EPISODE118:侵略! タコ息子
タコのようなシェイドが触手をうねらせ、それをムチで打つように叩きつける。転がってかわし、健は攻撃すると同時に触手の一本を叩き切る。紫の血が散乱し、タコのシェイドはうめき声を上げた。
「うぎーっ! このポットパス様のウデを切り落とすとは!」
「自分に様付けとは、いかにもザコが言うことだね!」
「なめんじゃねーっ!」
ブシューッ! と、タコのようなシェイド――ポットパスが口から盛大に黒いものを吹き出す。タコが吐くものといえば、そう――タコ墨だ。
「め、目の前が真っ暗だ」
タコ墨というのは、タコが外敵から身を守るために吐き出すもの。これを相手の目にぶっかけて視界を悪くする。その隙にタコは敵の魔の手から逃走するのだ。
「健、うしろだ!」
「っぐはっ!」
視界が悪くなった健を狙い、ポットパスがドロップキックをしかける。アルヴィーはすぐ回避するよう健に呼びかけたが、目の前が真っ暗になっていてほとんど見えない彼が後ろからの攻撃にとっさに反応できるわけがなく、直撃。起き上がって目を袖で拭き、体勢を整える。
「ケケッ、ざまあみろ! 次はこれでも食らえタコ!」
ムチのように触手がしなる。だが、健は跳躍してポットパスの懐に飛び込み、一撃浴びせる。
「タコタコうっさい!!」
剣を突き立てそれを軸にして鋭い蹴りを繰り出し、突き飛ばす。湯気を吹き出して怒ったポットパスは近くにあったポールを投げつける。だが、盾で難なく弾かれた。ポットパスの怒りのボルテージはますます上がっていく。
「このクソガキ〜〜〜〜ッ! ゆるさーーんッ!!」
怒号を上げながらポットパスが突撃する。体当たりされて吹き飛ばされないよう、盾を構えて防御に入る健だったが――。銃声と共にビームがいくつも飛来し、すべてポットパスに命中して火花を散らす。
「おいおい、何の騒ぎや!?」
陽気だがどこか攻撃的な声とともに、空中での宙返りを華麗に披露しながら青い髪の男が颯爽と現れた。メタリックブルーの大型の銃を手にしたその男の名は――。
「市村さん!」
「なんや、会場からみんな逃げてったから何があったんや思うたが……えらいごっついタコおるやんけ!」
その男は何を隠そう、浪速の銃狂いと呼ばれ恐れられている男――市村正史。「お前か、お前の仕業やな!」と叫んで怒りを露にすると銃口からビームを放ち、ポットパスを攻撃。更に追撃を加えながら、「みんな、この炎天下の中楽しんどったんやぞ! それを邪魔しよってからに!!」
「お前みたいなヤツは焼いても食えんわい! 真っ黒焦げにしたるわぁーーッ!!」
ポットパスを待っていたのは自分を有利にするチャンスではなく、ビームの連射というもらっても嬉しくない応酬。その勢いと来たら健が加勢に入る隙も見当たらないほどだ。
「なんという気迫だ……市村さんに加勢する隙がない!」
「このまま任せちゃっても大丈夫そう」
「いや、まだわからんぞ」
「……焼いたらおいしそう」
市村の戦いぶりを見た他の四人がコメント。それぞれまったく意味が異なることを呟いていた。まり子は「じゅるり」とよだれを出しており、既にポットパスを食べ物扱いしているようだ。
「東條はん、突っ立ってんと手伝ってくれや!」
「は、はい!」
健に協力を呼びかけ、駆け寄った彼に「タコやったら焼いて食わなあかんな!」と冗談を飛ばす。元から協調性は少なからずあったとはいえ、以前の健を常に敵視して隙あらば倒そうとしていた市村と同一人物とは思えない。
実はこれ、単なるジョークではなく――健にヒントを与えていたのだ。相手はタコ。タコは軟体動物。軟体動物はたいてい水中に棲んでいる。いきる上で体内の水分が重要となってくるため、それを強い熱で乾かされたりすると――また、雷にもあまり強くない。つまり……?
「焼いて食うか……はいっ! 喜んで!」
市村が言った言葉の意味に気付いた健は、長剣の柄に赤色のオーブをセットする。シルバーグレイを基調とした長剣の色が、瞬く間に炎に包まれ赤を基調としたカラーリングに変わっていく。見るからに熱く、少し近付いただけでかなりの熱気が肌が焼かれてしまいそうだ。
「よっしゃ、準備完了!」
「あとは焼くだけですね」
「ヒィィィィ! なんなんだこいつらぁ! ここは逃げるタコぉーー!!」
なんという威圧感だ、勝てる気がしない! 恐れをなしたポットパスはびくびくしながら、逃走を図ったが――。逃げた方向には大きな蜘蛛の巣が張られていた。まるで行く手を阻む壁のようだ。その近くの木の枝には、まり子が座っていた。見下すような視線でポットパスを見ている。
「残念でした、東尋坊。じゃなくて、とおせんぼ〜♪」
「え、えーっ!?」
「酢漬けもいいけど、タコといえばやっぱりタコ焼きよねぇ……フフフッ」
食い物にするのを前提でしゃべっているまり子に、動揺を隠しきれないポットパス。蜘蛛の巣に引っ掛かって身動きが取れなくなった彼に極大ビームが着弾。
立て続けに炎の剣を携えた健の踏み込みながらの斬撃を受け、ポットパスは情けない悲鳴を上げながら爆発した。爆発をバックに、健と市村はそれぞれカッコいいポーズを決めた。とくに健が剣を振り回しながら鞘にしまう仕草はキザで少し憎たらしい。
「さ、これでもう安全やで……むっ!」
「ひと安心ですね……むむっ!」
爆発が収まり振り返ると、奴がいた。あれほどの大攻撃を受けてまだ息があるとは大したものである。とはいえ、既に相手は虫の息。ピクピク震えることしか出来ていなかった。それを見た市村は、みゆきとアルヴィーがいる方へ振り向き
「……タコの丸焼き、いっちょ上がりや! 誰か食べへんかー?」
「いいです、遠慮します」
「あとで屋台で買うからいらぬ」
市村からの問いに二人は首をかしげ、即答した。にやついていた市村はきょとんとした顔を浮かべる。そんな彼の後ろで「じゃ、わたしがもらうね!」と声がしたので振り向くと――まり子が髪の毛から変化させた蜘蛛の脚を突き立ててポットパスを喰らっていた。少しかじりだしたかと思えばあっという間に食べ尽くしてしまい――腹がふくれた。
「食べすぎたー」
「た、確かにそうだね……」
健が冷や汗をかく。あくまでさりげなくポットパスを食べていたまり子だが、かわいらしい言動とは裏腹にその光景には恐ろしいものがあった。相手は人ではなくシェイドだったが、これがもし人間だったらと思うと――。彼女は無邪気なようで残酷である。
Q:タコが人間界を侵略しちゃダメなの?
A:ダメな事はない。けど、どうせ侵略されるなら女の子がいいです
Q:ポットパスの名前の由来は?
A:ぽっと出+ポット+オクトパス。ポットはこの場合はツボです。タコ壺ってことで。




