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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第7章 近・江・乱・舞
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EPISODE120:曇りのち雨模様

 不破とまり子の間に生じたこじれ、突然発生したシェイドの襲撃、そして颯爽と現れた『近江の矛』――。海洋博覧会を楽しむ一日になるはずが、気付けば不穏な空気が漂う嫌な一日になってしまった。このままでは、楽しむつもりで来た自分達の気が晴れないというもの。


「大変な一日だったね。みんなでワイワイやるはずだったのになぁ……」

「まあ、そういうこともある。気を落とすでない、また今度楽しめば良いではないか」

「そうだよね……ははっ、はぁ〜〜」


 不破や市村と別れた健たちだったが、気分は晴れから所変わって、曇りのち雨。アルヴィーが落ち込む健をなだめるが、彼は立ち直らないまま。


「シロちゃんの言う通りだよ〜。また明日楽しんだらいいじゃない。ねー」

「う、うん、そうだね。まり子ちゃんはどこ行きたいの?」

「わたし? えーっとね……泳ぎに行きたいなあ」

「おっ泳ぎたいの? どこがいい、海、それとも川? それともプール!?」

「お兄ちゃん、興奮しすぎよー……」


 健が興奮するのも無理はない。海といえばビーチ。ビーチといえばスイカ割りに、水着の女の子やビキニのお姉さん方。海の家で食べる昼食も絶品だ。海に比べてやや地味だが川で泳ぐのもなかなか楽しい。泳ぐだけ泳いで体を乾かしたら、次はバーベキューだ。ただし噛みついてこちらの血を吸うヒルや、川の流れには気を付けた方がいいだろう。

 最後にプールだが、こちらも非常に気持ちいい。広いプールならスライダーもあるし、何より水着の女子が海と同じぐらい多い。楽しさも海と互角だ。どちらにしても健は興奮するだろう。まずは胸の谷間に目が行き、次にお尻と太もも。スケベなら仕方がない。それが男のサガである、でも健はそれに逆らわない。彼は意外と己の欲望に忠実なのだ。


「泳ぎに行くの? いいわね、それ! 私はプールがいいと思うけど、みんなは?」


 みゆきが健の提案に興味を示す。何の偶然か、ちょうど彼女もたまには泳いでみたいと思っていたところだったのだ。どこがいいのかを健とアルヴィー、それからまり子に訊ねたが、答えはバラバラだった。

 「海!」と答えたのが二人、「プール!」と答えたのが一人。みゆきも含めればプールに行きたいのは二人だ。これによって川で泳ぐという選択肢は消え、半分に分かれた。ちなみに市村と不破はこの場にいないので含まない。市村なら海を選んでいただろう。不破は――夏のお嬢さんが拝めるならどちらでも良さそうである。


「半々かー……これじゃひとつにしぼれないな。ここはジャンケンで決めよう!」


 このままではどこにも行けない。健の言葉を合図に、ここはジャンケンで行き先を決めることとなった。その結果は――。


「よっしゃ、海にけってーい! ビキニの女の子、見放題だぜーっ!!」

「うむ、これで日焼けできるな!」

「ま、まけちゃった……トホホ」

「スライダーで滑りたかった〜……」


 結果は、健とアルヴィーの『海に行きたいチーム』の勝ち。惨敗したみゆきとまり子の『プールに行きたいチーム』は悔しさから唇を噛みしめていた。よほど負けてしまったのが残念だったようだ。負けたショックは奥深い。お互いに眉をしかめて見つめ合い、みゆきが「な、何よ。ジッと私のこと見ちゃってさ」


「……べ、別にあんたと同じことなんて考えてないんだからねっ!」

「そりゃこっちのセリフよ! そーゆーまり子ちゃんは何考えてたのよ?」

「うーん、そうねー……わたしの水着姿で男はみんなイチコロ! 健お兄ちゃんはメロメロ!」

「あっはははは! 何それ、笑っちゃうわね!」


 まり子の考えを聞いたみゆきが面白おかしく笑う。普段の割と清楚な彼女からは想像もつかないような嫌味のある笑い方だ。


「何よ、何がおかしいのよ」

「あなたみたいなお子様が健くんをメロメロにしようだなんて無理、無理!」

「ふーんだ。見てなさいよ? わたしが大きくなったら、みゆきさんが貧相に見えるくらいセクシーになっちゃうんだから」

「何よこいつぅー! お子様のくせにぃ!」

「並乳のくせにー!」


 喜ぶ健の傍らで、女二人が勝手ににらみ合いをはじめてしまった。片方は幼なじみ、片方は将来確実にスタイル抜群になることが約束されている幼女。健にとっては、どちらも捨てがたい――。


「まあまあ二人とも、落ち着いて」

「なによッ!」「なんなのよッ!」

「え、えーっと……で、できれば仲良くしてね。出来ないなら海には行けないから、うん」

「わ、わかったわ……」「はーい」


 二人の気迫に少し戸惑いながらも、健はそう呼びかけてこの場を丸く収めた。みゆきもまり子もやや納得が行かないような表情をしていたが、果たして当日はどうなるだろうか――。



「ん……あ、雨? まさか……」


 そして、翌日。雨が窓を叩く音を聞いて健は目を覚ました。つられてアルヴィーとまり子も目を覚まし、健と一緒に茶の間へ向かう。まさか、と思いテレビの電源を点け、天気予報がやっているチャンネルに回すと――。


「今日は全国的に一日中ずっと雨が降るでしょう。お出かけの際は傘を忘れずに持って外に出てくださいね。本日の天気予報は以上です♪」

「あ、雨……だと……?」

「そんな、バナナ……」

「じゃなくてバカな……」


 容赦のない言葉が突きつけられ、テレビの前の三人はショックを受ける。そう、今日は雨降りだ。しかも豪雨で、迂闊に外に出ようものなら確実にびしょ濡れとなってしまう。故に傘があっても安心できない。――いつもお世話になっているお天気お姉さんだが、このときばかりは残酷に思えた。こともあろうか、ショックのあまり健は突然床に転んでじたばた暴れだし


「うわあああああああ! な、なんてことだぁぁぁぁ! とばりさんにもお忙しい中来てもらう約束してたのにぃぃぃぃ!!」

「お、お兄ちゃん!?」

「なんてことだ。ショックのあまり健が子供に戻ってしもうた……!」


 手足をじたばたさせ、オモチャを買ってもらえなかった子供のようにわめく健。これには流石のまり子とアルヴィーも頭を抱えた。元々、健には幼さが残っている一面があったが、こんなケースははじめてである。それほどまでに雨が降って海やプールへ泳ぎに行けなくなったのがショックだったのだろう。


「ど、どうしよう。シロちゃんはこういう事があったらどうしてた?」

「健がショックで幼児退行を起こすなんてケースははじめてだ。どうやって落ち着かせるかなんてわからん」

「じゃ、じゃあさ、おしゃぶりとかガラガラとかある? それであやしたら落ち着くんじゃない?」

「そんなもんない」

「えー!? そ、それじゃあ哺乳瓶は?」

「それもウチにはない」

「そんなぁ……」


 愛してやまない健がぐずるのを前に戸惑うまり子。難しそうな顔で腕を組むアルヴィー。なかなかいい案が思い付かない二人だったが、悩みに悩んだ末にあることを思い付く。それは――。


「……そうだ! シロちゃんのおっぱいをお兄ちゃんに飲ませたらどうかなぁ?」

「や、やめんか恥ずかしいッ! そんなことしてみろ……PTAがキレるぞ。それはもう烈火のような勢いでな!」

「えーっ!? 授乳もダメなら、どうしたらいいの? もう手の打ちようがないよぉ」


 もはや何も出来ない。長いこと健と同居してきたアルヴィーでもどうしようもない事態となっていた。だがそんなとき、健の携帯電話から着信音が大音量で鳴り響く。


「……ハッ! 電話だ、誰からだろう」

「嘘っ!? 元に戻った……」

「はて、こんなに立ち直りの早い奴だったかの」


 つい先程までわめき散らしていた健だが、どういうわけか突然正気に戻った。電話に出るときぐらいはちゃんとしなければ、と思ったのだろうか。ちなみに電話の相手はとばりだった。


「もしもし、東條です」

「あっ、東條くん! 海、行けなくなっちゃったねぇ……」

「はいー、すごく残念です……。なんで雨降んのかなぁ。昨日は晴れてたのに」

「ホントよねぇー……こっちは干からびそうなくらい暑いけど」

「えッ!?」


 目を丸くした健が大声を出して驚く。とばりも残念そうに喋っていたが、一方でどこか楽しそうな雰囲気だった。――実は、健は彼女が今どこにいるのかまでは知らない。


「と、と、とばりさんっ! 今どこにいらっしゃるんですか!?」

「あなたのうしろー☆」


 ビクッ! と、健の背中に悪寒が走る。そのうしろで話を聞いていた二人にも同じく悪寒が走った。しかし、後ろにとばりはいなかった。彼女は脅かしてやろうと健に冗談を言っただけだったのである。なんとも心臓に悪い。


「うっそー! そこには誰もいませーん」

「じゃ、じゃあどこに!?」

「実はね、わたし……南の島にいるの♪」


 ――その瞬間、三人に脳ミソに電流を流されたような衝撃が走った。雨が降ったために海に行けなくなったにも関わらず、とばりが嬉しそうに話していたのは南の島でバカンスを楽しんでいたからだったのだ。道理で健たちが海洋博に行った日に彼女が来なかったわけである。


「え……、えーっ」

「またお土産買ってくるから待ってて。それじゃあ♪」


 そこで電話は切れた。健にはもはや、先程のように喚き散らす気力すら残っていない。ガクッとうなだれた。その隣にいたアルヴィーはハトが豆鉄砲を食らったような何ともいえない表情を浮かべており、まり子は魂が抜けたかのように目が点になって口をぽっかりと開けていた。



「ん~……やっぱり夏といえば海よね~♪」


 その頃とばりは、南の島でのバカンスを満喫していた。日光を存分に浴びて色白の肌を焼き、ビーチチェアに腰掛けながら気ままにハイビスカスの花が添えられたソーダを飲む。フードつきのスイムシャツと、黒いビキニが眩しい。透き通るような肌を水に濡らしたその姿は、何より妖艶で美しい。同じビーチに泳ぎに来ていた男性だけでなく、他の女性も虜になってしまったほどだ。美女一人を拝むのに性別は関係ない。暑さもどこかへ吹っ飛んでしまいそうだ。


「東條くんたちには悪いけど、せっかくだし楽しんでいかなくちゃねぇ」


 ――それにしてもこの白峯とばり27歳、ノリノリである。

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