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事故を起こさないダンジョン配信者は、なぜか世界の異常が見えてしまう   作者: 相馬カイ


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35/35

最終話 境界に立つ人

 あの日から、三ヶ月が経った。


 世界は、直っていない。


 だが、壊れてもいない。


 ダンジョンは相変わらず存在し、

 歪みは、ときどき揺れる。


 検証ネットワークは、日常になった。


「……今日も三件ですね」


 黒岩が端末を見ながら言う。


「はい」


 天城恒一は、モニターに目を向ける。


 一次判断。

 保留が一件。

 危険が一件。

 進行可が一件。


 特別な日ではない。


 それが、少しだけ嬉しかった。


「……見ます」


 短く告げる。


 保留案件。


 映像を見て、数秒。


「……そのまま」


 危険案件。


「三歩下がってください」


 進行可。


「大丈夫です」


 それだけで、今日の歪みは終わった。


 裂けなかった。

 特別なことも起きなかった。


---


 夜。


 恒一は、いつものように配信をつける。


【探索配信:天城恒一】

 視聴者数:121,506


「こんばんは」


【コメント】

・今日も来た

・異常なし?

・平和?


「平和です」


 少し笑う。


「歪みはありましたけど」


「裂けませんでした」


【コメント】

・それが一番

・直らないの?

・いつまで続くんだ


 その問いに、恒一は少しだけ考える。


「直らないと思います」


「世界は、縫い合わされたままです」


「たぶん」


「ずっと」


【コメント】

・怖いな

・じゃあどうすんだ

・終わらないの?


「終わらないです」


 はっきり言う。


「でも」


 一拍置く。


「すぐ壊れもしません」


 画面の向こうを、まっすぐ見る。


「誰かが」


「引っ張らないようにしていれば」


「裂けない」


【コメント】

・誰かって?

・お前だろ

・一人にするなよ


 恒一は、少しだけ肩をすくめる。


「俺だけじゃないです」


「一次判断もある」


「現場もある」


「コメントもある」


「みんなが」


 一拍。


「少しだけ、

 踏み込みすぎないようにしてる」


 コメント欄が、ゆっくり流れる。


【コメント】

・それでいい

・英雄じゃないな

・でも必要だ


「英雄じゃないです」


 即答する。


「修復者にもなりません」


「ただ」


 深く息を吸う。


「境界に立ちます」


 静かな言葉だった。


「世界を直さない」


「でも」


「壊れきらせない」


 それだけを、繰り返す。


【コメント】

・それでいい

・今日も頼む

・明日も止まれ


 恒一は、少しだけ笑った。


「明日も、止まります」


 配信を切る。


---


 窓の外。


 街は、いつも通りに光っている。


 空に穴は開いていない。

 地面も裂けていない。


 世界は、縫い合わされたままだ。


 不完全で、

 不安定で、

 それでも、続いている。


 英雄はいない。


 世界を直した者もいない。


 だが――


 裂ける前に、

 「待て」と言う人はいる。


 天城恒一は、今日もモニターの前に座る。


 特別ではない。


 選ばれてもいない。


 ただ、逃げなかった。


 それだけの人間が、

 境界に立っている。


 そして、世界は、

 まだ壊れていない。

ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。


この物語は、

「世界を救う話」ではありませんでした。


最初から最後まで、

主人公は世界を直しません。

ラスボスもいません。

大団円もありません。


ただ――

裂ける前に止まる話を書きたかったのです。


ダンジョン配信という題材から始まりましたが、

途中から物語の中心は「判断」になりました。


進む勇気よりも、

止まる勇気の方が難しいこと。


直すよりも、

壊さない方が重いこと。


そんなテーマを、

天城恒一という“特別ではない人間”に託しました。


彼は選ばれた存在ではありません。

才能も使命もありません。

ただ、逃げなかった。


それだけで、

境界に立つ人になりました。


この物語が、

誰かの「踏み込みすぎない選択」を

少しでも肯定できていたなら、

作者としてこれ以上嬉しいことはありません。


最後まで読んでくださり、

コメントやブックマーク、評価をくださった皆さまに

心から感謝します。


世界はきっと、

今日もどこかで縫い合われています。


そしてどこかで、

誰かがそっと「待て」と言っているのかもしれません。


またどこかの物語でお会いできれば嬉しいです。


本当に、ありがとうございました。

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