第24話 一度、間に合わない
その異常報告は、配信の外で届いた。
深夜二時。
スマホの振動で、天城恒一は目を覚ました。
【緊急通知:ダンジョン庁】
『小規模ダンジョンにて
想定外の歪み発生。
現地判断を要請』
「……っ」
心臓が跳ねる。
すぐに通話を繋ぐ。
「黒岩さん?」
『起きてますね』
声は落ち着いている。
だが、余裕はない。
『現地は住宅地近くの
小型ダンジョンです』
「……規模は?」
『低。
だからこそ、
対応が後回しにされました』
その言葉に、嫌な予感がした。
「……映像、来てますか」
『今、繋ぎます』
画面に映ったのは、
見慣れた通路。
小さい。
狭い。
だが――
「……境界、
見えません」
恒一は、はっきり言った。
『こちらでも
明確な反応はありません』
「……なら」
言いかけた、その瞬間。
『……っ!
崩落!』
映像が激しく揺れる。
【コメントログ(後日公開)】
『軽度の構造崩壊』
『探索者一名、軽傷』
ほんの数秒。
ほんの一瞬。
それでも。
「……間に、
合わなかった」
声が、掠れた。
幸い、死者はいない。
被害も小さい。
だが。
『……天城さん』
黒岩の声が、
いつもより低かった。
『あなたの判断が
遅れたわけではありません』
「……でも」
『映像が来た時点で、
もう歪みは
臨界に近かった』
「……」
『あなたがいても、
止められなかった可能性が高い』
その言葉は、
慰めではなかった。
現実の確認だった。
---
翌日。
恒一は、配信をつけなかった。
代わりに、
机に座ったまま、
何度も同じ映像を見返していた。
「……ここ」
境界。
だが、
これまで見てきた“ズレ”とは違う。
歪みが、
“点”ではなく、
“面”で広がっている。
「……増えてる」
直感だった。
だが、確信に近い。
黒岩が、静かに言う。
「……公式でも、
同じ結論です」
「……」
「歪みは、
増加傾向にあります」
恒一は、目を閉じた。
「……俺」
絞り出すように言う。
「止められないなら、
ここにいる意味、
あるんですか」
沈黙。
しばらくして、
黒岩が答えた。
「……あります」
「……」
「今回、
被害が軽微で済んだのは」
資料を示す。
「あなたの過去の判断で、
現地チームが
警戒していたからです」
恒一は、顔を上げた。
「……俺が、
直接止めたわけじゃない」
「いいえ」
黒岩は、はっきり言った。
「**あなたが作った前提**が、
人を助けました」
その言葉は、
少しだけ、胸を温めた。
だが、同時に――怖かった。
「……次は、
もっと間に合わないかもしれない」
「ええ」
黒岩は否定しない。
「それでも」
一拍置いて、続ける。
「あなたが
見ていなければ」
「被害は、
もっと増えます」
恒一は、机の上で
拳を握った。
「……完璧じゃ、
いられない」
それを、
ようやく受け入れ始めていた。
---
その夜。
恒一は、短い配信をつけた。
【緊急配信:天城恒一】
視聴者数:52,109
「……今日は、
事故を止められませんでした」
コメント欄が静まる。
「怪我人が出ました。
軽傷です」
「でも」
言葉を選びながら、続ける。
「……悔しいです」
【コメント】
・責めてない
・無理言うな
・それでも見てる
「……ありがとう」
深く頭を下げる。
「次は、
もう少し早く気づけるように」
「……考えます」
配信終了。
画面が暗くなっても、
恒一はしばらく動けなかった。
――全部は救えない。
その現実を、
初めて、
はっきりと知った夜だった。
【次回予告】
『それでも、判断するしかない』
止められない日が来ても、
判断からは
逃げられない。
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