EPISODE131:イカがわしいやつ
「うっ……うああっ」
バイキングラーケンによりアルヴィーが捕らえられてしまい、彼女の体には触手が巻き付けられた。触手は胸などに巻き付いて彼女から自由を奪い辱しめを与えている。流石の彼女でもこのままでは――非常にまずい。
「アルヴィーッ!」
「グヘヘへ……離してほしけりゃ武器を置きな!」
汚ならしくバイキングラーケンが笑う。悔しいがここは指示に従わなければ、と武器を地面に置こうとする健だったがそんな彼の耳に白峯が近寄り何かをささやく。内容を理解した健は「それいいですね!」と笑みを浮かべ頷いた。
「……わかった。武器は捨てる。アルヴィーを離してくれ」
「へへ、なかなかお利巧じゃなイカ。そうだ。それでいい」
バイキングラーケンの指示に従って健は長剣と盾を置いて降伏する――と見せかけ
「えーーいッ!」
「ゲソっ!?」
突然長剣をバイキングラーケンに投げつけたッ! その衝撃でバイキングラーケンは怯み、隙を突いてアルヴィーは触手を豪快に引きちぎって抜け出す。周囲にはちぎられた触手と一緒に紫色の血も飛び散った。
「や、ヤロウ……ハメやがったな」
「よく言うよ、大阪のみんな騙しといてさ!」
怒るバイキングラーケンを健は盾で殴り、それに続いてアルヴィーはパンチやキックを入れる。下卑れたうめき声を上げながらバイキングラーケンは後ずさりしていく。
追い詰められたかに見えたが、実は彼にとっては嬉しい誤算があった。それは――先程健がバイキングラーケンに投げつけた長剣・エーテルセイバーだった。
「やりやがったな……だが、天は俺を見離しちゃいなかった!」
「なぬ……?」
「わざわざ俺様のもとに投げてくれるたぁ嬉しい誤算だったぜぇ!」とバイキングラーケンが下卑れた笑いを浮かべる。彼が示した方向には、地面に突き立てられたエーテルセイバーがあった。彼はこれを引き抜き、形勢逆転を狙っているようだ。
「しまった……そういうことか!」
「きっと私のせいだわ。東條くん、ホントにごめんっ!」
「い、いやいいんです白峯さん! あそこでああしなきゃアルヴィーを助けられなかった」
「フン! なにをゴチャゴチャと……」
あわわ、と慌てながら謝る白峯を健がなだめる。そんな彼らを尻目にバイキングラーケンは「まあいい、どちらにせよ俺の勝ちだァァァァ!!」と雄叫びを上げながらエーテルセイバーを引き抜いて握ってしまうが――
「……あり?」
重たい。すごく重たい。とにかく重たい。とてもじゃないが持てたものではない。だが自分が振り回せないのに東條が振り回せるのはおかしいと、バイキングラーケンは長剣を振り回そうとするが――重たくてそんなことはできない。むしろその逆で剣に振り回されているような感覚だ。
「く、くそぅ! どうなってんだこのナマクラはぁぁぁぁ!!」
バイキングラーケンが怒鳴る。いきり立ち刀身を殴ったがするといったいどうしたことか、彼を拒絶するように剣全体が激しく光り出しバイキングラーケンは感電。黒焦げになった挙句エーテルセイバーを地面に落っことした。
「……い、今のは?」
「よくわかんない。けど、やるなら今しかないわよ!」
「はいっ!」
「健、そうと決まれば反撃だ!」
何が原因でバイキングラーケンがああなったのかわからなかった健は白峯にその理由を聞く。だが彼女にもそれはわからなかった。しかし、今はそんな場合ではない。反撃しなければならない。アルヴィーに急かされながら健はエーテルセイバーを拾い、バイキングラーケンを斬る!
「今宵はパワフルに行くぞ!」
彼だけでなくアルヴィーも両手をいかつい龍の手に変え、その巨大な鋭いツメでバイキングラーケンを切り裂く。
「ぐへあ〜〜っ! な、なんなんだお前らぁ!」
「アルバイトだ! 市役所勤めのね!」
うろたえるバイキングラーケンを、健は大きく横一文字に薙ぎ払う。よろめいた隙に剣を軸にして蹴りを一発。更にそこから片足を踏み込んで力強く剣を振り下ろして両断。いつも手堅く戦っている健にしては大胆な戦法だ。
「そしてその同居人だ!」
「ゲソぉ!!」
立て続けにアルヴィーがツメで切り裂く。逆立ちしながらのキックやサマーソルトも決まった。流石に長い間一緒に戦ってきただけあって、健とアルヴィーの息はピッタリ。連携もバッチリだ。二人の絶妙なコンビネーションを前にバイキングラーケンはどんどん劣勢になっていく。
「野郎ぉぉぉぉ〜〜っ!!」
逆境は超えなければならないものだ。得物である穂先がイカの腹の形をした槍を取り出し、バイキングラーケンは思い切り振り回して突風を起こす。健は盾を構え、アルヴィーは地面にツメを突き立ててふんばって耐えた。力任せにして振り回したからか、バイキングラーケンは疲れだした。
「今だ、健!」
「よーし!」
だが二人は容赦しない。まず健がバイキングラーケンに切りかかり、次にアルヴィーが飛ばされてきたバイキングラーケンにツメを叩きつけて吹き飛ばす。
次に健がまた吹き飛ばし――これをひたすらに繰り返し、最終的にひるんだバイキングラーケンに健がジャンプしながらの唐竹割りを命中させてトドメを刺した。そして、バイキングラーケンは大爆発。
「ぐぎゃーーーーッ! い、いでええええええッ」
爆風の中からバイキングラーケンが転がり出す。そのまま電柱にぶつかり、痛がりながら立ち上がった。更に右腕に開いた傷口からどくどくと血が溢れており、それを押さえている。
「どうだ、参ったか!」
「ち、ちきしょう! なんでこの俺様がお前らなんかに……」
険しい表情で剣を向ける健。両腕を元に戻して腕を組むアルヴィー。そして悔しがるバイキングラーケン――完全に彼の負けだ。片目をつぶって歯ぎしりしながら二人を睨み付ける。だが彼は一瞬ニッと笑い……
「だ、だが社長にこれ以上無いくらいイイ土産ができた。ここは……逃げるが勝ちィィィィィ!!」
ゼェゼェ、と息を切らしながらバイキングラーケンが後ずさりする。そして口から墨爆弾を吐き出して爆風を煙を巻き上げ、その隙に逃亡。これで健たちは彼を完全に見失ってしまった。
「やばい、逃げられた……!」
「ううむ……厄介なヤツを取り逃がしてもうたな。今日のところはひとまず引き返そう」
二人がみゆき達の方へ下がる。みゆきは二人を見ると、「大丈夫? ケガとかしてない?」と声をかけた。もし怪我をしていたら食事に行くどころではなくなるし、手当ても必要になる。もし大丈夫ならその必要はない。
「このくらい大丈夫さ。包帯巻いて寝たら治るよ!」
「だって、みゆきちゃん。これだけ元気だったら心配いらないわね」
「……はい!」
「それじゃ、駐車場いこっか」と声をかけ白峯は健たちと一緒に歩き出す。藤吾も食事に誘おうとしたが、彼は断った。理由はただひとつ――新藤の正体を知ってしまった以上他の者にも知らせなければならなくなったからだ。もちろんすぐには信じてはもらえないだろう。去り際に彼は健たちに告げた。
「待ちぃな。あんたらどうせ、新藤さん止めに行くんやろ?」
「え? はい、そうですけど……」
「ほんなら、ええこと教えたる。あんたら襲ったお詫びや」
――彼が言う「ええこと」とはいったい何なのだろう?