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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第7章 近・江・乱・舞
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EPISODE137:怒りの反撃イカがかな

 伊東にアズサを託した健たちは、レーダーを頼りに新藤を追っていた。意外なほど逃げ足が早く追い付くのは簡単ではなかった。


「待て! 新藤!」

「くそ、しつけえな!」


 ようやく追い付いた! かに見えたが新藤は口から墨爆弾を吐いて目眩まし。煙幕が出ているその隙に再び逃亡してしまう。


「また逃げられた……今度はどこだ」

「ちょっとソレ見してみぃ。……コンビナートがある方やな」


 今度はどこだ、と健がレーダーを見る。――レーダーが示していたのはコンビナートがある方角。入り組んでいて広いし、身を隠すにはピッタリだ。すぐに健たちはコンビナートへ向かった。



「へへ、ここまで逃げりゃあ奴らも追ってこれないだろう」


 そして問題のコンビナート。海側に面しているここに新藤は逃げ込み、身を隠そうとしていた。コンテナはそこらにあるし、建物に逃げ込めばまず見つからない。どちらにせよ隠れるにはうってつけだ。見つかることはほぼないと言っても過言ではない。


 ――ところが、その甘い思いが命取りとなった。突然うしろから「そこまでだ!」と声がしたため振り返れば、そこには――健たちがいたではないか。しかも何を格好つけたかコンテナの上に勢揃いして立っている。


「お、お前ら……なぜここが分かった!?」

「肉眼ではごまかせても、機械の目はごまかせなかったってことだ!」

「ちぃっ!」


 うろたえる新藤へ健が告げる。続けてアルヴィーが「お主が思っているほど人間は愚かではないということだ!」と彼の言葉に補足を入れた。元より龍という誇り高き存在であるためか、彼女のその態度と言葉と姿勢は威厳に満ちていた。


「どっちにしろ、お前はここまでや。大阪のみんなダマした責任……きちんと取ってもらうで!」


 コンテナから飛び降り市村が銃で先制する。続けて健が飛び降りて剣と盾を携え、新藤を相手に銃で格闘している市村に加勢する。アルヴィーとまり子は何かあったときの為、敢えて待機していた。


「けっ! 何人来ようが同じだ!」


 新藤は槍を地面に突き立て柄に掴まって回りながらの蹴りをしかける。不意討ちだった為思わず相手の攻撃を受けるが、負けじと健は反撃。

 隙を突いて斬りつけた。よろめく新藤を更に、市村の銃から放たれたビームが襲う。吹っ飛ばされ、新藤はフェンスに叩きつけられて一緒に倒れた。


「ゲソっ! この野郎〜ッ!」


 立ち上がった新藤は墨爆弾を吐き出して反撃。槍を二人に叩きつけ奥の方へと吹っ飛ばした。転んだ二人に追い討ちをかける新藤だったが健に攻撃を剣で弾かれ、起き上がった彼に押されていく。


「うあっがあああっ」


 動きがゆるんだところを横一文字に斬られ、新藤は大きくよろめいた。そこに市村が二発、いや三発ビームを撃ち込む。怯んだところに健が斜め下に切り下ろし、そこから斜め上へと切り上げトドメに縦にぶったぎった。


「ぐっは! く、くそッ……」


 追い詰められた新藤は紫の血を流しながら後ずさりする。だが、彼の目にあるものが留まった。それは――灯油が入ったドラム缶。良からぬ笑みを浮かべるとドラム缶を倒して周囲に灯油をばらまく。


「あやつ、何をする気だ?」

「まさか……!」


 後ろでアルヴィーとまり子が彼の行動を警戒した。案の定新藤は口から墨爆弾を吐き――その爆風で灯油が燃えはじめ、周囲はあっという間に火に囲まれた。


「はっ! し、しまった! それが狙いだったのか……」

「イーカッカッカッカ! 燃えろ、燃えちまえ!!」


 周りは火の海だ。下手には動けない。だが、このままではまた新藤に逃げられてしまう。――なんとかして切り抜けないと!


「そぉい!」


 だが健は勇気を振り絞り、盾を構えて前へ前へと突き進む! 市村もそのあとに続き、思いきって火の海を突き抜けた。


「な、なにィ!? そんなバカな!」

「ヘッ! 今更こんなもんで足止めされるほど――わしらもアホやない!」


 うろたえる新藤にそう言い放ち、市村は足払いをかけて新藤を怯ませる。続けて銃で殴り至近距離でエネルギーをチャージして極大なビームを放った。

 転んだ新藤めがけ、健は跳躍して剣の切っ先を下に向けてまっすぐに突き刺す。「うがああああああ!!」と新藤は悲痛な叫び声を上げた。「いいぞ!」「その調子よ!」と二人のうしろで歓声が上がった。


「や、野郎……」


 起き上がる新藤。だいぶ追い詰められたような疲弊しきった声を上げていたが、彼の近くにはまたもドラム缶があった。ニヤリと笑い彼は「だがドラム缶はまだあるんだぜぇ!」とバカ笑いする。


「そうはさせるか!」

「なっ!?」


 そうはさせじと健が大胆にも懐に飛び込み、炎の剣でドラム缶を両断。大爆発を起き新藤を吹き飛ばした。ちなみに健は盾を構えて爆風を凌いでいた。


「東條はん! こんな汚いヤツ、クソ真面目に相手せんでええ。こっちもいっそうハデにやり返したろうやないけぇ!」

「はい、ではお言葉に甘えて……」


 お互いに武器を構え健は右を、市村は左を固め――新藤へ立ち向かう。幾度となく手痛い反撃を受けた新藤はもはや息絶え絶え。あともう一息で倒せそうだ。


「てめえら、さっきから……ごちゃごちゃうるせえんだよおおおおォ!!」


 怒り狂った新藤は口から墨爆弾を吐き二人を撹乱。更に槍を激しく振り回して突風を巻き起こし二人を吹き飛ばそうとするがそんなものは通じない。

 自分で出した煙幕の向こうから飛んできたビームを受け後退、更にそこから飛び込んできた健の斬撃を受けて大きくよろめく。


「ふざけんなぁぁぁ!」

「そっちこそふざけるな!」


 雄叫びを上げながら新藤が槍を振りかぶる。だが健にことごとく盾で弾かれ、怯んだところに渾身の一撃を受け槍をへし折られてしまう。


「な、なんだとぉ!」


 槍を折られてショックを受けた新藤。その隙に健は盾に氷のオーブを装填。実は盾にもオーブをはめることが出来る。

 表面にオーブをはめられる穴がついているのだ。相手の隙を突かないと装填するのは難しい。ただ、相手が律儀にも待っててくれているのなら話は別だが。


「このガキィィィィ! なんてことしてくれんだぁぁ!!」


 いきり立った新藤は左手で健へ殴りかかる。だが盾で受け止められてしまう。それどころか拳からゆっくりと腕が凍り付いていく――。


「がぁッ……!?」

「へへ、盾ってこういう使い方もあるんだ」


 凍った左腕に気をとられた新藤を斬りつけ、よろめいたところに健は体当たり。吹っ飛ばされると同時に新藤の左腕は粉砕された。ショックのあまり「う、腕がぁぁぁぁ」と新藤はわめき声を上げる。


「もろた! 集中攻撃や!」


 そこへ容赦なく市村が銃を乱射! 間髪いれずにビームが撃ち込まれ、最後は極大なビームが命中して大爆発。新藤は情けない悲鳴を上げた――。


「やったか!?」

「いや、まだあいつ生きてるわ!」


 アルヴィーとまり子が思わず叫ぶ。しかし新藤はまだ生きていた。


「な、なにもんだてめえら……」


 爆炎が収まり姿を現したのは――すっかりボロボロになった新藤。白くて銀ピカだった体は煤だらけになり口からは墨を垂らし、なんとも惨めで情けない格好をしていた。もう目も当てられない。


「アルバイトだ。市役所勤めのね」

「たこ焼き屋兼――銃使いや」


 なんだかんだと聞かれたら、答えてやるのが世の情けというものだ。せめて身分だけでもと、二人は新藤に教えてやった。もはやこいつに言い残すことは何もない。


「か、勝てねぇ……勝てっこねぇ〜〜〜〜っ」


 新藤はひどく狼狽していた。自分がこんな連中に負けたのが信じられないでいたのだ。なんとも哀れで呆れる話である。完全に戦意を失った新藤はその場から逃げようとするが――健と市村がみすみす見逃すはずがなかった。


「逃がすか!」


 健は雷のオーブを剣に装填し、剣で十字を描く。すると十字型の衝撃波が新藤めがけて飛んでいくではないか。それだけではなく健は逆手に持った剣を振り上げ地面に電撃を走らせた。

 十字を描き雷を伴う衝撃波を放つ。更に時間差で地面に電撃を走らせる――この技に名をつけるなら『クロスブリッツ』といったところだろうか。


「な、なんだ……うがああああああ!!」


 振り向くも時すでに遅し。二重の電撃が新藤に直撃して弾け飛び爆発した。


「こいつでジ・エンドや!」


 彼が休む間もなく市村はエネルギーをチャージして極大ビームを発射! 流石の新藤も耐えきれず――。


「かっ……甲斐崎社長ばんざぁぁぁぁぁぁいッ!!」


 断末魔の叫びを上げながら派手に大爆発。今度こそ新藤は散った。彼のような小悪党が持つには大きすぎた野望を達成できぬまま――炎の中へ消えていったのだ。


「ぃよっしゃあ!!」

「これで一件落着やな!」

「はいっ!」


 喜ぶ健と市村。二人はお互いタッチし喜びを分かち合った。ライバルというよりは、仲の良い戦友のようだ。とくに市村はあれだけ健をライバル視していたにも関わらず――。彼はいま、どのような心境なのだろう。


「終わったようだの。これで大阪の人々もひと安心だ」

「うん。新藤のやつもやっつけたからね!」


 アルヴィーが微笑む。心からの笑顔で返すと、健は他の三人に「それじゃ、みんなのもとに帰ろう」と呼び掛けてコンビナートをあとにした。



「流石だな……東條明雄の息子というだけの事はある」


 ――その背後で一つ目を模した禍々しい仮面をつけた男が佇んでいたことなど知らずに。まだ男とは断定できないが、この仮面の人物はいったい――何者なのだろうか。



◆◇◆◇



「バカな! 新藤……あいつなら出来ると思ったのに」

「己を過信しすぎた結果がアレだ。まったく不憫な奴め」


 その頃、ヴァニティ・フェアの本部――どこかの岩山にそびえ立つ古城では、戦いの一部始終を見ていた辰巳が頭を抱えていた。

 彼は新藤ならきっと今回の任務をやり遂げるはずだと信じていたのだ。ところが結果は残酷なことに彼の戦死により失敗――だった。

 いつものように顔に包帯を巻いていたが、きっと部下を失った無念や東條健一派に対する憤怒が入り混じった複雑な表情だったに違いない。

 辰巳の隣には軍服を着た大柄な金髪の外人男性がおり、彼は割と落ち着いた表情をしていた。ただ、少し残念そうではある。


「恐らく早く手柄を立てて出世しようっていう腹づもりだったんだろう。この前社長にこっ酷くお叱りを受けたらしいが、それが堪えたんじゃねえか」

「なあ、ヴォルフガング。それはつまり、新藤の奴は汚名返上に固執していたということか……?」

「かもしれんな。お前、最後に新藤と話したのはいつだ?」

「あいつが出撃する前だ」


 軍服の男――ヴォルフガングの問いに辰巳が答える。表情こそ読み取れないものの、無念と哀愁が漂っていた。


「そうか……あいつの様子に何か変なところは無かったか?」

「とくに変わったところはなかったが……少し焦っていたようには見えた」

「そうだったか」


 双方が目を瞑る。そのとき、部屋の奥から何者かが歩いてくる音がした。黒装束の男――『社長』の甲斐崎だ。


「しゃ、社長……!」


 無駄な贅肉ひとつ、無いクールでスマートな見た目に合わない眼力だけで人を殺せそうな威圧感。全身から放たれている強者の覇気(オーラ)。そしてすぐれた英知――まだ若そうな外見ながら、甲斐崎は頂点に立つ資格を十分に備えていた。


「何をメソメソしている? 過ぎた事を悔やんでいるぐらいだったら働け。死んだ奴のことは忘れろ」

「で、ですが……」

「俺の言うことが聞こえんのか?」


 甲斐崎がうろたえる二人の幹部を一睨みする。後ずさりしていくヴォルフガングと辰巳を見て、「そうだ。それでいい」と甲斐崎はほくそ笑む。


「社長、次は俺に行かせてください!」

「お、おい、ヴォルフガング……!」


 ヴォルフガングが名乗り出る。辰巳は彼を止めようとするが、ヴォルフは顔を辰巳に向け


「辰巳、お前はしばらく休め! 部下を何人も失っているのにまだ行く気か? それに傷もまだ完治していないんだろう? ここは俺が代わりに行ってやる。だからお前は休め」

「ヴォルフガング、お前……」

「フッ……同僚の代わりに行ってやろうというわけか。それもいい」


 甲斐崎が冷たく笑う。直後、甲斐崎は冷徹にも「だがキャンセルだ」と言い放った。その言葉に二人は動揺し、「何故です!?」


「しばらく様子見だ。別に連中を好きに泳がせてもかまわんだろう?」

「どういうことです?」

「ふん。しばらく束の間の平和を味わわせてやるのもまた一興ということだ……」


 そう言って甲斐崎はさっさと部屋から出て行った。何か含みを持たせたような言い草であったが、彼の真意は見えない――。

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