第9話 プロ探索者、事故を許さない
合同配信の告知は、前日の夜に出された。
【次回配信予告】
『プロ探索者・速水レイ参戦』
『安全重視 vs 事故体質』
『公式立会い・比較検証回』
コメント欄は、即座に燃えた。
【コメント】
・格付け来た
・これは公開処刑
・事故男終わったな
・いや逆に何か起きそうで怖い
・黒岩さんの胃が死ぬ回
「……胃が死ぬ回ってなんですか」
控室でスマホを見ていた天城恒一は、力なく呟いた。
「事実です」
即答した黒岩は、すでに胃薬を机に並べていた。
完全に覚悟を決めている。
「天城さん」
黒岩は真剣な顔で言う。
「今日の配信は、“事故を起こさない”ことが最優先です」
「……はい」
「比較対象がいます。
あなたが何かやらかすと、“再現性のない危険物”として評価が固まります」
「……はい」
返事はしたが、内心は落ち着かなかった。
――プロ。
自分とは、住んでいる世界が違う探索者。
その人物が、ちょうどブースに入ってきた。
「はじめまして」
落ち着いた声だった。
短くまとめた髪。
無駄のない装備。
カメラ映りを意識した、自然な立ち姿。
「速水レイです」
にこやかに微笑む。
「……天城恒一です」
恒一は、思わず背筋を伸ばした。
【探索配信:天城恒一&速水レイ(合同)】
視聴者数:38,912
【コメント】
・数字やば
・レイさんきた
・事故男並んでて草
・画面の温度差すごい
「今日は“比較検証”です」
レイがカメラに向かって説明する。
「同じルート、同じ敵、同じ条件で進みます」
「安全を最優先にしますので、
無理な動きはしません」
【コメント】
・安心感
・これがプロ
・事故男聞いてる?
「聞いてます!」
恒一は即座にツッコんだ。
探索開始。
レイの動きは、完璧だった。
罠は事前に察知。
敵は最小限のリスクで処理。
一切の無駄がない。
「……すごい」
恒一は、思わず呟いた。
【コメント】
・安定感えぐい
・事故起きる余地ない
・比較が残酷
その一方で。
恒一の視界の端に、
またしても“ズレ”が見え始めていた。
(……今日は何も起きないはずだろ)
そう思った瞬間。
レイが足を止めた。
「……黒岩さん」
「はい」
「この先、通路が少しおかしいですね」
「どの点が?」
「距離感です。
安全マップと、体感が一致しない」
【コメント】
・プロでも違和感
・来るか?
・来るなよ?
レイは慎重に後退した。
「ここは一旦、戻りましょう」
「……はい」
恒一も従う。
――そのはずだった。
次の瞬間。
「……あ」
恒一の足元だけが、
わずかに沈んだ。
【コメント】
・あ
・やった
・やるなって言っただろ!!
「止まって!」
レイが即座に叫ぶ。
だが、遅かった。
恒一の体が、半分だけ“抜けた”。
「……っ!」
視界が歪む。
「天城さん!」
黒岩の声。
レイは、即座に恒一の腕を掴んだ。
「動かないで!」
「……すみません!」
必死に声を絞り出す。
だが、レイの顔は蒼白だった。
「……これ」
「?」
「“事故”じゃない」
レイは、はっきりと言った。
「私がどれだけ慎重に進んでも、
あなたが一緒にいると――
**安全設計が破綻する**」
【コメント】
・プロが言うと重い
・笑えない
・これヤバいやつだ
黒岩が叫ぶ。
「全員、後退!
天城さんはそのまま動くな!」
数秒の緊張。
幸い、現象はそれ以上広がらなかった。
恒一の体は、元の通路に戻る。
「……生きてる」
【コメント】
・また生還
・でも空気が重い
・誰も草って言ってない
レイは、恒一から手を離した。
その目は、真剣そのものだった。
「……天城さん」
「はい」
「あなたは、
**一人で探索しちゃいけないタイプです**」
恒一は、何も言えなかった。
「事故が起きるからじゃない」
レイは続ける。
「周りを、巻き込むからです」
その言葉は、
これまでで一番、重かった。
【コメント】
・正論
・成り上がりの代償
・ここからが本編だな
配信終了。
控室に戻ったあと、
恒一は、しばらく黙って座っていた。
「……俺」
ぽつりと呟く。
「探索者、向いてないんですかね」
黒岩は、即答しなかった。
少し考えてから、言った。
「向いています」
「え?」
「だからこそ、
**扱いが難しい**」
その言葉に、恒一は苦く笑った。
画面の外では、
すでに次の議論が始まっていた。
『事故男は危険か』
『天城恒一を止めるべきか』
第一部の終わりが、
静かに、しかし確実に近づいていた。
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