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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第7章 近・江・乱・舞
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EPISODE134:お役所での一幕


 翌日、健のバイト先――。


「はぁ〜……また大変なことになっちゃった」


 昼休みのことである。弁当を食べ終えて一服していると、先日の一件を思い出して健はため息をついた。『近江の矛』のリーダーこと新藤は人間に化けたシェイドであり、

 政治や警察への疑念や不平不満を募らせた大阪府民たちを扇動し、大阪府を混乱に陥れてそれに乗じて大阪を侵略しようと目論んでいた。奴は使命のためなら手段を選ばない男であった。そんな新藤が次に狙おうとしているのは――府のトップに立つ男、橋上府知事。


「橋上知事ってえらーい人でしょ? そんな人が僕たち庶民の前に簡単に姿を見せるとは、そうそう思えないんだけどなあ……」

「あら、独り言かしら?」

「はうッ!!」


 愚痴をこぼしている傍ら、金髪碧眼の若い女性に声をかけられた。この役所に務めているOLの――ジェシーだ。

 彼女は日系ハーフで、噂によれば元々は資産家の娘だったらしい。良いところのお嬢様でありながら庶民の暮らしに憧れて、色々あって今に至るのだという。


「じぇ、じぇ、ジェシーさん……もしかして聞いてました?」

「聞いているも何も、東條さんは声が大きいから思いきり聞こえてましたよ〜」

「は、はずかしーっ」


 健が顔を真っ赤にする。ジェシーだけでなく、同じくOLで陽気な姉御肌の浅田と少し控えめなメガネっ子の今井も続けて現れた。


「げげ、浅田さんに今井さんまで!」

「ちょっちょい、そんなに驚くことないでしょー」

「そ、そうですよ。私はともかく、東條さんはしっかりしないと」

「は、はい。キモに銘じておきます」

「……でさ、東條くん」

「な、何でしょうか?」

「あたしら、聞いてないようで聞いてたわよ。あなた、橋上知事に会いたいみたいね?」


 少しにやけながら浅田が健に訊ねる。「あ、あーと、うーんと、えーっと」と戸惑いながらも、健は「……そうです! 一度ぐらいは橋上府知事のお顔を見てみたくて」と答えた。


「なぁる……やっぱりね。確かにあの人、あたしら一般市民からすれば雲の上の存在だもんね。いっぺんぐらい拝んでおきたいっていうのもわかるわ」

「で、ですよね! 橋上さんテレビじゃしょっちゅう見かけますけどリアルじゃ中々お目にかかれませんし」

「そんなあなたに耳寄りな情報があるわ。……今井さーん!」


 浅田に声をかけられ「は、はーいっ」と今井が返答する。何か用意してるのか、と淡い期待を抱く健。今井がそんな健に持ってきたのは――一枚の広告だった。今井は健に広告を渡し、健はそれを読み始める。


「……こ、これは」

「はい。それにも書いてある通り、今週の土曜日に橋上さんが大阪駅で演説するそうですよ」

「な、なるほど……ありがとうございます!!」


 今週の土曜に橋上府知事が駅前で公演する――。今井からそう教えてもらった健は彼女に礼を告げた。もちろん浅田やジェシーへの感謝の気持ちも忘れてはいない。


「会いに行くならそのときがチャンスよ。人がいっぱい来るし気温もだいぶ高くなると思うから、水分補給を忘れずにしてくださいね〜」

「はいっ! ただちに!!」



「ハァ……」


 健が若くてきれいなOL三人に囲まれ華々しい思いをする中、ため息混じりにそれを見つめている中年がひとり。係長のケニー藤野だ。中年ではあるが、見た目は比較的若々しく黙っていれば十分かっこよかった。――そう、黙っていれば。


「とーじょーサン、みんなみんなとーじょーサン……ミーの名前は中々出ないネ。嗚呼、悲しきカナ、これもモテナイ中年の儚いデスティニーか……」


 カタコトで哀愁たっぷりにケニーが呟く。バックには悲壮感漂うBGMが流れていた……気がした。


「……係長、バラードとブルースだったらどっちが聴いてみたいかね?」


 ケニーの背後で演歌風のBGMを流していたのは、副事務長の大杉だ。五十代で見た目はいかにも陽気で優しいおじさんである。その中身も見た目通りのよき上司だ。


「どっちもノーセンキュー……」

「あら、そりゃ残念だ」


 そんな大杉の労いもむなしく、ケニーはぐったりと机に突っ伏した。童貞を捨てきれず魔法使いになってしまった彼に、果たしてモテ期は訪れるのだろうか?



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