EPISODE133:ようやく昼食会
あのあと健たち四人は何をしていたかというと、みゆきが怪我をした健に応急措置を施してから四人で食事をしに向かっていた。食事をとりに白峯の車が向かった場所は――『円亀』といううどん屋。
しかもただのうどん屋ではなく、コシがあっておいしい釜揚げうどんで有名な店だ。その為か来客からの人気は非常に高く、全国にチェーン展開しているほど。
「着いたわよ〜♪」
「おーっ! ここですか? すごくおいしそう!」
先に車を降りた白峯に続いて健とみゆき、アルヴィーも続いて降りる。ちなみに宍戸は来ていない。まだ不破の病室にいるか、もしくは警視庁のシェイド対策課本部に帰ったかだ。もしかすれば対策課の大阪支部に行ったのかもしれない。
「ここ、セルフサービスなのか〜。何にしようかなぁ」
「かけうどんにするのも天ぷらうどんにするのも、みんなの自由よー」
「うし! じゃあ選ぶぞー」
この店はセルフサービスだ。天ぷらや稲荷寿司等のおかずやネギ等の味付け小物が陳列されたカウンターには客がズラリと並んでいる。
どうやら先にうどんをどんぶりに入れてもらい、そこで熱いか冷たいかを決めて該当するおつゆを入れてもらってから自分で味付けしていく形式になっているようだ。なお、一番人気のおかずは鶏の天ぷららしい。
「いらっしゃいませ! おつゆはアツアツですか? それとも冷たいのにしますか?」
「んー……アツアツで!」
気さくな店員のおじさんに注文を聞かれた健がそう答えると、「わかりました、少々お待ちください!」と店員のおじさんが言った。
先にもらっていたうどんが入ったどんぶりを渡すとすぐに熱いおつゆが入ったので、今度は小皿をトレイに乗せておかずや味付け小物などをとりに行く。
「よし、これにしよう!」
見た感じウマそうだった鶏の天ぷらとちくわの天ぷら、定番のいも天をとって健は先に進む。これだけあれば腹も膨れるだろう。
代金を払い、調味料として少し七味唐辛子をかけてネギも多めに入れて健はカウンターを出た。空いてる席を探していると突然「こっちよ〜」という声が聞こえてきたので振り向くと、その方角には既にうどんをテーブルに置いて待っている白峯がいた。
「お早いですねぇ白峯さん! ホントびっくりしちゃいましたよ」
「ウフフ。キープしておいたらあとで困らないって思ってね」
どうやら彼女は先にうどんをとって席をキープしてくれていたらしい。白峯と同じ席の端に寄って待っていると、やがてアルヴィーとみゆきがやってきた。二人とも具材にこだわったメニューをトレイに乗せていた。
「ほう、お主は麺1.5倍でおかず多めにしたのか」
「ははーん。さてはガッツリ行くつもりね」
「うん。なんかさっきからおなか空いちゃってサ……」
「さて、全員揃ったことだし……そろそろ食べない?」
これで一同勢揃いである。みな腹が減っていて食べるのをこれ以上我慢できないはず。白峯が催促を入れると三人とも目を輝かせて「もちろん!」と答え、返答を聞いた白峯は「じゃ、手をあわせましょ」と両手をあわせた。それを合図に他の三人も手をあわせ――。
「いただきます!」
危うく中断されかけた食事会が今、始まった。各人、うどんに天ぷらを乗せたりザルに入ったうどんをおつゆに浸けたりとそれぞれ違う食べ方で楽しんで味わっていた。
うどんとおつゆをすする姿は如何にも美味しそうで、見ている方も早く食べたくなってくることうけあい。うどんはまさに日本が誇るソウルフードといっても過言ではない。
「ごちそうさまでしたーっ」
「ここ、おいしかったねー」
「また来てみたいのぅ」
「みんな満足できたみたいね。私も嬉しいわ♪」
そして完食。寂しいが、楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまうものだ。店から出て駐車場に停めてある車まで戻り、白峯がロックを外して運転席に乗り込んだのを合図に他の三人も興奮冷めやらぬまま車に乗る。白峯一行が乗った車はうどん屋をあとにして車道へ飛び出た――。
「しっかし、今日は大変な一日だったなぁ」
「え? なんでそう思ったの?」
「僕たち、不破さんのお見舞いに行っただけなのに藤吾って人に襲われるし、『近江の矛』リーダーの新藤とも戦うことになっちゃったし……」
訓練に負傷した不破の見舞い、その帰りにみんなでどこかにウマいものを食べに行くつもりがいろいろと邪魔が入り――大変な一日であった。そう愚痴る健だが別に悪いことばかりではなく、良いこともあった。新しい出会いもあったし、食事にも無事にありつけたのだ。
「果たしてそうかしら? 良いこともあったじゃない」
「え?」
「ちゃんと食事はとれたでしょ。あと宍戸さんとも知り合えたし、ね」
「そ、そうですよね。ははは――」
くたびれた健を励まそうと白峯が言葉をかける。ややぎこちないながらも彼女の労いの言葉に答えるべく健は笑った。
「それよりも――藤吾殿が教えてくれたことが気になるな」
少し和んできたところでアルヴィーがそう言って空気を変えた。祇園藤吾が去り際に『ええこと』と称して教えてくれたことが気になっていたようだ。その『ええこと』とは――?
「そういえば言ってたね。土日に府知事に奇襲をかけるらしいから、新藤を止めるならそのときがチャンスだって……」
「府知事って橋上さんだよね? あの人がいそうな場所ってどこなんだろう」
みゆきと健が首をかしげる。橋上――というのは現在の大阪市の府知事であり、フルネームは橋上鉄郎という。
元々、彼はお笑いタレント出身でありその事もあって気さくで親しみやすい人柄で知られているが、反面大阪の発展のためなら迷わず強行手段に出る過激な性格でもあった。その性格から彼を快く思わないものも多く、現に『近江の矛』メンバーは全員が橋上に対して不満を抱いている。
「そこが問題よね。どこにいるかなんてすぐにはわからないわ。役所か会議場か、それか自宅か……」
「居場所が特定できない以上、下手には動けんだろうしのぅ……まったく困ったものだ」
「じゃあさ、先に敵のアジトに乗り込んで叩き潰すとかはどうかな?」
「いいアイディアだがそれはできぬ」
「な、なんでさ」
「藤吾殿から『近江の矛』がアジトにしている場所を聞いていないからだ」
「そうだった……」
困り顔で白峯が橋上が行きそうな場所を挙げる。その後ろではアルヴィーがため息をついていた。そんな中で健が『先に敵のアジトに乗り込んで壊滅させる』という案を思い付くも、肝心の敵のアジトがどこにあるかがわからないため却下されてしまった。
やっと敵の正体をつかめたというのにこうも道が塞がれてしまうと、何よりも先に理不尽さを感じる。かといってこのまま大人しくしている場合でもない。――車内で話し合った結果、健たちはひとまず土日になるまで待つことにした。
あれから京都まで車で送ってもらい白峯やみゆきと別れた健とアルヴィーは、駅前にあるアパートを目指して歩いていた。食後の運動としてウォーキングを楽しみ、途中のコンビニで炭酸飲料も買ってやっとこさアパートに辿り着く。
「ただいまーっ」
「まり子、帰ってきたぞ〜」
だが玄関の扉を開けて中に入ると、そこにあったのはいつぞやのように蜘蛛の巣がそこら中に張られた――薄暗く不気味な光景だった。まるでおばけ屋敷のようだ。
「え……ちょ、え〜っ! なんだコレ……また蜘蛛の巣だらけだ。僕たち、黄金のスタルチュラに呪われたの?」
「スタルチュラを倒してしるしを手に入れるようなことはしとらんが……」
「おとなのサイフと巨人のサイフ、まだもらってないぞ!」
「もだえ石もまだだ……」
――変わり果てた部屋を見て話し合っていると、誰かが二人の背後に手を置いた。壊れかけのゼンマイ仕掛けの人形やロボットのようにたどたどしく、首をガタガタ震わせながら振り返るとそこには――。
「う〜ら〜め〜し〜や〜」
「ひえっ」
「で……で、で」
いた。
「出たぁぁぁぁぁッ!!」
確かにそこには、白い布を被ったおばけがいた。目尻が垂れ下がった悲しげな目付きとなにかを訴えるような悲痛な表情が不気味極まりない。
このおばけは他にも「でろでろばぁ〜」と叫んでおり、抱き合いながら恐怖に顔をひきつらせている二人を更にビビらせた。
が、何を思ったかおばけは部屋の電気を点け、「二人とも遅すぎぃ」と気だるげに呟いた。そして白い布を脱ぎ捨てると――中から青紫の髪に緑色の瞳をした色白の幼い少女が現れた。まり子だ。
「ま、まり子ちゃんだったのか」
「あれからずっと待ってたんだけどね、待ちきれなくなってついつい蜘蛛の巣はっちゃったの。ごめんちゃい」
「えー……ま、いっか」
「てへっ☆」とウィンクして可愛らしく謝るまり子。勝手にこんなことをされたら本来ならばゲンコツでは済まない話だが――ここは彼女がどんな気持ちで待っていたかも考えて、健はまり子を許してやることにした。
「ところでさ、さっきの話だけどさ……もだえ石ってリメイク版だとひびき石に変わってなかったっけ」
「な、なに? 健、それは本当なのか?」
「うん」
「そうか……少し残念だの」
「僕もそう思う……」
どうも。SAI-Xです。
ぶっちゃけた話、今回の話は丸亀ネタと某府知事のねたをやりたかっただけだったり…。
でも丸亀っておいしいですよね。何回か行った事ありますが、機会があればまた行ってみたいです。
さて、人気投票は相変わらずアルヴィーがTOPです!
正直ここまで人気出るとはおもわなんだぞ……