺されるぅぅぅ!!」
「怖いよぉぉぉぉ!!」
ビーチへ行くとそこではおびただしい数のクラゲ型シェイドが屯していた。そしてその魔の手から逃げる人々が前方から次々とやってくる。観光地を襲う尋常ではない恐怖。人々がむせび泣き逃げ惑う悪夢のような光景。――悪夢は終わらせねば。意を決し、人ごみを駆け抜けて健はクラゲの群れの中へと飛び込んでいく。
「なんてことだ、すごい数……」
群れの中心には食べたら甘い味がしそうな、ピンク色で体が一回り大きいクラゲがいた。触手を健にかざすと、周りにいた小さいクラゲがいっせいに襲いかかる。
「(直接攻撃も電気もダメなら……)」
手早く長剣――エーテルセイバーの柄に手を回す健。黄色のオーブを取り外すと赤色のオーブを代わりに取り付け、今度は炎を纏った赤い剣で戦いに臨む。
「燃えろッ!」
その場で一回転し周囲に炎を撒き散らす。体が水分の塊であるクラゲのシェイドの体は、その高熱を前に次々と燃え上がり蒸発していく。更に地面に剣を叩きつけて炎の波を巻き起こし、どんどん数を減らしていく。これでだいぶ数も減って勝機が見えてきた。だが――。
「グッピャアアアアアアアアアア!!」
号令でもかけるように大きなクラゲが奇声を上げると残っていたクラゲたちや新たに現れたクラゲたちが大きなクラゲのもとに集まり、次々とくっついていく。
「何をする気だ!?」
集まったクラゲたちは、やがてひとつになり――ムクムクとその体を膨張させていく。あろうことか――見上げるほどにまで膨れ上がった。まるでクラゲの怪獣だ。ゼリー状の体の中で赤色の核がプカプカ浮かんでいる。
「健! 油断するな」
そこへ巨大な白い龍が飛来する。アルヴィーだ。人の姿から本来の姿である――白龍へと姿を変えたのだ。健の近くまで来ると彼に注意を促す。
「あの巨大なクラゲからすさまじいパワーを感じる……。どちらにせよ長引いたら危険だ。早めに片付けようぞ」
「ああ……、わかった!」
さあ、戦いだ――。