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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第6章 ロリータ女王と捨てられぬ矜持
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EPISODE109:プライドと忠誠心と晒せぬ生き恥 PART4

 それから立ち直った健はさっそく使いこなすための訓練をしようと思い立つが、アルヴィーから速攻で断られた。「何故だ、どうして」と健はアルヴィーに訊ねたが返答はすぐに返ってきた。口を細めた柔らかい表情でアルヴィーが、「お主はもう十分に強い。たまには息抜きせい」と彼に告げたのだ。


「エッ? でも、こーいう状況って普通訓練しません?」

「でもさー、お兄ちゃん。使うたびに負担がかかる技を何度も使ってたら体が持たないよ」

「そりゃそうだけど……」

「暮らしの中に修行あり、よ」


 まり子がにんまりと微笑む。確かに日常生活でもちょっとした工夫をすればそれだけで訓練にはなる。たとえば、鉛の入った靴やゲタで歩いたり、重りの入った腕輪をはめてダーツを投げたて的に当てたり――これだけでも己を磨くことが出来るのだ。まり子もアルヴィーもそういった意味合いを込めて発言したのだとすれば、とても有意義なことだ。今後ぜひ参考にしていきたい。戦いも特訓もゆとりを持つのが必要だということを、健は改めて認識した。



 ―ガンガン壊せ、バンバン叩け、女が出来たらとにかくイかせろ!―

 ―君は真面目すぎる……―


 同時刻、公園のベンチでタバコを吸いながら、アンドレは上司の言葉を思い出していた。確かに彼は真面目すぎた、会社(ヴァニティ・フェア)の方針とあまり性格があっていないようにも見えた。

 仕事なら躊躇せずに人を殺せるもののややお人好しで無益な殺生はしない性分のためか、幹部と遜色ないほどの実力を持っていながらも昇進できないでいる。

 最期まで己の意志を貫くか、それとも会社の歯車となって散るか――ふたつにひとつだ。どちらかしか選択できない。


「……俺にどうしろというのだ」


 増強剤こと――『ネクロエキス』入ったアンプルを見つめて呟く。これを使えばあらゆる能力を三倍に引き上げることが出来るが、その代償として己の寿命を縮める。

 つまり使えば死ぬ――彼が所属するヴァニティ・フェアでは、上層部から『いらない』と判断された社員にこのネクロエキスが配られる。一種の死刑宣告のようなものだ。


「戦って死ねるなら本望だ。だが、今のターゲットは東條健のみ……他の連中を巻き込むわけには」


 そのネクロエキスを渡されたということは、自分は組織にとってもはや用済みと判断されたということだ。今までヴァニティ・フェアに尽くしてきた以上、他の職に着いたところで何もできない可能性は高い。というか、人間界に帰化して暮らすことすら難しい。……ならば、今やるべきことはひとつ。


「……だが、俺に道は残されていない。戦士として果てる以外に……」


 アンドレは立ち上がった。そして、東條健と戦うために歩き出す――。ヴァニティ・フェアの捨て石として、一介の戦士として果てるために。



 ◆◆◆◆



「お兄ちゃん、がんばれーっ」

「へへっ。よーし僕、ストライク出しちゃうぞー」


 アンドレが自分たちを狙っているとも知らず、健たちは遊んでいた。エスパーと言えども戦い続けていればいずれは疲れてくる。たまには楽しいことがしたい。だからこうやって遊ぶのである。


「そりゃーっ!」


 みんなが見ている、少しでもカッコつけたい。まり子やアルヴィー、白峯が見守る中、彼はボールを全力投球する。力強く投げられた16ポンドのボールはレーンを転がり、途中で曲がりながらもピンを薙ぎ倒す!


「よっしゃストライク! ……あり?」


 結果は見事ストライク――と思いきや、隅っこに2本残っていた。方向は斜めだ、うまく届けばいいのだが。


「東條くん、がんばってー!」

「うし、今度こそ!」


 ストライクがダメならスペアを狙うしかない。当たることを願いながら、健は再びボールを投げ出す。曲がれ、曲がれと念を発するが届かない。もはや手遅れだ、スペアはとれない――。

 そのとき、不思議なことが起こった。何故かボールが独りでに動き出し、ピンを見事に倒したではないか。


「す、スペアとれた……やったーッ」

「やったねお兄ちゃん!」


 一斉に拍手が起こった。何が起こったかまったくわからないが、とにかく嬉しいことに変わりは無い。――実はこれ、誰かが何らかの力で動かしていたのだ。それは誰かというと――まり子である。うしろで見ていたまり子は目を紫色に光らせ、ボールを念動力で動かしたのだ。ややずっこいが、つまりは敬愛する健のお膳立てをしたのである。

 このあとも白熱したゲームが繰り広げられ、みな高得点をたたき出してますます盛り上がっていった。ちなみに一番スコアが高かったのはアルヴィーだった。本人が言うには初めてだったそうだが、とてもそう思えないほどの腕前であった。



「次、どこいこっか」

「映画観たーい♪」

「えーっ、でも明日バイトだしなー……」

「むぅ。いいじゃん別にー」


 気付けばすっかり夕方だった。ボウリング場を出て植え込みを歩き、茜色に染まった美しい夕空を見ながら帰路につく。先日買い溜めしたので食料を買いに行く必要はない。なので、あとは家に帰って寝るだけだ。


「今日は楽しかったわね。また遊びましょ♪ それじゃ、バイバーイ」

「とばりさん、お元気でー!」


 途中で白峯と別れ、あとはアパートを目指すだけとなった。三人で仲良く道を歩いていた健たちだったが、そんな彼らの前に黒いスーツを着た屈強な黒人が現れ、「ずいぶん楽しんできたようだな」


「アンドレ……!」

「お主、何用だ? まさか私たちに喧嘩を売る気か?」

「いかにも。それ以外に何がある」


 アルヴィーの問いを軽く流すと、両手の拳を打ち鳴らし不敵に笑う。相変わらず威圧的で近寄りがたい、強そうな雰囲気を醸し出していた。


「俺は戦いが好きでな……それ以外に楽しみが見い出せないんだ。のんきに遊んでいるお前らと違ってな」

「つまりサッカーとかしても楽しく思えないってこと? それはちょっと悲しいね……」

「……ふん、そんなことはどうでもいい。今度はちゃんと装備もそろえて来たようだな……楽しみで仕方が無い」

「……ミジメなオッサンねぇ。それしか言うことないわけ?」


 まり子が明るい微笑みから一転、冷徹にアンドレを嘲笑する。いや、もしかすれば彼女なりに哀れんでいるのかもしれない。


「どうせ上の連中からイビられて仕方なくやってんでしょ? なのにあなたは戦うのが楽しみだって言い張ってる。ホントは現実から逃げたいんじゃない?」

「黙れ! そんなんではない! 俺は純粋に戦士として……」

「はいはい」


 口では大層な事を言っているが、本当はヤケになっていることはお見通し。わめくアンドレの言葉を適当に聞き流すと、まり子は健の後ろに下がった。


「……とにかく! 小僧、純粋に貴様と戦いたいというのもあるが、それだけではない。俺は使命を果たしにきたのだ。ヴァニティ・フェアの一員として、貴様を消しにな」

「要するに僕に死ねと。そういう解釈であってたかな」

「そうだ」


 アンドレの返答を聞いた瞬間、健の目つきが険しいものに変わった。使命がどうとか抜かしているが、結局は命が惜しくて従っているのでは。生きるために必死になっているのでは? だが、こっちも大人しくやられるわけにはいかない。


「貴様に恨みはないが……ここで消えてもらうぞ!」


 アンドレが気合を入れるとうっすらと彼にモヤがかかり、見る見るうちにその姿を変えていく。気付けばアンドレはサイの怪人のような姿になっていた。


「健……来るぞ!」

「ああ!」


 さあ、戦いだ!

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