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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第7章 近・江・乱・舞
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EPISODE130:関西一のスーパージャンパー

「行くでぇ! ひょっほーい!」


 戦いが始まると同時に祇園藤吾は、奇声を上げて空高く跳躍。見上げると同時に盾を構える健だったが、藤吾はどこにもいない。どこだ、とキョロキョロする健に「こっちじゃワレェ!」と藤吾が罵声を浴びせ健の喉にバイオリン型の剣をあてがう。


「へっへっへー」

「卑怯者!」


 汚い戦法に憤った健は藤吾の脇腹に肘を当てて振りほどき、盾で殴って反撃。ひるんだ藤吾を切り上げて転ばせた。


「やるやないけぇ!」


 藤吾は起き上がりざまに健に一太刀浴びせる。よろめいたところに両足で飛び蹴りをかまされ地面に転がった。だがすぐに起き上がって藤吾を斬りつける。


「いよっほー!」


 健の追撃をかわし、藤吾は大ジャンプで健を撹乱。まるでこちらをおちょくるような動きと態度だ。実に腹立たしい。


「東條くん、相手を良く見て! 動きに惑わされちゃダメよ」

「はいっ!」


 藤吾のすばしっこく不規則な動きに苦戦している健へ白峯がアドバイスを授ける。そういえば不破も、以前似たようなことを口にしていた。息を乱すな、攻撃を読まれるぞ――と。


「すばやい相手は動きを止めればいい。けど、通じるかな」


 健がしばし考えを巡らせる。やがて動きを止めたいなら凍らせればいいという結論を出し、長剣に氷のオーブをセットした。刀身が涼しげな青白い涼しげな色に変わり、剣全体に走っているラインは爽やかな緑色に変わっていく。そして辺りに冷気が発生した。


「なにをボサッと突っ立っとる!」


 健が動かずにジッとしているのを好機と見た藤吾は跳び跳ねながら急接近。目を大きく見開き下品な笑みを浮かべて空中から剣を振り下ろそうとするが――。

 急に涼しげな音を立てて両足が固まり、地面に急降下。「どういうことや!?」と狼狽するが、その隙を突かれ体当たりを受ける。

 そして立て続けに逆手持ちからの切り上げを受け再び気絶してしまう。わずかながら、藤吾の体には氷がついていた。


「冷たいやんけこのボケがぁぁぁ!」


 怒り狂う藤吾。起き上がって再び大ジャンプし、今度は足だけではなく両手も使いながら健の周囲を跳び跳ねる。


「四股をフル活用して跳び跳ねてる……まさかバネみたいになってるのか?」

「せや! おっしゃるとーり!」


 メチャメチャに跳び跳ねながら藤吾が叫ぶ。近くの横向きで適当な壁に当たるとそこから一気に跳ねて、「伸びて、ちぢんで、ボヨヨーン!」と叫びながら健めがけてまっすぐに突撃。


「ッ!」

「ィイイヤッフー!!」


 頭頂を相手に向けまっすぐ突っ込んでいく姿は、まるでミサイルのようだ。速度もかなりのもので、まるでとある野球選手のレーザービーム並だ。だがあいにく健は盾を構えており――。


「必さぁぁぁぁつッ! ロケットヘッドストラァァァァイクッ!!」


 ゴツン! と藤吾が頭から盾の表面に激突。健にものすごい衝撃が走ったが、それ以上に痛い思いをしたのは藤吾だった。大きく弾き飛ばされて転倒した彼は起き上がったものの、頭を抱えてうずくまり「痛い痛い! めっちゃ痛い!!」と悲痛な叫び声を上げているではないか。


「今だ、健! やるなら今しかないぞ!」

「そうよ、今がチャンス! どうぞやっちゃって!!」

「よし! ちょっとかわいそうだけど……いっちょやるか!」

「ファイトっ!」


 アルヴィー、白峯、そしてみゆき。三人から声援を受け、健は藤吾にトドメを刺すべく動き出す。空気中の水分を凍らせて道を作り、その上を滑る。とにかく滑る。滑るったら滑る!


「痛いよーおかーちゃーん……あ、あれ?」


 未だに頭を抱えながら情けないうめき声を上げている藤吾。肌寒さを感じた彼がふと見上げると、すぐ近くには空中に出来た氷の道の上を健の姿が。


「な、なんやねんコレは! 何がどうなってんねん!」


 騒ぎ立てる藤吾だったが時すでに遅し。勢い良く滑っている健に斬られて大きく吹っ飛ばされ、そこから更に連続で斬られた挙句に地面に叩きつけられて――爆発した。爆炎が収まるとそこには、満身創痍で地面に倒れ込んだ藤吾の姿があった。


「やったわ! 健くんが勝った!」

「へへっ。そんな、照れるじゃんかー」


 安堵の表情を浮かべて佇む健。彼のうしろにはガッツポーズをとってまで喜ぶみゆきと、微笑みながら親指を上へ突き立てている白峯、そして微笑みながら見守るアルヴィーの姿があった。


「……な、なんやねんお前はぁ」


 信じられない。なぜこんな奴に負けたのか? 自分は『近江の矛』の中でも新藤さんに次ぐ実力者なのに――。そう思いながら藤吾が呟く。


「……悪いことは言わない。新藤とは手を切った方がいいですよ」

「なんやと? どういうことや……」

「新藤はあなたたちを騙してるんだ。そして大阪を乗っ取ろうとしている」

「新藤さんがワシらを騙しとる……やと?」


 立ち上がった藤吾が目を伏せ眉を吊り上げながら答える。直後歯ぎしりして健につかみかかり、「ふざけんな!」と罵声を浴びせた。


「そんなん真っ赤なウソや! お前の方こそワシらを騙そうとしとるんやろ!」

「ち、違うんです。聞いてください! 新藤の正体はシェイドで、あなた達を騙して利用してたんです」

「ウソばっかりつきおって……このアホが!」


 怒りに身を任せて藤吾は健を地面へ放り投げる。背面からの痛みを堪えながら健は立ち上がり、そんな彼にみゆき達が駆け寄る。


「健くん、大丈夫?」

「ま、まあね……このくらい平気さ」


 心配しているみゆきにそう言い聞かせて、健は藤吾へ「信じられないから本人に直接聞いてみてください」と告げる。


「うっさいボケ! 何様のつもりや!」


 もはや聞く耳持たずか? 健の言葉を強引にはね除け藤吾が雄叫びを上げる。


「仮に新藤さんがワシらを騙しとったとしたら、他に誰を信じろっちゅうんじゃ!! 政治家も警察も役人も……もう誰も信じられへんねん!!」


 涙を流しながら藤吾が訴える。口で言うばかりで何も行動を起こそうとしない、日本の政治家や警察へ募らせていた不満と疑念がここへ来て一気に爆発した。我慢して感情を抑えるのにももはや限界が来ていたのだ。


「だけど……」

「まだなんか言うつもりか!? なんぼ綺麗事言うても無駄やぞ! ワシの考えは変わらん!!」


 今にも暴走しそうな藤吾を止めようとする健だったが、藤吾は健の言葉を拒絶するばかり。もはや手の打ちようがない――。

 それぞれ複雑な表情を浮かべる中、金属製の何かを引きずるような音とともに路地裏の方から何者かが現れる。その者は髪を黒が混じった金髪に染めた男性で、革ジャンを着ていて手には金属バットを持っていた。だが何より印象的だったのは――頭に被った三角の帽子。


「……なにあれ、イカ?」


 白峯が呟く。彼女が言う通りその男が被っている三角の帽子はイカのようにも見えた。しかも厚紙とセロハンテープで作られている。もしやイカが好きすぎて自作したのか? だとしたらかなりの熱の入れようだ。


「おーおー、お熱いこって」

「新藤さん!」

「なにチンタラやってんだ。あんな三下も倒せねえのか?」


 イカの帽子を被ったコミカルな外見に似合わず、藤吾を気遣うどころか暴言を浴びせた新藤は金属バットで藤吾を殴り気絶させる。その状態で何発もバットを叩きつけて藤吾に血しぶきを上げさせた。


「キャッ!?」

「ひどいわ、なんてことを……」


 血が出るほどまでに藤吾をいたぶるその光景はあまりに残虐きわまりない――。おびえるみゆきに白峯が駆け寄り、少しでも彼女を落ち着かせる。


「役立たずが! さっさと立ちやがれッ!」

「うっ! ぎゃあああっ!!」


 興奮した新藤はまだまだ藤吾を殴り続ける。藤吾は先程の戦いで消耗しているゆえ、体にガタが来ていた。危機を察知した健とアルヴィーは「このままじゃ死んでしまう!」「早くあやつを止めねば!」と飛び出し、新藤を止めに向かう。


「予定変更だ、藤吾! 今後革命はお前抜きで行う」

「エッ!?」

「つまり用なしってことだ」


 冷徹にも新藤は藤吾にそう告げ、不敵に笑う。そして金属バットを両手で振り上げ――。


「そんなアホな!」

「悪く思うな。お前みてぇな出来損ないは、『近江の矛』には必要ないんでな。……死ねぇ!!」


 目を見開いて笑う新藤が容赦なく金属バットを振り下ろす! 藤吾に死刑宣告が下されようとした瞬間――盾を構えた健が間に割って入り、藤吾をかばった。


「邪魔すんじゃねぇ!」

「だったらこんなことすぐにやめろ!」

「このヤロウ……!」


 邪魔された新藤は盾を構える健にも怒りの矛先を向けるが、そんな彼に真横から――アルヴィーがドロップキックをかました。「うぎゃあっ」と情けない声を上げながら新藤は突き飛ばされた。

 無事に着地したアルヴィーはいい仕事をしたような清々しい表情で一息つくと、健たちの方を振り向いて凛々しく微笑んだ。


「あ、あんたら……なんでワシを?」

「すまんな、すぐに助けてやれなくて。しかしお主も良く耐えたものだ」


 アルヴィーが優しく語りかける。つい先程まで敵同士だったにも関わらず彼女や健たちの姿を見て一筋の希望を感じとり、絶望を感じていた藤吾の表情には笑顔が戻った。

 すさんだ空気が一転して和やかになるが、向かいで地面に倒れていた新藤はそれを良しとせず唸り声を上げながら立ち上がった。口から血――いや、真っ黒な墨を吐きながら。


「……墨? やっぱりイカだったのね」


 白峯がそんな新藤の姿を見て呟く。イカの帽子を被っている上に墨まで出されたら、そう思ってしまうのも不思議ではない。ただ、吐しゃされた墨で作られたイカスミスパゲッティを食べるのは少し気が引ける。


「ち、ちげぇよ。コーラを飲みすぎただけだ……」


 ゲホゲホ、と咳き込む新藤。見苦しい言い訳をするが、口から出たのは墨や咳だけではなく紫色の血もわずかながら混じっていた。――こうなればもはや言い逃れは出来ない。


「……見苦しいのぅ」

「なんだと? 俺の言うことが信じられねーのか!?」


 呆れたような冷たい視線を向けながら、アルヴィーは地面についた鮮血を指ですくう。見事なくらい、紫色だ。ブルーベリー味かグレープ味の何かを吐いたようにも見えるが、紛れも無くこれは血液である。


「なら、これについてはどう誤魔化してくれるというんだ」

「くッ……!」


 歯ぎしりする新藤。怒りが頂点に達したか雄叫びを上げると体が液状化し銀ピカのイカのような怪人の姿に変貌した。イカの怪人の姿となった新藤を見て藤吾は、「え!? ええっ!? なんなんや、いったいどういう事なんや?」とうろたえる。


「アルビノドラグゥゥゥゥゥゥゥンッ!! この裏切り者がぁぁぁぁッ!!」

「ッ! しまっ……」


 正体を現した新藤は怒りの矛先をアルヴィーに向け――触手を伸ばして彼女に強く締め付ける。首や胸にしっかりと巻きつけ、グイグイと締め付けて苦痛と辱めを与える。


「アルヴィー!?」

「そ、そんな……」


 緊縛され悲痛な叫びを上げるアルヴィーを見た一同に悪寒と衝撃が走る。とくに彼女との付き合いが長い健とみゆき、白峯は強いショックを受けていた。新藤――もといバイキングラーケンにアルヴィーを人質をとられたいま、健たちに勝機はあるのか?


「ゲーソッソッソッソ! 動くな! 動いたらこのアマを窒息させるぞ!!」

久々の? 【シェイド図鑑】


◆バイキングラーケン

 新藤剛志の正体であるヤリイカのシェイド。

 ヴァニティ・フェアに所属している上級のシェイドであり、性格は残虐非道。

 使命のためなら手段を選ばず、虐殺から略奪まで何でもやる。

 槍などを自在に操るほど槍術や棒術に長けているにも関わらず、口から吐くイカ墨爆弾や触手による締め付けや武器の強奪などの卑怯な手段を平気で使う。

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