EPISODE128:病院へいこう
「うーん」
「白峯さーん、どうしましたー?」
その頃、大阪駅では外のベンチに座りながら白峯が健たちを待っていた。その隣にはシェイド対策課のオペレーターを務めている若い女性警官――宍戸もいた。当然ながら二人とも私服姿だ。
白峯は藤色のワイシャツにグレーのフレアスカートで、胸がキツいからかは不明だが少しはだけていた。割とシンプルながらも全体的に大人っぽい服装だ。
宍戸はチュニックワンピースにデニムのスカートで、他にも若者らしさを醸し出したカジュアルな格好をしていた。公私はキッチリ分ける彼女の性格が表れている――とも言える。
「やっぱり現地集合の方が良かったかしら」
「他に誰か待ってる人がいるんですか?」
「うん。知り合いの女の子とその友達なんだけどねー」
宍戸にその知り合いの話をしようとしたその時――「白峯さーん!」と聞きなれた声が聞こえた。若い男性の声だ。
「あっ、東條くん! 電車どうだった〜?」
「すいません、ちょっと遅れてました」
「あらら」
申し訳なさそうに頭を掻く健。もちろん彼の隣にはみゆきとアルヴィーもいた。大急ぎで電車に乗ってきたため、服装は特訓をしていたときのままだ。
「知り合いの人って、この人たちのことですか?」
「そうよ。二人とも私の友達なの」
にっこり、と白峯が笑う。三人をバックに白峯が上向きの手のひらを差し出したのを合図に、自己紹介が始まった。
「東條です! お役所でバイトやってます」
「風月です! ウェートレスやってます」
「……えーと……」
健、みゆきと順番に名乗っていく。しかしアルヴィーだけ戸惑いを見せていた。といっても理由はそんなに複雑なものではない。
健が役所で世話になっている人々や健の前で使っている『白石』と名乗るべきか、それともそのまま『アルヴィー』と名乗るべきか――?
たったそれだけだ。いつも威風堂々とした振る舞いを見せる彼女だが、こういうところは意外と繊細である。
「東條くんにみゆきさんね。……アレ? あっちの白い髪のお姉さんはなんていうのかしら」
宍戸がきょとんとした顔で言う。
「わ、私はしら……」
「ああ、この人ね? この人はアルヴィーさんっていうの!」
(と、とばり殿!?)
ここは白石と名乗ろう――とした瞬間、白峯が先にアルヴィーの名を教えてしまった。「あわわ、あわわわ」とその後ろで健とみゆきがあたふたするもすぐに「まあいっか」と自分に言い聞かせて落ち着いた。
「そ、そっか。アルヴィーさん……っていうのね」
アルヴィーを見て宍戸が紅潮する。少し照れ臭そうと――いうかアルヴィーに見とれたような、モジモジした声色で喋っていた。
「……?」
「わ、わたし宍戸って言います! み、皆さんよろしくお願いしますっ!!」
「ど、どうも。こちらこそお願いします」
宍戸が名乗りながら頭を下げる。少し緊張して顔を赤くしていたが、彼女はそれだけでなく――女性が女性に好意を抱きそのまま惚れるといういけない感情も感じていた。この場にまり子が居合わせていなかったのが惜しまれる。
「……さて、これで全員そろったわね。それじゃあ病院まで行きましょ!」
「はいっ!」
白峯の呼び掛けに全員が元気よく返事をする。彼女の引率のもと歩いていくと近くの駐車場へ辿り着いた。どうやらここから車に乗って不破が搬送された病院へ向かうようだ。
「それじゃあみんな、車に乗って!」
白峯が他の四人を車に乗せる。全員が入ったのを確認し、彼女も運転席に腰掛けた。白峯の車は比較的大きく、最大で七人は乗れそうだ。
そもそも彼女が七人乗りの大きな車を買ったのは研究機材などを運ぶためであり、誰かを乗せるよりは荷物運びに使っていたことが多かった。
最近は知り合いのみゆき達と遊びに行くことが増えて人を乗せることも多くなったため、白峯も車も嬉しいというものだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「着いたわよ〜♪」
車を飛ばすこと約一時間。白峯一行は不破が入院中の総合病院に辿り着いた。
「ここに不破さんが?」
「うん」
「でもお見舞い品なんか持ってきてないぞ……」
「それなら大丈夫よ! わたしの方で用意しておいたから」
「あ、ありがとうございます!」
ここまで来て見舞品を持ってきていないことを思い出して慌てる健だったが、白峯の一言を聞いてホッと息をついた。気を取り直して健たちは病院の中へと入っていく。ちなみにこの病院の名は『狭山総合病院』――というらしい。
「……にひひひ」
だがこのとき、まだ誰も気づいていなかった。怪しい男が近くに潜んでいたことに。この男はいったい、何者なのだろうか?
「見つけたでぇ〜ッ! いひひっ」
Q&Aコーナーだよ!
Q:最後に出てきた関西人は誰?
A:イッチーじゃないです。伊東でもないです。男なのでアズサちゃんでもないですね。
Q:宍戸ちゃんはアルヴィーに惚れたんですか?
A:あの様子だと惚れたんでしょうなあ。いいことだ。
Q:まり子は?
A:お留守番中。いいもん、ひとりでできるもん!
Q:村上は?
A:今忙しいみたいですよ。