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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第7章 近・江・乱・舞
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EPISODE127:特訓しようそうしよう


 その翌日、健たちは何をしていたかというと――。


「よいか、健。あそこに燃えているドラム缶があるだろう?」

「うん。それで僕はどうしたらいいの?」

「戦い方と、それと技の練習だ。あれを敵だと思え」

「……よっし、わかった!」


 どこかの河原にある空き地。そこは廃材置き場でもあり、先程アルヴィーが火をつけたドラム缶や工事現場に置かれているフェンス、赤いコーンとコーンの間に置かれる黄色と黒のポール、鉄パイプや角材、それから鉄骨にコンクリートの瓦――。

 とにかく様々なものが置かれていた。ここには今、健とアルヴィー、みゆき以外は誰も来ていない。周りは壊しても大丈夫そうなものばかり。つまり特訓するにはもってこいの場所というわけだ。


「健くーん、あんまり無茶しないでね」

「大丈夫だって。わかってる、わかってる!」


 心配するみゆきに元気よく言葉を返すと、「よーし、行くぞー!」と健は威勢よく飛び出した。

 ドラム缶の前で切り合いを演じ、横っ飛びでかわして斬り、転がって攻撃を切り抜け――。

 相手は動いていないものの、健の動きは本番さながらのキレの良さだった。


「す、すごい……! 健くん、前より頼もしくなった気がする」

「ああ、私も同意見だ。だが油断はできん」

「えっ、どうしてですか?」

「健だけではなしに、この頃敵も強くなってきているんだ。今後いつ辰巳やアンドレのような強敵が襲ってくるかわからない」

「そういえばこの前……」


 確かに健は強くなり続けているが、敵も強くなってきているから油断はできない――。アルヴィーのその言葉を聞いてみゆきは以前、アイアンガーゴイルによって石にされたときの事を思い出す。バイトから帰る途中突然目の前に悪魔の彫像のようなシェイドに襲われ石にされてしまった。

 健たちがそのシェイドを倒したことで石化が解けたので一緒に帰ろうとしたら、今度は顔に包帯を巻いた男が現れた。更にその包帯を巻いた男はヘビの化け物のような姿に変身、圧倒的な力で健を苦しめ――。思い出すだけでも大変だ。だが、健はもっと辛い目に遭っていた。彼のために何かしてやれることはないのだろうか? みゆきは思い詰めた表情を浮かべる。


「……まったく、あやつもあの時はずいぶんと無茶をしおったものだ。もう少し自分の体を大切にしてほしいものだが――」


 腕を組みながら、アルヴィーは全力で訓練に挑む健を見守る。

 胸が大きいゆえ、図らずも腕でたくしあげる形になってしまう。

 だがそういうものなのだから仕方がない。


「よし、そろそろ属性つきで行くか」


 ドラム缶を前に健が呟く。属性なしの時に行う攻撃と防御はバッチリできた。

 次からは属性ありで行こうと――彼はまず最初に赤いオーブを長剣の柄に装填。

 刀身が赤く染まり炎をまとった。


「ていっ! ヤァ!!」


 炎の剣を振るう健。ひとふりするたびに炎が宙を舞う。

 逆手に持って振り上げれば地面に炎の波が走る。その姿は荒々しく、美しかった。


「次はビリビリ行くか!」


 そう言って健はオーブを入れ替え、黄色いオーブを装填。

 今度は青白い電流が走り、刀身が金色に光り出した。気合いを溜めてから振ると三日月状の衝撃波が飛び、空高く飛び上がりながらの唐竹割りを決めれば健の周囲に稲妻が落ち地面に電撃が走った。どれも威力は絶大だ、何故ならこのオーブのエネルギーは高出力だからである。


「熱くなってきたな……今度はクールに行こう」


 少しカッコつけた声色で呟きながら健はまたもオーブを交換。

 今度は見るからに冷たそうな青白いオーブを装填した。

 これは氷属性をこの長剣――エーテルセイバーに付加する効果がある。

 敵を凍らせて動きを止めたり、火を消したり、空気中の水分を凍らせて空中に道を作ったり、水面を凍らせてその上を渡ったり――。

 何かと便利で扱いやすい為か、健はこのオーブを気に入っていた。炎のオーブと同じく戦い始めた頃から世話になっているので愛着も自然に沸いてくるというもの。


「凍りつけッ」


 健が手のひらから冷気を放つ。

 するとあれだけ激しく燃えていた炎が、みるみるうちに小さくなっていくではないか。

 それほど今の冷気は強力なものだったのだ。剣を振れば冷気が巻き起こり、地面に剣を叩きつければ氷の刃が突き出す。

 これにより攻撃面でも他と比べて遜色なく、汎用性が高いことをアピール。息抜きに少し剣を振り回して遊ぶと涼しげな一筋の風が辺りに吹き始めた。


「おお、心地よい風だの」

「気持ちいいーっ♪」


 後ろにいたみゆきとアルヴィーにもその風は届き、二人とも和やかな笑顔を浮かべた。

 この季節である、この暑さである。涼しい風ほどありがたいものはない。


「よし、……最後に三つ同時に行ってみるか!」

「うむ、それがいい! あれはここぞという時に使うに限るからの」

「あと一息よ、がんばってー!」


 声援を受けながら健はエーテルセイバーの柄に赤と黄色のオーブを装填。この柄に開いたオーブをはめる穴は、当初はひとつだけだった。

 だが白峯とばりが研究と解析を重ねた結果、突如として新たに二つの穴が開いたのだ。これにより今までに手に入れた三つのオーブを同時に使用しての必殺技を繰り出せるようになった。

 だが、当然負担も大きく――事実、はじめて使用した辰巳との戦いでは使用後に健の体に激しい疲労が襲いかかった。

 未知のパワーの塊であるオーブを三つ同時に使っているためであり、そのエネルギー量はおびただしいものがあった。

 そこでとばりは健から腕時計を拝借して、それを素材に余剰エネルギーを吸収して負担を軽減する装備品――セーフティブレスを開発。

 時計としての機能は完全に失われたが、その代わり戦いは楽になった。三位一体の必殺技だけでなく、他の必殺技を使用した際の負担も軽減してくれるからだ。


「行くぞ、三位一体ッ! 名前はそうだな、えーと……そうだ!」


 いざ三位一体の必殺奥義を繰り出す!

 ――と思われた矢先、技の名前をつけていなかった健は思い悩む。

 あまりに間抜けな彼の姿を見て肩透かしを食らったアルヴィーとみゆきはずっこけた。

 二人とも、最初から考えとけよ……と呆れたに違いない。


「――そうだ、これでいこう! トリニティスラッシュ!!」


 やっと技の名前を思い付いた健は大きく剣を振りかぶった。

 最初に剣を振ると激しく燃え盛る炎が龍の如く空を舞い、次に振れば輝くほど冷たい吹雪が辺りに吹きすさび、最後に振れば激しい稲妻が辺りに降り注いだ。三色三属性の必殺の刃はあまりに威力が強く――耐えきれなくなったドラム缶は大爆発した。


「よっしゃ決まった!」


 健が嬉しさのあまりガッツポーズ。それは特訓が終わった事を示す合図でもあった。

 ただ、セーフティブレスを装備していても反動は大きく――健の動きはふらつきそのまま倒れた。

 倒れた彼に駆け寄ったアルヴィーとみゆきが、「健!」「健くん!」


「だ、大丈夫――でもやっぱり堪えるね、これ」


 駆け寄った二人に支えられながらぐったりと、しかし笑顔を絶やさずに健が言う。

 やや苦しげではあったが、その笑顔からは心強さと頼もしさが感じられた。

 以前の情けない彼からは想像もつかないほどだ。

 これも長い間アルヴィーと共に暮らし、鍛練と経験を積んできた賜物(たまもの)――かもしれない。


「さ、腹も減ってきただろう。メシでも食いに行かんか?」

「うんっ、そうする! みゆきはどこで食べたい?」

「健くんが好きなとこで良いよー」


 わかった、と健が返す。

 自分を支えてくれた二人に「もう大丈夫だよ、離して」と告げるとどいてもらい、一人で歩き出す。

 さあ食事だ、と意気込みを見せたその時――。


「うん? 誰からだろ」



 その時、みゆきの携帯電話が振動した。


「もしもーし、風月ですが」

「あっ、みゆきちゃん?」

「白峯さん!」


 電話の相手は白峯だった。口調から察するに少し慌てているようだ。


「昨日不破くんが大ケガして病院に運ばれたみたいなの」

「えっ!? びょ、病院に……?」


 不破が病院に運ばれたと聞いてみゆきが声を上げた。

 ちょうど近くにいた二人も驚きを隠せなかった。


「どこの病院ですか?」

「大阪市内の総合病院みたい。これからお見舞いに行くんだけど、よかったら一緒に来てもらえる?」

「はい!」

「わかりました。大阪駅で待ってるから一応健くん達にも話しといてね。それじゃ」


 そう言って白峯は電話を切った。

 みゆきは携帯電話を仕舞い二人に、「大変よ、不破さんが病院に運ばれたって!」


「えっ!? ど、どこに?」

「大阪市内の総合病院みたい。白峯さん大阪駅で待ってるらしいから、早く行かなきゃ」

「大阪駅で待ち合わせか。うむ、わかった。急ごう!」


 アルヴィーが走り出す。彼女に続いて健とみゆきも走り出した。

 ――特訓で破壊したドラム缶の火を消し忘れていた事を思い出したアルヴィーは途中でUターンして消火。急いで二人のもとに戻り再び走り出す。


「不破さんに何があったんだ……?」


 いったい、不破の身に何があったのだろう? 少し不安になりながらも三人は疾走していた。

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