EPISODE105:修羅場の予感?
その頃、健が住んでいるアパート『みかづきパレス』では――。
「お兄ちゃん遅いな〜……」
健の部屋でまり子が茶の間に座ってテレビドラマを見ながら、義兄の帰りを待っていた。器に盛られたせんべい(しょうゆ味)を食べながら。
「うっ、うっ……イイ話だなー」
ちょうどドラマもラストシーンに差し掛かっており、夕陽が沈む中で若い男女が岬でお互いに抱き合ってキスをした。そして次のカットでは夕陽が沈む海をバックにでかでかと『完』の文字が浮かんだ。これにてこのドラマはジ・エンド――というわけだ。感動のラストにホロリと涙を流したあと、まり子は突然なにかを思い出したように笑い出す。
「あははははっ! あーっ、面白かった! それにしてもお兄ちゃんまだかなー。シロちゃんもまだかなぁ」
ドラマも見終わったので、まり子は他に面白そうな番組がないか探すためにチャンネルを回し出す。ニュースに子供向けの教育番組、アニメに野球中継――目ぼしいものは見つからなかったので、とりあえずニュース番組を観ることにする。町中で人が突如として石化した事件がピックアップされており、まり子はこれを食い入るように観ていた。というのも、ある青年のお陰で無事に解決した――という情報が気になったからだ。「もしかしてお兄ちゃんが……?」と推測していると、玄関からブザーが鳴った。気になってドアを開けに行くと――。
「お兄ちゃんっ!」
「ま、まり子ちゃん……いい子にしてた?」
健が帰ってきた。彼だけではなく、アルヴィーはみゆき、それから市村も一緒だ。だが、まり子はみゆきとはお互いに認識がなく――疑惑を抱いた視線を健に浴びせた。
「お兄ちゃん……この人、誰? もしかしてカノジョなの?」
「健くん……この子誰よ? 親戚の子?」
「えっ? いや……あの……なんて言ったらいいのやら」
いっぺんに訊ねられては答えにくい。しかも二人とも凄い剣幕だったからなおさらだ。健はうろたえてばかりで何も答えられていない。近くにいた市村も何とか機転を利かせて事情を説明しようとしたが、どう説明したらいいか思い付かず結局何も出来ずじまい。そこでこの状況を打破しようと、アルヴィーが「事情はあとだ! とにかく上がらせてくれ!」
「……へえ。このまり子って子、アルヴィーさんと同じで人間好きなシェイドだったのねー……」
「ふーん。このみゆきって人、お兄ちゃんの幼なじみだったんだね〜」
あまりくどくどと話しても相手にイライラを募らせてしまうため、とりあえず健とアルヴィーは簡潔に事情を説明した。先程の戦いによる疲れも相まってか、健は今にも死にそうな顔をしていた。足はふらつくし手はすぐにへたるし、何より体がボドボドだ。これでまだ息をしているというのが奇跡的に思える。市村はそんな彼の代わりに、台所で料理を作っていた。といってもちょうど余っていたキャベツや豚肉、まだ使っていなかったお好み焼きの粉を使用したお好み焼きだが――。
「はーっ、良かったわ。赤の他人で。てっきり隠し子かと……」
「か、隠し子!? 誰とのだよっ!!」
「アルヴィーさんとの間に決まってるでしょー、もぅ」
「えーっ! そんな風に思われてたなんて……」
まり子の(外見)年齢的に無理があるが、どうやらみゆきからはそう思われていたようだ。がっくし、と、健は肩を落とす。そこへ市村がやってきて、
「おまちどーさん! お好み焼きできたで、みんなで食べてちょーだい。わし店の方に戻るさかい、あとは皆さんごゆっくり」
大きな皿に乗せたお好み焼き焼き(四人前)をテーブルに置いて、そのままアパートを出ていった。行き先はもちろん彼の店である移動屋台だ。
――彼が去ったことで、残されたのは女が三人。男が一人。何となく嫌な気配がしたが――とりあえず何も気にせずにお好み焼きとごはんを食べ始める。
「うまーい! 市村さんのお好み焼き、おいしいねーっ」
「ホントウマいよねー! あたしも見習いたいくらいだわ」
「たこ焼き屋あらためお好み焼き屋を名乗るべきだな、うむ!」
「ハハッ! これぞ関西のグルメだね! 豚肉とキャベツがよく焼けてるし、ヤマイモもいい味出してるよな!」
四人とも口々においしいと口走っていた。だがその一方で健は――ひとりで勝手に将来起こりうるであろう出来事を妄想し、そうなってしまうことを恐れていた。
(今は小さいが将来クールな巨乳美女になるであろうまり子ちゃん、胸のサイズは並だが可もなく不可もなくバランス良好でマイルドな幼なじみのみゆき、そして今のところパートナーとして好意を寄せられているが何だかんだで僕に異性として興味を抱いているかもしれなくてセクシーダイナマイツ! なアルヴィー……)
今でこそ(表面上は)仲良くしている三人の女たちだが、もしかすればそのうち健を巡って醜い争いを繰り広げるかもしれない。血で血を洗うような戦いにまで発展するかもしれない。健はそれが怖いのだ。
(修羅場だ…………これは間違いなく、将来修羅場だーーーーッ)