EPISODE113:ある日の中華料理屋
それからというもの、野郎二人だけではむなしい――ということで警察関係者の若い女性陣に次々電話をかけてまわったが、オペレーターの要由美子や落合カオルにはあっさりと断られた。
二人とも休暇をとって、プライベートで遊びに出かけていたようだ。不破と村上がいつも世話になっている宍戸小梅にも電話を入れたが彼女もダメだった。どうやら彼女は買い物中だったらしい――結局、来てくれたのは白峯だけとなった。待ち合わせ場所も決まった、京都府内の某有名中華料理店だ。餃子がウマいことで知られているが、餃子以外にも焼き飯やラーメンも上等のウマさを誇っていた。
「こんにちはー! 思ったより速かったわねー」
「新幹線乗ってきたもんでね、ハハハ」
白峯は先にその店に来ていた。彼女は席を予約してまで二人を待っていたらしく、少々待ちくたびれた様子を見せていた。そんな彼女に頭を下げると、二人は白峯の向かいのソファーに座った。ちなみに白峯と向き合っている方向(窓側)に座ったのは村上で、不破はその隣だ。なかなかいやらしい。
「それじゃ、何食べます? 僕ギョウザとチャーシュー麺で」
「わたしチャーハンね! 不破くんは?」
「……激辛ラーメンセットで」
他が笑顔になっている中で、不破は一人だけふてくされた態度をとっていた。プッ、と村上が笑うのを必死でこらえる。
「むゥゥゥゥらかみィィィィ!!」
「ちょ、ちょ何すんだよ離せって!」
不破の血管がキレた。たとえ同僚といえども人をバカにして笑う奴は許せないのだ。胸ぐらをつかみ上げ顔を近付けると、「いまオレを笑ったな! 明らかにオレを笑ったな!?」
「笑ってない! 笑ってないから離せって、暴行の容疑で訴えるぞ!」
乱闘が始まりかけた。だが、寸前で白峯がその勝負に待ったをかけた。仲良く頭をごっつんこさせられ、二人の頭上で星が回る。そして不破の沸点の低さと大人げなさに呆れた。
「二人とも職場の同僚なんでしょ? もっと仲良くしなさいな」
「はーい……」
白峯が取っ組み合いを起こそうとした二人を黙らせてから、その後はとくに何も問題は起こらなかった。三人とも何事もなくそれぞれが注文した料理をおいしく味わって食べていた。このまま、無事に終われば良かったのだが――そうはいかなかった。またハプニングが起きようとしていたからだ。
「白峯さん、こんにちはー!」
「東條く〜ん! こんなとこで会うなんて奇遇ねー」
「……えっ!?」
不破より年下で後輩にあたるエスパー、東條健も来ていたのだ。彼は一人だけではなく、白髪赤眼の美女とラベンダーのような青紫の髪の少女を連れてこの中華料理店まで来ていた。
今では和解してそれなりに交遊を深めてはいるものの、元より不破は健を快く思っていない。雰囲気がゆるいのが気に入らないとか、自分より女性にモテているのが気に入らないだとか――理由は深刻なものからくだらないものまで様々だ。
「あっ! 不破さんちーッス!」
「なっなんでお前がここに来てるんだ!?」
「えー? 別にいいじゃないですか。僕もたまには中華料理食べたいなーって思っただけですよ」
「いや、だけどな。ラーメンとか餃子とかなら別の店でも食えるだろ!!」
「まったく、お主は相変わらずすぐ怒るの……」
白髪の美女――アルヴィーがため息をつく。彼女だけでなしに、健や幼い少女も眉をしかめていた。
「さっ、こんなヤツはほっといて席座らんか?」
「そうだね、それが良さそう。じゃ、とばりさん、あと不破さんもごゆっくり〜」
「はーい! それじゃーねー♪」
人間、すぐ怒ってわめき散らすような奴とは一緒には座りたくないものだ。それは健たちも同じで、白峯と不破に声をかけてからすぐに後ろの方にある席へ歩いていった。その後村上は不破に「……さっきの知り合い?」と訊ねたが、不破はまたもふてくされて何も返答しなかった。
「……しっかし」
何か気になるものでもあるのか? 目を伏せた不破が後ろを振り返り、仲良く談笑しあっている健たちを睨むように見つめる。
「野郎、ついに幼女にまで……うっ!」
唐突に頭痛が走る。それだけではなく不破の頭の中にあるイメージが流れ込んだ。それはいいものではなかった――先日の悪夢の中に出てきた青紫の長髪の女性。その女性と健たちと一緒にいる少女の姿が被ったのだ。一体どういうことなのか? 何故こんなことが起きたのか分からぬまま、不破は長髪の女性に殺される自分のイメージに苛まれていく。もしやあの幼女が成長したら夢の中に出てきた女性になるというのだろうか? ますますわけがわからない――。
「お、おい、不破? 大丈夫か?」
「不破くん、どうしたの? もしかして具合悪くなった?」
「あ……いや、何でもないッス」
苦しみかけた不破を村上と白峯が呼び戻す。直後、何事もなかったかのように不破は料理を一気食いしはじめる。自分が元気であり、別に具合が悪いというわけではない事を証明するような勢いだ。しかし無理矢理一気食いを始めたものだから、のどに詰まってしまった。不破は水を飲んで押し流す。そしてむせた。
「なにやっとるんだ、不破殿は……」
アルヴィーが言う。彼女は餃子とライス、たまごスープのセットを頼んでいた。――言い忘れていたが、元々彼女は龍のシェイドである。中華料理にシンパシーを感じたか、とてもおいしそうに味わって食べていた。
「ぼ、僕に聞かれても」
健はあつあつのチャンポンを食べていた。野菜や海の幸をふんだんに使ったぜいたくな一品だ。それに加えて鶏の唐揚げも注文していた。こういう店にはなかなか来れないせいか、なるだけじっくりゆっくりと味わっているようだ。
「あはは! ラーメンおいしいー♪」
まり子は健の隣でラーメンをおいしそうに食べていた。健から唐揚げを分けてもらいつつ、ラーメンとセットで頼んだチャーハンも食べている。本場だけあってか、ラーメンもチャーハンもなかなかウマい。まり子が、いやこの三人が目をキラキラと輝かせるのも必然というもの。
――傍からみれば、まるで家族のようだ。健が父か兄だとすれば、アルヴィーは母か姉だろうか。そしてまり子は仲睦まじい夫婦の間に生まれた娘――。いや、待ってほしい。健とアルヴィーはまだ若い。後者は恐らく有史以前から生きていると思われるが(外見)年齢は20代の若い女性だ。
対してまり子の(外見)年齢は10歳前後。仮に子どもを産んでいたとしても、まり子ぐらいの年までいくには10年を要する。仮に二人が、現時点での年齢で子どもを産んでいてもまだまだ赤ん坊である。つまりまり子は二人の間に出来た子どもに例えるにはデカすぎるのだ。よってここは、歳の離れた妹のように彼女を見るのが正しい。
「今日はありがとう。また誘ってね~♪」
食事を終えた後、白峯は微笑みながら手を振って不破たちと別れた。対する二人も笑顔で「また会いましょ~」と手を振りながら彼女を見送った。
「ふ-、ハラ膨れたなぁ。そろそろ帰りますかね。不破はどうするんだ?」
「いや、まだ帰らねェ」
「エッ?」
不破が気難しそうな顔で呟く。さっきまで大食い選手権のチャンピオンもビックリして腰を抜かすほどの食いっぷりを見せていた男には見えない。多くの修羅場をググって……もとい、多くの修羅場をくぐってきたようなハードボイルドな面構えだ。
「さっきの女とチビ連れたヤツとは知り合いなんだ。そいつらと話がしたくてな」
「そうか、わかった。じゃあ、僕はお先に帰らせてもらうよ」
まだ京都に用事があるという不破の要求を聞き入れ、村上は「また連絡くれよ、バハハァーイ」と言い残して先に帰っていった。肩を少し鳴らすと、不破は携帯電話に健の番号を入力する。そして、電話をかけた。
「ん……?」
アパートに帰るために歩道を歩いている途中、健の携帯電話が振動する。着信したという合図だ。マナーモードに設定してあるため振動を起こすのみだが、これが通常モードの場合は着信メロディが鳴り響く。
「健、電話か? 誰からだ」
「不破さんからみたい」
アルヴィーからの問いに答えると、健は不破との通話を始める。
「東條、今どこだ?」
「アパートに帰る途中ですけど……」
「そうか。……お前、いま紫の髪のチビ連れてるだろ?」
「は、はい。確かにそうですけど、その子がどうか」
「そいつについて話がある。いつもの空き地まで来い、そこで待ってる。じゃあな!」
いつもの空き地――とは、三丁目の空き地のことだ。不破が京都に滞在していた時、よく鍛錬に使っていた場所である。
「……どうだった?」
「呼び出し食らっちゃった。アルヴィー、まり子、先に帰っといて」
「うん、わかった。でも早めに帰ってきてよー」
「はーい」
アルヴィーとまり子と一旦別れ、健は三丁目の空き地へと走っていった。もしかしたら戦闘に発展するかもしれないので、長剣と盾――そしてオーブも持参で。