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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第7章 近・江・乱・舞
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EPISODE115:食いだおれの街


 翌日、早朝――。東京からバイクをかっ飛ばし、不破は高速道路を突っ走っていた。朝焼け空を拝みながら、ときに渋滞に悩まされながら、ちょくちょくサービスエリアで休憩しながら――不破は走り続けた。そして、数時間後。


「ふぅ、長かった――」


 不破は無事に大阪へたどり着いた。通行の邪魔にならないようバイクを道の脇に止め、懐から携帯電話を取り出す。連絡先は村上だ。


「こちらシェイド対策課です」


 電話に出たのは若い女性だ。れっきとした大人だがまだ声色に幼さが残っており、可愛らしい。


「おぅ、宍戸ちゃんか。相変わらず明るいな」

「いえいえ、昨日は早めに寝たので……あっ、ご用件はなんでしょうか?」

「そうだな、村上に変わってもらえないかな。あいつに連絡するように言われたんだ」

「了解しました。……村上さーん! 不破さんから連絡入りましたよー!」


 不破の用件を聞き届けた宍戸は村上を呼ぶ。何となくだが、不破の頭の中に宍戸が慌てて村上を呼びに行く光景が浮かんだ。実にほほえましい。


「……おはよう、不破くん。無事大阪に着いたようだね」

「ああ。これからどうすればいい?」

「君、今どこにいる?」

「ん? ああ、通天閣が見える辺りだが……」

「通天閣か……わかった。今から場所を言うから、対策課の大阪支部に向かってくれ」

「了解!」


 村上からの次の指示は、シェイド対策課の関西支部に向かうこと。場所は道頓堀にあるビジネスホテル『ドリームランド大阪』の付近だそうだ。まるで遊園地のような名前で、一回聞いただけではホテルとは思えないが――この際どうでもいいだろう。再びバイクにまたがり、不破は対策課大阪支部へ向かうことにした。が、その瞬間。不破の腹の虫が唸りを上げた。


「……やっべ、朝全然食ってなかった」


 腹が減っては戦はできぬ。近くの屋台でたこ焼きを買って食べ、コンビニで買った鮭おにぎりを食べ、またたこ焼きを買い――ほとんどその場しのぎだが、とりあえず空腹は満たせた。あとは気を取り直して大阪支部に行くだけだ。



 それから不破は村上から聞いたとおり、バイクで道頓堀へ向かった。彼が言っていたホテルの近辺の駐車場でバイクを止め、そこからは徒歩で大阪支部を目指す。やがて周りのものよりやや高くて立派なビルが、不破の目に留まる。近くには警察関係のものと思われる大型トレーラーも――もしやここが、大阪支部なのだろうか? そこで不破の携帯電話から着信音が鳴り――。相手は村上だった。


「不破、目の前にでっかいビルが見えるだろ?」


「ああ。このビルがシェイド対策課大阪支部なんだよな? 近くに対策課のトレーラーもある」

「――大当たり。とりあえず中に入ってみ。あ、守衛さんにちゃんと警察手帳見せてから入りなよ」

「はいはい。わかってるよォ……」


 思った通りだった。不破のカンは当たっており、このビルがシェイド対策課大阪支部だった。警備員に手帳を見せてビルの中に入り、受付嬢にも爽やかにあいさつ。意気揚々と中を進んでいくと、やがて『対策会議室はこちら』というプラカードが目に止まった。どうやらこのプラカードから右折すれば会議室があるらしい。更にそのプラカードの近くには、タバコを吸いながら佇んでいる壮年男性の姿があった。


「……あれ、堂島警部!」

「ん? おぉ、誰かと思ったら不破じゃねえか!」

「お久しぶりです!」

「へへっ、こっちこそ」


 堂島――と呼ばれた男性は濃いグレーのスーツ姿で、髪型は茶髪の角刈り。瞳の色も同じく茶色。腕が太めで全体的にいかつく、いかにも行動派といった風貌をしていた。口調や態度から察するに、不破とは知り合いか、あるいは上司と部下の関係のようだ。


「しかし警部、どうしてシェイド対策課に?」

「ン、ああ。それはだな――立ち話もなんだ、会議室にでも入ろうや」


 堂島が言うとおりに、不破は会議室の中に入った。がら空きであまり人はおらず、警備員が入口に立っているぐらい。缶コーヒーを片手に、堂島と不破は適当な席に座って話し合っていた。



「それで俺がこっちまで来た理由だが、アレだ。暴動が起きるかもしれんってことで、ちょいと警備を頼まれてな」

「ぼ、暴動? いったい誰がそんなことを……」

「『近江の矛』だよ」


 近江の矛――とは、関西一円、主に大阪を中心に活動している自警団。警察が大阪に中々シェイド対策課を設置しなかったことに不満を抱いたものたちが結成し、犯罪者やシェイドから人々を守る一方で黒い噂が絶えず、どこか怪しいところがあるらしい。


「お前も聞いたことぐらいはあるだろう?」

「は、はい。村上の奴から聞きました」

「連中、どっから手に入れたか知らねえが……手榴弾やら拳銃やら、それからナイフにスタンガンやら、やたらと物騒なもんばかり持ってるそうだ。まるで誰かのもとにカチコミでもかけるようにな」

「なにっ! それじゃまるでギャングか強盗みたいじゃないですか。あっ、カチコミならヤクザか」

「それだけじゃねェ、構成員の中にはエスパーも混じってるらしい……だから俺たちも迂闊に手が出せねえってわけだ」


 事態は思っていたより深刻だった。話を限りでは近江の矛は自警団とは名ばかりのかなり危険な連中で、今にもデモを起こしそうだという。話を聞けば聞くほど信用できない。街を守るどころか、逆に脅かしているではないか。


「とにかく、下手なギャングよりタチが悪い。気を付けた方がいいぜ」

「はい!」



 堂島と再会したあと、不破はいつ大阪支部が襲われてもいいように身構えていたが、結局誰も来なかった。とくに何も変わったところはなく、そのまま夜を迎えた。近くにあるビジネスホテルに泊まることにし、部屋のベッドで不破は寝転がっていた。ビジネスホテルだからとはいえ、あまりにも狭い。荷物を置いたらスペースを圧迫してしまう。少し不満を感じたが、そこはホテルの方針なので仕方がない。怒ったところで何も始まらないのだ。


「どっかで爆発でも起きるんじゃねえかと思ったが、結局たこ焼き食って堂島警部と久々にしゃべったぐらいだったな――実に平和な一日だった」


 一日を振り返り、しばらく休憩するとシャワーに直行。熱いシャワーを浴びて大阪に辿り着くまでに流した汗をしっかりと流し、頭や体を念入りに洗い流してシャワーから上がる。湯上がりに浴びるクーラーの冷風(環境に配慮し設定温度は28℃)は気持ちいい。


「プハーッ、生き返る〜ッ!」


 そして風呂上がりに飲むビールは冷たくておいしい。牛乳のように腰に手を当てて飲むことなど出来ないが、それでもウマかった。だが、ビールは二十歳からである。二十歳以下は炭酸飲料やカルピスなどで我慢するべし。あまりにビールが旨いので気分がよくなった不破は、パンツ一丁から寝間着を着て就寝。――だが、その前にやらなければならないことがひとつだけあった。おもむろに携帯電話を触りはじめると、誰かの電話番号を入力し――。


(今日は何も起きなかったが、『近江の矛』の連中が何しだすかわからない以上いまの大阪(このまち)は危険だ。あのゆるキャラ野郎に注意しとかなきゃな……)



 同時刻、京都駅前のアパート・みかづきパレスにて――。自室で寝ていた健を、携帯電話の着信音が叩き起こした。


「こんな時間に誰だよ……うるさいなー」


 夜中に起こされ、少し苛立っている健。携帯電話を開き、「もしもし……」と電話に出ると――。


「東條、こんな夜中に電話してすまん」

「ふっ不破さん!?」


 携帯電話が光る暗がりの中、驚いた健が急に大声を出す。あまりのでかさにアルヴィーとまり子が起き上がり、二人は肩をピクッと震わせた。


「で、でけぇ声出すな。ビビったじゃねえか」

「す、すみません」

「……おほん、まだ起きてるよな? お前にちょいと話がある」

「話ってなんですか?」

「大阪には行くな」

「……えっ? なぜですか?」


 健がきょとんとした顔で言う。彼の後ろでは大声で叩き起こされたアルヴィーとまり子が、座ったままじっと健を見ていた。二人とも寝癖がいつの間にやらついており、どこか可愛らしい。とくにまり子はパジャマ姿といつもより癖のある髪の毛のせいで、ますます可愛らしくなっていた。


「最近、自警団気取りのギャングどもが大阪を中心に暴れ散らしてる。出会ったら最後、血で血を洗うようなことになりかねん。それが嫌なら行かないことだ」

「ですけど、友達と大阪で遊ぶ約束が……」

「いいから行くなッ! 行ったら死ぬかも知れないんだぞ、それでもいいのか?」

「不破さん、それはちょっと大げさなんじゃ……?」

「大げさなんかじゃない、ホントのことだ! ……まあ、どうしても友達との約束を果たしたいんならオレも無理に止めはしない」


 やや切羽詰まった様子でしゃべっていた不破だったが、次第に落ち着きを取り戻していった。「京都でおとなしくしとくか、大阪に行って死ぬかはお前次第だ。好きにしろ、じゃあな!」と告げ、不破は電話を切った。彼は何を焦っていたのだろう。執拗に『大阪に行くな』と警告したのは、二度と誰かを失いたくないという思いによるものだったのだろうか。それとも、先輩としてはせっかくできた後輩を失いたくないからだろうか。


「……健、誰からだった?」

「不破さんから」

「不破殿か。彼はなんと?」

「大阪に行くのはやめとけってさ」

「えー! それじゃたこ焼き食べられないじゃん。わたし、そんなのやだ」


 言葉は聞くだけではその真意はつかめない。だが、今はとにかく体を休めねば。不破からの警告を胸に受け止めた健は、トイレで用を足して手を洗ったあと、明日に備えて寝る事にした。寝る子は育つ。気のせいかまり子の身長が少し伸びているように見えるが、それはまた別のお話。

Q:堂島警部はどこに所属しているんですか?

A:警視庁公安部の第一課です。元々、堂島さんは捜査一課にいたんですが、いろいろあって公安に異動しました。


Q:不破さんって友達いるの?

A:少ないよ。だってあんな性格だし、乱暴だし……。


Q:市村さんは近江の矛に所属してますか? してませんか?

A:恐らく所属してません。流石の彼もそこまで過激ではないです。

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