EPISODE142:ようこそ南来栖島へ
「あおーい空、ひろーい海……そして白い砂浜。真夏の海辺は最高だな」
「夏はやっぱり海ですよね、不破さん!」
「ああ、宍戸ちゃん……君が言う通りだぜ」
太陽が燦々と照り付ける海水浴場。ビーチパラソルの下でビーチチェアーに腰かける水着姿の男女。不破と宍戸だ。不破は赤色のパンツのような水着で、宍戸は少しオシャレな雰囲気を漂わせる黄緑色のビキニだ。二人は村上から手渡された『南国リゾート4日間の旅』のチケットを使ってこの南来栖島リゾートへバカンスに来ていたのだ。
この島は沖縄県の近海にあり、自然豊かで一年中暖かい独特の気候が特徴。海辺に町が築かれていることが多く、国内でも最大級の水族館や、この島の海や山の自然について日夜研究が続けられている観測所など様々な施設や、ボートクルーズやロープウェイなどの観光スポットも充実。大自然と人間が持つ科学が共存しているまさしく夢のような島だ。
「海はいいよなぁ。この島にいたら嫌なことなんて全部忘れられそうだぜ……」
「私もです。帰ったら村上主任にお礼言わなきゃ」
「そうだな」
大きなヤシの木と空で輝く太陽が見下ろす中、リゾート気分を満喫する二人。この地球に、いや日本に生まれてきて良かった――と、そう思い始めた矢先。
「あっ、不破さんに宍戸さん! お二人も来てたんですね」
「ど、どぉあああ〜〜!?」
「ふっ不破さん!? 大丈夫ですか!?」
――やってきた。『彼』がやってきた。どういうわけか東條健が――みゆきや白峯に、まり子といった女性陣を引き連れてこのリゾートにやってきたのだ。みゆきはいわゆるフリフリのワンピース水着で、白峯はスイムシャツの下に爽やかな白いビキニ。
まり子は自分の名前が書かれたスクール水着だ。巨乳から並乳、貧乳までよりどりみどり。格差は厳しいものの、お互い罵倒し合ったりするわけではないのでとくに問題はない。そんな健一行が南来栖島を訪れたことに驚いた不破は、ビーチチェアーからすっ飛んで上半身が砂浜に埋まってしまった。だが自力で抜け出すと、赤色の英語の文字が入ったグレーの海パン(見た目はトランクスっぽい)を穿いた健と向き合い、
「おいっ! これはどういうことだ? なんでお前がこの南来栖島リゾートにいる!?」
「えーっと、白峯さんから海へ泳ぎに行かないかって話を聞きまして。それで」
「し、白峯さんが!?」
動揺を隠せない不破。彼へ白峯が「この前、わたし一人だけで南の島までバカンスに行っちゃったのよね。そのお詫びとして東條くんたちを泳ぎに誘ったってわけ」とバカンスに来た理由を告げる。
「そ、そうだったんですか……」
「うん。そういうことだからあなたと宍戸さんにちょっと迷惑かけちゃうかもしれないけど、ごめんね」
「い、いやいいッスよ。全然大丈夫ですから! はい!」
納得が行ったからか不破が態度を一変させる。――「東條が余計だけど、水着の女の子が増えたからまあいっか!」という心の声が聴こえた気がしたが、恐らく気のせいだろう。
「――あの、ところで……アルヴィーさんは来てないんですか?」
「あっ、アルヴィーさん? あの人なら今、水着に着替えてるわよ」
「そうだったんだ。わかりましたー」
――よく見るとアルヴィーだけがいない。疑問に思った宍戸が白峯へ問う。するとまだ着替え中だという答えが返ってきた。時間がかかっているのだろうか。あるいは――思わず着るのをためらうほどきわどい水着なのか。どちらにせよ楽しみである。
「……あっ、アルヴィーさん来たみたいよ!」
みゆきが指差した方向から走ってきたのは――膝丈まで届く白い長髪を一本の三つ編みに束ねた、透き通るような肌の美女。胸元で布が交差しているデザインの青と白のツートンカラーのビキニを着ていた。
「お、遅れてすまな〜いっ」
そう言いながら走ってくる彼女の豊満な胸が、縦横無尽に揺れ動く。小皿に落とされたプリンが如く。
「お……おっ……おおっ! うおおおおおおッ!」
「と、東條! はうッ! ……ま、まるで天使、いや翼を失った女神のようだぜ……」
それを見た健が瞬く間に鼻血を噴き出して倒れ、不破はあまりの美しさにメロメロだ。男性二人だけではなく、他の女性陣も彼女のビキニ姿に見とれていた。
みゆきや白峯は頬を赤く染め、宍戸やまり子に至っては恍惚の表情まで浮かべていた。この破壊力――ある意味危険物だ。もちろん胸だけではなく、程よい体つきと腰回り、そしてむちむちした太ももも素晴らしかった。
「ど、どうだった? 似合ってたかの?」
「す、すごいわアルヴィーさん! きれいすぎてモデルでも通用しそう!」
「し、シロちゃんステキーっ! 超セクシーーっ! でも私だって負けてないもん。この旧式スク水いかすでしょ? ふふんッ」
「わ、わたしよりおっぱい大きい……でも、これは……イイ!」
「す、スゴすぎて何も言えません!」
少し恥ずかしがるアルヴィーへ対して、女子四人。白峯、まり子、みゆき、宍戸の順だ。同じ女性をも魅了してしまうとは――。やはりこの女、ただ者ではない。
「ハラショー! ハラショーッ!! イイおっぱぁぁぁぁぁぁぁい!!」
「ゆっ、ユニバァァァァァスッ! すッばらしいィィィィ!!」
健と不破に至っては興奮するあまり、やかましいほど雄叫びを上げていた。とくに不破は健以上にハイになっていたが、どちらにしても端から見れば変人である。
「あ、ありがとう……とても嬉しいぞ」
少し戸惑いながらも、アルヴィーは皆に礼を告げた。同時に、あのセクシーな水着を着てきた甲斐があったと実感した。
「いっくわよー! そぉれ宍戸さーん!」
「はーい! うわっと。じゃあ次みゆきちゃーん!」
アルヴィーが来てから間もなくして海の方で女子たちによるビーチボール投げが行われた。ルールはとくにない。自分がやりたいように自由にやれ、ということだ。まずは白峯が宍戸へトス。次に宍戸がみゆきへぶつける。二人ともぷるぷると胸が揺れた。
「あいたっ! やったわね……仕返しっ!」
「うわっ! やられたぁ……なんちゃって!」
「きゃううっ! なんでわたしが〜っ」
「まり子、遊びといえども油断は禁物だぞ~?」
「む~っ」
みゆきが仕返しに宍戸へボールを投げる。ボールを当てられた宍戸は、何故かみゆきではなくまり子へと投げ返す。ボールを当てられ転倒したまり子だがすぐに起き上がり、「やったなー! お返しよ!」とボールを宍戸へ投げつけた。宍戸に当たって跳ね返ってきたボールをアルヴィーが拾い、それをみゆきへ投げる。実に楽しそうで何よりだ。
「おおっ! すっげぇ……ボールが3つ以上もあるぞ。不破さんいくつぐらい見えました?」
「ボールが3つ? ……あぁ、そういうことか。オレが見た限りじゃ5つぐらいはあったな。つうか、よく見えんからお前の双眼鏡貸せ」
浅瀬で開かれた女子だけによる女子のための楽しいビーチボール。それを浜辺のシートの上から観戦している健と不破。健はともかく、いつも真面目な不破のキャラではないが――男なら仕方がない。
もっと鮮明に水着姿を拝みたい不破は、健から力ずくで双眼鏡を奪おうと掴みかかる。だが健はジッと耐えて放そうとしない。
「嫌です。うおーっ! アルヴィーもだけど、白峯さんめっちゃ揺らしてる!!」
「なにーっ!? おらっ、早く貸せ!!」
「あっ! な、何を!」
「幸せブタ野郎め。お前にばかりいい思いはさせんぞッ!」
興奮して鼻血を出す健。我慢という我慢を重ねてきた不破はもう我慢できなくなり、ついに健から双眼鏡を奪い取ることにした。
「フォッ、フォッ、フォォォォォオオオウ!! こりゃあいい、最高だぜぇ〜〜〜〜ッ!!」
結果は大成功。より鮮明に、より滑らかに躍動する女性陣の姿を見れるようになった。不破も嬉しくなって、思わず途中で声色が裏返るほどの叫び声を上げた。
「いいぞー! みんなもっとやれ! そして脱げェェェェ!!」
「あ、あの……不破さん」
「ポロリだ! 誰かポロリしろぉい!」
「だから不破さん……不破さんってば!」
「あ゛ァん!?」
エキサイトしている不破を止めようと、健。青筋を立てながら彼の顔を見て不破は、「今お楽しみ中なんだぞ。邪魔すんな!」と健をなじった。
「むぅ……。不破さん、僕より酷いじゃないですか」
「なんだってぇ? オレは国家公務員だぞ。その公務員に意見するとは生意気な!」
「僕だって公務員ですよ! さあ、早く双眼鏡を!」
「オワッ!」
――と、こんな風に双眼鏡の奪い合いが続く。一方で女性陣は水遊びをしたり、旗取り競争をしたり、波打ち際で砂の城やナスカの地上絵を作ったりしてビーチサイドでの遊びを満喫していた。
「ふぅ。できた……砂といえども城を建てるのは、なかなか大変だ」
「きゃーっ! アルヴィーさんすごいわぁ! 砂でこんなに大きなお城を作っちゃうなんて」
「ステキぃ! ここに住んじゃいたいぐらいだわ!」
「さすがシロちゃんねぇ!」
「そ、そう……かの?」
とくにアルヴィーが即興で作った砂の城は大絶賛。外見だけではなく細部にもこだわっており、本物さながらの迫力だった。とくに宍戸は「住みたい」と述べており、意外と俗っぽい(?)というか、二十歳の女の子らしい一面を見せた。
そして健と不破は数十分ほど喧嘩した末に――。
「やっぱりビキニのお姉さんっていいですよね」
「ああ……まるで天国だぜ、この島は」
和解して二人仲良く、ビキニの女性たちを眺めていた。青アザやタンコブが痛々しいが、今は至福のひとときだ。二人ともこういったところでは意外と気が合うらしい。
「……でもよく考えたら、オレたち蚊帳の外じゃね?」
「あ、言われてみれば……」
「仕方ねえよ、見たところ男子禁制っぽいもんな……ここは割り切るしか」
「は、ははははは……はぁ~~~~っ」
――落ち込んでいる場合ではない。南来栖島でのバケーションはまだ終わってはいないからだ。