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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第7章 近・江・乱・舞
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EPISODE116:せまられた選択

「あーあ……何だかなあ」


 先日の晩に不破から『大阪に行くな』という警告を何度も受けたせいか、健はすこぶる不機嫌だった。バイト先でも浮かない表情のまま仕事を続けており、周囲が「何かあったのか」と心配してしまうほどだった。昼休みになっても延々愚痴りながら弁当を食べている始末。これでは周りがつい彼のことを心配してしまうのも無理はない。


「東條さん、何か嫌なことがあったんですか?」

「じぇ、ジェシーさん!」


 そこに青い服を着た金髪碧眼の女性職員――ジェシーが現れた。日系ハーフでおっとりした性格の彼女は、噂では元お嬢様らしい。また、(ちまた)ではメガネをかけたら似合うんじゃないかと噂されていたりもする。


「えーとね、実は……知り合いに警察の人がいまして」

「あら」

「それでその人がしつこいぐらい言ってきたんです、大阪は危険だから行くなって」

「あらら……それは大変。どうしてですか〜?」

「自警団を気取ったギャングが警察に対してデモを起こそうとしてる、って言ってました」

「自警団……」


 きょとんとした顔でジェシーが呟く。少し困った様子で人差し指を口にそえながら、「大阪に自警団なんていたかしら〜……」


「それって『近江の矛』ってやつの事?」


 そこに茶髪をなびかせた明朗快活な女性――浅田が割り込んだ。いつもは髪を後ろで束ねている彼女だが、今日はなぜか髪を下ろしていた。


「お、近江の矛って?」


「ニュースとかで見たことないかな? 爆弾だの拳銃だの、とにかく危ないものばっかりで武装した人たちよ」

「……あ、ああ! 確か、この前報道されてましたね!」

「そのニュース、私も見てました〜。確か市庁舎に火炎ビンとか手榴弾を投げ込んで騒ぎになってたとか……」


 浅田からそう言われて、健もジェシーも以前に見たニュースのことを思い出す。一週間、いや二週間前だっただろうか。日本列島が夏休みシーズンに入ったばかりの時の出来事だ。暑さと戦いながらも夏を楽しんでいた人々を混乱に陥れるような事件が起きた。自警団『近江の矛』を名乗る連中が現れ、そのリーダー格が「警察も政府も我々を守ってくれなかった。だが、今は違う。我々近江の矛が大阪を、関西を守る。もはや誰一人として守れない無能な警察や、腐りきった政府の連中は必要ない! 奴らに天罰を下す!」と雄叫びを上げたのを合図に、彼らは市庁舎など政府関係の施設でデモを起こした。はじめは市民からそれなりに信頼されていた『近江の矛』だったが、この事件をきっかけに信頼はがた落ち。今ではすっかりいい評判を聞かなくなってしまったというわけだ。


「世の中物騒になったよねぇ……暑さで頭をやられたのかな」

「そういうことが立て続けに起きてるんじゃ、遊びにも行けなくなっちゃいますね。まったくイヤな世の中だ」

「あら、東條さん。もしかして大阪に遊びに行く予定を立ててたのかしら?」


 何かを察知したような口調でジェシーが問う。彼女からの問いに、健は少しビビりながら「はい」と答えた。


「土日に友達と海洋博覧会に行く予定だったんですよ」

「海洋博覧会、ですか〜。楽しそうね〜……私も行ってみたいです」

「でもさっき言ったように、知り合いの警察の人から行くの止めるように言われてて……」


 言葉の最後に健は、「残念きわまりないです」と付け足した。真面目に働くのはもちろんだが、たまにはパーッと遊びたい。本来なら友達と遊びに行くはずだったのが、行き先の大阪が何やら揉め事が起きそうな雰囲気になっており、迂闊には行けなくなってしまった。非常に残念なことである。ただ、健はエスパーである。当然戦えるし、程度にもよるがギャングぐらいなら楽勝だ。しかし、友達をそいつらから守りきれるかどうかは――正直、自信がない。



「はぁー……」


 バスを降りた健は、ため息をつきながら歩道を歩いていく。夏だからか、夜とは思えないほど外は明るい。夕方だとウソをついても通じそうなくらいだ。


「ただいまー」


 アパートに辿り着くと玄関の扉を開け、低いテンションのまま呟く。スリッパを履いてトボトボと洗面所へ向かい、手洗いとうがいをすませる。リビングに移動するとそこでは、アルヴィーとまり子が仲良くおやつを食べていた。


「おかえりー。元気ないけど、何かあった?」

「なんでもなーい……」


 まり子からの問いに疲れぎみで、そっけなく答えた健。器に盛られていたせんべいを一枚取りだし、バリバリとかじる。そんな健にアルヴィーは、「なんでもないことないだろう。相談に乗ってやるから、話してみぃ」と気さくに声をかけた。


「土日にみゆきと海洋博に遊びに行く予定してたんだ。そのことについて職場で話してたら憂鬱になった。あとはご覧のとーり……」

「海洋博か。どんなところだ?」

「大阪港の辺りでやってる博覧会さ。海についていろいろ展示してるんだって」

「何が展示されてるの?」

「海はなんで青いのかとか、海の生き物とか、海の底はどうなってるのかとか……そういうのを展示してるらしいよ」

「へぇ、面白そう!」

「私もまり子に賛成だ! その海洋博とやらに行ってみたい!」


 海洋博覧会のことを話してみたところ、二人とも目を輝かせながらただならぬ興味を示した。だが、いけない。この二人も、みゆきも、危険な目にあわせたくはない――。楽しんでいるところに水を差すようで悪いが、ここはちゃんと伝えなければ。意を決して健は「でも行けないよ」と二人に告げる。


「えっ、どうして?」

「不破さんから止められたんだ。行ったら死ぬかもしれないからやめとけってさ」

「そんなー……」

「あと、わるーい人たちが刃物とか拳銃とか、爆弾とかで武装して暴れてるらしいんだ。ちょっと残念だけど、そんな危険なところにはおちおち遊びに行けないよ」


 それを聞いてさっきまで興味を沸かせてはしゃいでいた二人が急に黙りこむ。よほど外に遊びに行くのを楽しみにしていたのだろう。


「そうは言うが……お主としてはどうしたいんだ?」

「できれば約束は守りたいけど……うーん」

「じゃあ、行けばいいじゃない」

「えっ?」

「それで、みゆきさんとの約束もあの人の事もあなたが守ればいいの。それでいいでしょ? お兄ちゃん」


 まり子にそう言われて、健はきょとんとした表情で彼女を見つめた。確かに自分たちは戦えるが、危ないものは危ない。それに無駄な争いと血で血を洗うようなマネをしたくはない。健は再三悩んだ。不破からの言いつけどおりに事を運ぶべきなのだろうか。それとも、自分の考えを貫いてみゆきとの約束を果たすべきなのだろうか? 悩んだ末に彼が出した答えは――。


「……わかった。やっぱり君の言う通りにするよ!」

「ホントに? やったー! 海だ、海だー! 泳ぐよー!」

「いや、泳ぎには行かないから……」

「えーっ」


 沈んでいた空気が一転、再び活気が戻った。楽しげにやり取りを交わすまり子と健を見守るように、アルヴィーはにっこりと微笑んでいた。



 ――窓の外では、そんな彼らの様子を、目玉を模したような小型の機械がまるで行動を監視するかのように見つめている。その目――いや、カメラにはしっかりと彼らの姿が捉えられていた。


「ほう……これは面白いことになったな……」


 その部屋にはびっしりと写真が貼られたホワイトボードがあり、ファイルは机の上に山積みで、怪しい液体が入ったビーカーがいくつも棚の上に並べられている。部屋は薄暗く、デスクに座っている人物の姿は良く見えない。ただ、低い声やかすかに見える外見から察するに、壮年か初老の男性である事は確かだ。白衣も着ている。


「高慢ちきできわめて冷酷、きわめて非情! あのクモ女が例の青年に懐きおったとはな!」


 目玉のような偵察メカが映し出した映像を見ながら、誰も居ない部屋でひとりハイテンションで叫ぶ。傍から見れば、異様な光景だ。いい歳の男性がひとりで、部屋にこもりっきりで叫んでいるのだから。何度でも言おう、これは異様な光景だ。


「ヴァニティ・フェアに『クイーン』……警察に白龍。そして、東條健」


 映像だけでなく、古い書物も読みながら男は呟いた。羊皮紙で作られた、その書物の表紙には魔方陣が記されており――。


「今はこいつらの潰し合いをじっくり見物するとしよう――」


 雷鳴が轟き、窓の外で激しく光る。一瞬、この男の研究室が明るくなった。かすかに見えた部屋の奥の方にあったのは、棚に置かれた中心に一つ目を模した禍々しい模様が刻まれた仮面。そこから更に奥にあったのは、培養槽の中に漬けられている――人とも機械ともとれぬ、不気味な怪物。


「フハハハハハ、ファハハハハハハハ……!!」

Q:まり子と契約したらどうなるの?

A:できません。理由は後述。


Q:多重契約はできないの?

A:実はできないことはないです。ただ、身体的にかかる負担がより過酷になるのと、負担に耐えられても強すぎる力に精神を蝕まれて正気を失ってしまう恐れがあるので基本的には禁じられています。


Q:最後のほうに出てきた怪しい人はだあれ?

A:このシリーズの最初の方であからさまに怪しい人が出てきましたが、覚えている方はいらっしゃいますでしょうか? 名前は確か、えーと……名字に『大』ってついてたなー。

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