第6話 炎上、開始
炎上というものは、予告なく始まる。
しかも大抵、当人が一番状況を理解していない。
「……静かだな」
天城恒一は、配信を終えて部屋に戻ったあと、スマホを見つめて呟いた。
通知音が鳴らない。
いつもなら配信後に数件は来るはずの、どうでもいいコメント通知すらない。
「逆に怖いんだけど」
その瞬間だった。
――ブブブブブッ。
スマホが震えた。
いや、震えたというより、暴れ始めた。
「え、ちょ、待っ」
画面が通知で埋まる。
【あなたがタグ付けされました】
【あなたが言及されました】
【あなたの動画が拡散されています】
【トレンド入り】
「……トレンド?」
嫌な予感しかしない。
恐る恐る、SNSを開く。
【#運だけ男】
【#ダンジョンバグ】
【#公式立会いで事故る】
「タグが悪意の塊すぎる!!」
叫んだところで、スマホは黙らない。
【投稿】
『公式の前でバグ踏み抜くEランクとか前代未聞だろ』
『これ仕様ならダンジョン危険すぎない?』
『仕込みじゃないなら説明しろ』
「説明できたら苦労しないんだよ……!」
ベッドに倒れ込み、天井を仰ぐ。
「俺、今日なにしたっけ……」
初心者ダンジョンに入った。
壁を抜けた。
最深部に落ちた。
ボスから逃げた。
公式の胃を破壊した。
「……ろくなことしてないな」
再び通知。
【ダンジョン庁公式アカウント】
『現在拡散されている映像について、事実確認を行っています』
「公式まで動いてる……」
その数分後。
見覚えのある名前から、通話がかかってきた。
「……黒岩さん?」
『天城さん』
電話越しでもわかる。
声が死んでいる。
『今、庁が軽くパニックです』
「軽くで済んでます?」
『済んでいません』
即答だった。
『問い合わせ、苦情、要望、陰謀論、全部来ています』
『なぜ初心者ダンジョンで想定外の挙動が起きたのか』
『あなたは何者なのか』
『胃薬はどこで買えるのか』
「最後おかしくないですか?」
『私です』
黒岩は遠い目をしている気がした。
『とりあえず、あなたには二つ選択肢があります』
「二択は嫌な予感しかしない」
『一つ。しばらく配信停止』
『二つ。条件付きで配信継続』
「……条件付きって?」
『公式監視の常設』
『探索ルートの事前申告』
『コメント欄のログ提出』
「ほぼ自由ないじゃないですか」
『配信停止よりは自由です』
恒一は唸った。
配信を止めれば、収入はゼロ。
続ければ、胃が死ぬ。
「……続けます」
『ですよね』
黒岩の声に、ほんの少しだけ諦めが混じった。
『ちなみに今、あなたの配信切り抜きが――』
「聞かなくていいです!」
『再生数、三十万を超えました』
「聞きたくなかった!」
通話が切れ、部屋に静寂が戻る。
だが、それも束の間だった。
配信アプリから、新しい通知。
【スポンサー仮オファーがあります】
「……え?」
目を疑う。
恐る恐る開くと、短いメッセージ。
『炎上含めて注目度が高い。
安全が確認でき次第、検討したい』
「炎上前提なんだ……」
恒一は、スマホを置いて深く息を吐いた。
「俺、探索者になりたかっただけなんだけどなぁ……」
その呟きは、もう誰にも聞かれていない。
だが、ネットの向こうでは。
天城恒一という名前が、
**「危険だが目が離せない存在」**として、完全に認識され始めていた。
炎上は、始まったばかりだった。
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