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同居人はドラゴンねえちゃん  作者: SAI-X
第6章 ロリータ女王と捨てられぬ矜持
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EPISODE100:英雄の顛末


 奥行きのある廊下。広々とした部屋。アパートの部屋がいくつも入りそうな応接室。重厚で落ち着いた雰囲気が漂う書斎――。やはり、白峯家はスケールが違った。自分たちの家とは比べ物にならない、と、健たちはそう思った。


「お茶持ってくるわ。ちょっと待っててねー」


 応接室に入ったところで、とばりが茶を持ってくるのを待つ。ソファーの座り心地ときたら、それはもう気持ちよいものだった。健もアルヴィーも、みゆきも、ゆったりとそこでくつろいでいた。そこに緑茶のペットボトル(たっぷり入った2リットル)と人数分のコップをトレイに乗せたとばりがやってくる。


「お待たせしました〜。外暑いから冷やしておいたわよ♪」

「ホントですか!? ありがとうございます!」


 喉が乾いていた健が真っ先に冷えた茶を飲む。喉ごしスッキリ、後味もくどさがなくておいしかった。カラカラに乾いていた喉が一瞬で潤ったのだから、おいしかったに違いない。


「それで、例のことについてなんだけど……聞いてもらっても大丈夫かしら」

「はい! ぜひお聞かせください!」

「私も聞きたい!」


 健もアルヴィーも、いつになく真剣な顔で言った。正直なところ、とばりは自分が調べたことを話してしまってもいいのか悩んでいたが――二人の真摯な態度を見て決意を改めた。話しておかねば、彼らも自分もきっと後悔すると。


「……わかったわ。調べてみて分かったこと、全部話します。長くなりそうだけど、みゆきちゃんも時間とか大丈夫?」

「はい。バイト休んできたので」

「そっか。それじゃあ話すわよ……」


 念のためみゆきにも確認をとったところ、彼女も快く承諾してくれた。これで心置きなく話すことができる――。彼女もまた真剣な表情になり、くだんの伝承について調べたことを語り出す。


「まずひとつめ、エーテルセイバーだっけ? あの剣と帝王の剣は、ひょっとしたら同じものかもしれない」

「えっ? あれと帝王の剣が……。それってホントですか?」

「いえ、まだそうと決まったわけじゃないわ。ただ……」


 とばりがそこで一旦言葉を切る。壁に立てかけてあるエーテルセイバーを手に取り、柄の部分に開いた穴を指差した。

 これは各属性の力を凝縮した宝玉・オーブを入れるための穴で、ひとつしかはめることが出来ないはずなのだが――何故かその穴が三つに増えていた。


「穴が三つ……?」

「ええ。まだ秘密が隠されてるんじゃないかって思って、少しいじってみたんだけど――そしたら見ての通りになったわ」


 白峯以外の三人がそろって驚愕する。オーブは雷属性のものが白峯の手で作られるまでは2つしかなかったはずなのだが――。


「とばり殿が雷のオーブを作るまで、オーブは炎と氷の二つしか存在していなかったはず。……どうなっているんだ」

「恐らくは――伝承の時代から既に、オーブが三つ以上存在していたのかもしれないわ」


 アルヴィーも白峯も、そろって難しい顔をする。かの『考える人』も、こうして悩みながら考え事をしていたのかもしれない。

 謎というのはそう簡単には解けないのがこの世の定理だ。いま彼らの目の前にある大きな謎も決して例外ではない。


「いずれにしても、この謎は簡単には解けないわ。これからゆっくりと少しずつ紐解いていくしか方法は無さそうよ」


 エーテルセイバーをそのまま健に返却し、次にとばりは盾を手にとった。猛々しい龍の頭を型どったその盾は、名付けてヘッダーシールド。

 剣と同様にオーブを装填することで属性の力を添付でき、更にとばりが手を加えたことでバリアを展開する機能も追加された。


「この盾にも秘密が……?」


 差し出されたヘッダーシールドを見て、目を丸くしたみゆきが呟く。


「ええ、そうよ。ふたつめはこの盾と伝承に載っていた盾について」

「以前この盾のバリアーに守ってもらったことがあるんですけど、もしかしてバリアー以外にもまだ――?」

「そうなのよー」


 みゆきは以前、センチネルズとの決戦の際に組織の首領(リーダー)である悪漢・浪岡にさらわれたことがある。

 みゆきが助け出されたあとの戦いで浪岡は周囲を熱線で焼き払ったのだが、そのときに健がバリアを展開して後ろにいた仲間たちを守ったのだ。


「みゆきちゃんは多分知らないと思うけど、例の帝王の剣と黄金龍が描かれた絵の背景に盾もあったの。その盾は『月鏡(つきかがみ)の盾』っていうらしくて、その名の通り光とかを反射する力を持っているそうよ。英語でミラーシールドってトコかしら」

「つきの、かがみ……ですか」


 その月鏡の盾は、表面が銀色に輝いていたという。軽くて頑丈で、傷付きにくい金属を素材として使っていたらしい。

 そしてその名が示すように、三日月の紋章が描かれていたようだ。それと相反するように、帝王の剣は黄金色を基調とした装飾が施されていた。


「帝王の剣が太陽なら、月鏡の盾はさしずめお月さまってトコかしら。ちょっとスケールが大きくなってきたわね……」

「太陽と、月……星はないんですかね」


 みゆきが「うーん」と首を傾げる。彼女が並べた単語はいずれも、宇宙上に浮かぶ天体だ。

 太陽はどの天体よりも大きい灼熱の恒星で、爆発を繰り返すことで摂氏6000℃もの熱を放って輝いている。

 月は我々が住む地球の周りを回っている衛生だ。朝、昼と輝く太陽が夜になって役目を終えたとき、代わりにやってきて夜空で輝く。月齢により満ち欠けし、夜空の闇に包まれて見えないときもあれば、一片も欠けずに空で静かに輝くときもある。

 そして星は月と同じく、夜空で燦々と輝くものである。惑星や衛星なども平たく言ってしまえば星であるが、この場合は夜空を彩る小さな星々のことを示す。このうち、特定の形に並んだものを星座と呼ぶ。オリオン座やさそり座、蛇使い座やしし座などがとくに有名だ。


「星か……ひょっとしたら、オーブがそれに当たるかもしれないわね」

「オーブが星だとすると……げっ! 太陽系の惑星の数だけあるってことに!?」

「いや、流石にそれはないと思うけど……」


 勝手に想像して驚く健を落ち着かせるように、白峯が冷静なツッコミを入れた。直後、「でも、どうなんでしょうねー……」


「……次行ってもいいかしら、みんな?」

「はい。お願いします」

「オッケー! 最後にみっつ目だけど……」


 健に盾を渡してすぐに、白峯は「ちょっと待っててね〜」と告げて応接室から出た。何かを持ってくるつもりだろうか?

 緑茶を飲みながらおとなしくして待っていると、なんと白峯はホワイトボードを持ってきたではないか。これを使って説明するつもりなのだろうか、ホワイトボードには簡単な説明や、分かりやすいように絵が貼られていた。

 ――かわいらしくデフォルメされている上にとても上手だ。技術屋で料理もウマく、絵の才能もあるということは……やはり彼女は天才だったのだ。


「す、スッゲー……たったの三日でここまで」

「うふふ。約束はちゃんと守らなきゃって思っただけよ」

「やっぱり白峯さんって……スゴいわ!」

「まさに希代の天才だ! すばらしい!」

「ちょっと、話脱線してるわよ! 言われて嬉しいけどネ……♪」


 照れながら一回「おほん!」と咳き込み、白峯は脱線していた話を戻す。


「みっつめは黄金龍についてと、世界を救った戦士のその後について説明します」


 教鞭でホワイトボードを指差し、彼女はくどくならない程度に詳しく説明し始める。3つ目は黄金龍とかつてエーテルセイバーを振るっていた戦士のその後について話すようだ。



「勇気ある一人の戦士はエーテルセイバーを振るって平和を脅かす怪物を見事打ち倒し、世界を救った英雄になったわ。ここまでは以前に言った通りよ。けど、この話には案の定続きがあったの。怪物を倒したのはいいんだけど、また新たな怪物が現れて人々を苦しめたの。そいつはとても強くて、流石の英雄もかなわなかったのよ」


 休憩を挟み、緑茶を飲んで体を癒すと白峯は教壇(?)に戻る。長い話になることは確実である、よって白峯は何回か休憩を挟むつもりをしていた。そうした方が聞く側も楽なはずだと思い、気を遣ったからだ。


「そこで黄金龍が……」

「そう! 彼は遠い地の山奥に棲んでいた黄金龍に助けを求めたのね。今一度世界を救うための力が欲しいってお願いしたんだけど、黄金龍は彼に試練を与えたの。力を貸すにふさわしいかどうかを確かめるための……ね。試練は辛いものばかりだったけど、英雄はそれをすべて乗り越えた。そして彼を認めた黄金龍が彼に授けたのが……帝王の剣だったってわけ」

「やっぱり! 帝王の剣と黄金龍は関係があったんですね!」


 健が納得が行ったような表情でそう言った。まるで難しすぎて解けなかった謎が解けて喜び、大はしゃぎしている子どものようだ。


「月鏡の盾も、そのときにいただいたそうよ。黄金龍に認められて、契約を結ぶことができた英雄はやっとの思いで怪物を倒すことができました。こうして世界には平和が戻りました。めでたし、めでたし♪」

「やった、ハッピーエンドだ! 絵本出ませんかねー、今のお話……」

「ところがぎっちょん、このお話には続きがあったのよ!」


 世界に平和が戻った。これにて一件落着! ――そう思っていた健たち三人のお祭り気分を、白峯のその言葉がすべてぶち壊してした。

 三人とも同じようなことを考えていたのか、ずっこけるときのタイミングも一緒だった。確かにハッピーエンドはいいものだが、逆にバッドエンドだからこそ映える物語も世の中には少なからず存在している。

 とはいえ、人間やはりハッピーで終わった方が気分が良くなるものだ。ハッピーな終わり方をしたほうがいいという考えはあながち間違いでもない。


「――悪い怪物を倒した英雄は国を築き上げ、王様になりました。みんなから慕われるいい王様になれたみたいよ」

「そうだったのかー。世界を救って自分の国も作る。まさにハッピーエンドだの」

「だけどある日を境に王様は変わってしまったみたいなの。国を築くほどの力を手にしても王様は満足できなかったらしくて、更なる力を求めたそうよ。他の国という国からあらゆるものを奪い取っては自分のものにしたらしいわ」

「そんな……ひどい。それじゃまるで悪の帝国じゃないですか」


 あろうことか、英雄と呼ばれた王が暴君へまさかの転身を遂げており――。まるでヒーローが悪の心に染まったときのような衝撃が一同の間に走った。


「ホントひどいことするわよねー。それから暴君と化した王様は、黄金龍に自分を不老不死にするよう頼んだんだけど、当然のように聞いてもらえなかったわ。そしたら王様は逆ギレして黄金龍を手にかけたの!」

「なぬ! なんとバチ当たりなことを……けしからん奴がいたものだ」


 アルヴィーがムッ! としかめっ面を浮かべる。あくまで伝承の話であって他人事のはずなのだが、まるで自分のことのように怒りを露にしていた。


「……ん? おかしいのぅ。他人事のはずなんだが、なぜか他人事とは思えないぞ」

「気のせいじゃない……かしら。けど黄金龍はもしかしたら、アルヴィーさんのご先祖さまだったのかもね。――こうして、欲におぼれた王様は黄金龍と相討ちとなり、彼が建てた国も滅んでしまいました。ぜんっぜんめでたくなかったわねぇ……うーん」


 『めでたし、めでたし』で終わるはずだったその伝承は、残念なことに後味の悪い終わり方を迎えてしまった。最後の最後でスッキリしないものが残ってしまったが、かくして長い昔話――もとい、歴史の勉強は終わり、全員茶を飲んで一息ついた。


「……さて、長くなっちゃったわね。みんな疲れてないかしら?」

「いえ、平気です! それにいろいろと参考になりましたし」


 健が元気そうに言う。ただ、どこか眠たそうではあったが――。


「お邪魔しましたー!」

「また来てね〜♪」


 外に出るとすっかり日が暮れていた。健たちは帰路につき、それぞれが帰るべき場所へと帰っていった。健たちが帰った頃、研究室に戻った白峯は机に置かれたものを見つめて物思いにふける。それは穂先が円錐(えんすい)状の形をした槍――ランスのようなものだった。


「さて、と。こっちも仕上げなきゃ、不破くんに怒られそうね」



「ただいまー。……あれ?」

「どうした?」

「なんでかわかんないけど、カギ……開いてた」


 とくに怪我をすることもなく、白峯の家から無事に帰宅した健とアルヴィー。だが、どういうわけか閉めたはずのドアの鍵が開いていた。

 それだけではなしに、部屋に入るとそこはクモの巣だらけだ。衛生上あまりよくない状態になっていたし、見栄えもいいとはいえない。早々に掃除しなければ――。


「おかしいのう。この前掃除したばかりだったはずだが……」


 アルヴィーが首をかしげた。部屋を出る前はとくに散らかってはいなかったし、汚れてもいなかった。なのに何故、ここまで汚くなっているのだろうか。


「……ねえ、誰かいるってことに気付かない?」

「えッ!?」


 疑問に思う二人のもとに――声が聴こえる。幼い少女の声だ。天井から逆さまになった状態の少女が、糸を伝って降りてきた。


「君はッ……!」

「隙間と異次元空間を行き来できるシェイドに入れないところなんかないわ。どうせ住むならセキュリティが万全なところじゃないとね。フフッ!」


 その少女、糸居まり子――。空に浮かぶ雲のようにつかみ所のない態度できわめてマイペースな自由人である故、彼女が何を考えているかは誰にもわからない。その意図を知っているのは本人だけ――。


「あ、白いの見えてる……」


 だが彼女は気付いていなかった。宙吊りで、しかも逆さまになっているので……あろうことか白いパンツが丸見えになっていた! これは恥ずかしいどころではない。


「ふぇ? うわっ、パンツ丸見えだぁ! はずかしーっ!」


 慌てふためくまり子。その勢いで糸がほつれ、床へと落っこちた。長いスカートがブワッとめくれた為、またもパンツを見られてしまった。これによりパンツのセキュリティが万全でなかったということが明らかとなったので、まり子は人の事を言えないということになる。

 しかし、二人とも善意から見なかったフリをしようとしたが、まり子には通じず――飛び上がりざまに顔を思い切り蹴られた。ただし、なぜか対象は健だけだった。どうやら相当堪えたらしく、健はしばらく顔をおさえてその場に屈んでいたという。

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