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事故を起こさないダンジョン配信者は、なぜか世界の異常が見えてしまう   作者: 相馬カイ


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25/26

第25話 それでも、判断するしかない

 会議室には、三人しかいなかった。


 天城恒一。

 黒岩。

 そして――南條ミコ。


「……正式に会うのは初めてですね」


 南條はそう言って、静かに頭を下げた。

 黒岩より少し年上。

 だが、その目は現場を知る人間のものだった。


「今回の件」


 南條は、資料を机に置く。


「軽傷一名。

 対応としては、最善に近い」


「……でも」


 恒一は俯いたまま言った。


「止められませんでした」


「ええ」


 南條は否定しない。


「止められなかった」


「それが現実です」


 その言い方は、神代とは違った。

 突き放すのではなく、受け止めてから話す声だった。


「……俺」


 恒一は、しばらく黙ってから言う。


「判断するの、

 怖いです」


「でしょうね」


 南條は頷いた。


「判断は、

 誰かの未来を削る行為です」


「……」


「正解なんて、ありません」


 南條は、ゆっくり続ける。


「あるのは、

 “よりマシだったかもしれない結果”だけ」


 恒一は、拳を握った。


「……俺は」


 声が震える。


「事故を起こしたくなくて、

 止まってただけなんです」


「誰かを切るために、

 止まったわけじゃない」


「ええ」


 南條は、はっきり言った。


「分かっています」


 黒岩が、静かに口を開く。


「天城さん」


「はい」


「あなたは、

 “全てを背負おう”としていませんか」


「……」


「止められなかったことまで、

 自分の責任にしている」


 恒一は、何も言えなかった。


「それは」


 南條が続ける。


「判断者としては、

 危険です」


「……危険?」


「はい」


 南條は、少しだけ厳しい声になる。


「あなたが壊れれば、

 次の判断は、

 もっと遅れる」


「……」


「だから」


 南條は、恒一を真っ直ぐ見る。


「全部を

 背負わなくていい」


「……でも」


「それでも」


 南條は遮る。


「判断は、

 やめられません」


 沈黙。


 重いが、逃げ場のない沈黙だった。


 恒一は、深く息を吸った。


「……俺」


 ゆっくりと、言葉を選ぶ。


「全部を

 救えないことは、

 分かりました」


「……」


「それでも」


 顔を上げる。


「俺が

 見ていなかったら、

 もっとひどくなる」


 黒岩と南條が、同時に頷いた。


「……だから」


 恒一は、絞り出すように言う。


「判断します」


「完璧じゃなくても」


「間に合わない日があっても」


「……それでも」


 南條は、静かに言った。


「引き受けますか」


「はい」


 短いが、はっきりした返事だった。


「逃げません」


 その言葉に、南條は小さく息を吐いた。


「……ありがとうございます」


 それは、礼だった。


---


 その夜。


 恒一は配信をつけた。


【探索配信:天城恒一(判断枠)】

 視聴者数:70,882


「……こんばんは」


 画面の向こうに、いつもの顔ぶれがいる。


「昨日、

 止められない事故がありました」


 逃げずに言う。


「軽傷者が出ました」


 コメント欄が静まる。


「それでも」


 恒一は、続ける。


「俺は、

 判断をやめません」


「全部を

 救えないかもしれない」


「でも」


 一拍置いて。


「俺が

 見て、止めて、

 考えた方が」


「……まだ、マシだと思うからです」


【コメント】

・それでいい

・逃げないの尊敬する

・一緒に考える


「……ありがとう」


 恒一は、深く頭を下げた。


 配信を切ったあと、

 胸の奥に、

 まだ怖さは残っていた。


 だが。


 逃げたい気持ちより、

 逃げないと決めた事実の方が、

 少しだけ重かった。


【次回予告】

『歪みは、増えている』


 判断は、

 これからもっと

 追いつかなくなる。


 それでも――

 引き受けた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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