【悲報】竜国の冷徹皇帝(私の番)、私を理由に政務をボイコット中。執着されてるかなとは思ったけど、ここまでとは思いませんでした。……好きだけど、国が滅ぶと困るので、ちょっくら逃げてみましょうか。
私はつい最近、王妃になった。皇帝の次に偉い立場なわけで、平民である自分がまさかこんな立場になるとはと驚きを隠せない。
平民がなぜ王妃になれるのか。その理由は単純である。竜である皇帝の「番」だったからだ。
番だとわかったときは、急に皇帝に跪かれというか、土下座される勢いで「結婚してくれ」と頼まれた。なんだかんだあり了承し、いまは皇帝こと旦那のシュタルク様の膝の上にいる。最高権力者の番になったから悩みはないと思われるだろうが、私は最大のピンチを迎えていた。
それは――。
シュタルク様が仕事に行っていないのだ!
はじめは「新婚だし休みなのかな」と思ったが、一ヶ月経ったのにずっと一緒にいる。しかも仕事をしているわけでもなく、私にずっとくっついているのである。
このままいけば、私は「傾国の王妃」とか呼ばれるかもしれない。それは避けたい。ただでさえ平民出身で、国民は不安を抱いているかもしれないのだ。しっかりせねば。
何度も仕事に行くように説得したが、「かわいいね」と撫でられて終わってしまう。
これは離れるしかない。でもずっとくっついているし、物理的に離れられない。それならば、逃げよう。隙をついて逃げるしかない。
何でバレるかわからないから、夜に「トイレに行くふり」をして逃げ出した。詳細は控えるが、大変だった。でも、楽しかった。久しぶりにワクワクした。このまま逃げ続けるのも楽しいかもしれない。知り合いの魔法使いの幼馴染のもとへ行けば、隠してもらえるだろう。一週間くらい隠れていれば、仕事もやるだろう……そう思いながら歩いていたら、急に辺りが暗くなった。
「うん?」と思うと――。
「リノ。なんで……なんで逃げたの? 僕、何かした? ごめんよ。お願いだ、帰ってきて……!」
シュタルク様が抱きついて泣いていた。
まだ一日も経っていないのに。恐ろしいやつだと思いつつも、私は言った。
「私がいると仕事しないじゃないですか。だから、いない方がいいかなと思って」
正直に伝えたら、彼はさらに縋り付いてきた。
「仕事よりもリノが大事だから! そんなことで僕から離れないで!」
地面に膝をつき、許しを乞い始めたシュタルク様。でも、それって「仕事ないがしろにする宣言」だよな。これはいかん。とはいえ、こんな皇帝をそのままにしておけば威厳に関わる。
「シュタルク様、顔を上げてください。竜の皇帝が夜道で平民出身の嫁に泣きつくなんて、歴史書に書かれたら末代までの恥ですよ」
「いいんだ! リノに逃げられるくらいなら、歴史に残ってもいい……!」
「ダメです」
私はため息をつき、彼の銀色の髪を仕方なく撫でてあげた。それだけで、彼は「ふにゃあ」と情けない声を漏らして、私の服に顔を埋める。
執着されてるかなとは思ったけど、ここまでとは思いませんでした。
「……シュタルク様、一つ提案があります」
「な、なんだい? 離れないで済む方法なら、なんだって聞くよ!」
「明日から、陛下が仕事を一つ終わらせるたびに、『一分間』だけ私とのティータイムを許可します」
「…………一分?」
シュタルク様が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まる。
「はい。その代わり、仕事が終わらないうちは寝室も別。半径三メートル以内に近づくのも禁止。……どうせなら、私がこのまま隣国の実家(仮)まで逃げ切るか、陛下が仕事を片付けるか、賭けてみましょうか?」
「そ、そんな殺生な……!」
「さぁ、今すぐ執務室に戻って判子を押すか、ここで私に永遠の別れを告げられるか、選んでください」
私の冷徹な宣告に、シュタルク様はガタガタと震え出した。
……が、次の瞬間。
「…………わかった。一時間で一ヶ月分片付けてくるから、そのあとは一時間抱っこして!!」
ドォォォン! と空気が震えるような音を立てて、彼は竜の姿に戻ることもなく、人間離れした速度で王城へと走り去っていった。
……早っ。あんなに早いのなら、最初からやってくれればいいのに。
「さて、と」
私は、彼が巻き上げた土埃を払いながら、シュタルク様が残した護衛をまくために、
夜道を走り出す。
城の方向……ではなく、予定通り、幼馴染の魔法使いの家のほうへ。
「一ヶ月分の仕事を一時間で終わらせるなんて、無理に決まってますもんね。……よし、約束の1時間は稼げるはず。その間に、今度こそもっと遠くへ逃げてみましょうか」
私は夜風に当たりながら、こっそり微笑んだ。
追いかけられるのは、正直めんどくさい。
でも、必死な陛下を見るのは、ちょっとだけ――本当にちょっとだけ、楽しいかもしれない。
冷徹なところかくの忘れてました
たくさんみてもらえたら、長編も挑戦してみたいです!
猫の日だから、猫の話を書けばよかったと後悔してます。




