第22話 守るための判断は、切り捨てを含む
会議室に戻ったとき、空気はさらに重くなっていた。
机の上に、新しい資料が積まれている。
地図、数値、被害想定――どれも現実的で、冷たい。
「これが、現在進行中の案件です」
神代ユウは淡々と説明する。
「地方都市の中規模ダンジョン。
不安定な歪みが確認されています」
スクリーンに映るのは、赤く囲まれたエリア。
「探索者が二十名。
周辺住民は、およそ三百」
恒一は、喉が鳴るのを感じた。
「……全員、助けられるんですか」
その問いに、神代は首を振った。
「いいえ」
即答だった。
「最悪のケースでは、
ダンジョンを封鎖し、
内部を切り捨てます」
「……中にいる人は?」
「犠牲になります」
その言葉に、恒一は立ち上がった。
「ちょっと待ってください!」
椅子が音を立てる。
「それ、
判断ですか?
ただの放棄じゃないですか!」
神代は、少しだけ眉を動かした。
「放棄ではありません」
冷静に続ける。
「被害を、
“最小化”する判断です」
「……誰の被害を?」
恒一は、机を睨みつけた。
「中にいる人を切り捨てて、
外の人を守る」
「それが、
正しいって言うんですか」
神代は、視線を逸らさない。
「正しいかどうかは、
問題ではありません」
「……!」
「選択しなければ、
より多くが死にます」
その理屈は、理解できてしまう。
だからこそ、腹が立った。
「……俺は」
恒一は、声を震わせながら言った。
「そんな判断、
できません」
「ですが」
神代は静かに言った。
「君は、
すでに似た判断をしている」
「……え?」
「境界で止まったとき、
踏み込まなかった」
「それは、
自分を守っただけです」
「違います」
神代は、はっきり言った。
「踏み込めば、
他の探索者を巻き込んだ可能性があった」
「君は、
“進まない”ことで、
誰かを切り捨てた」
恒一は、言葉を失った。
「……切り捨ててない」
絞り出すように言う。
「助けられなかっただけです」
「同じです」
神代は、淡々と断じた。
「結果として、
中に行かなかった人間は
助からなかった」
「……」
「君は、
その現実から
まだ目を逸らしている」
沈黙が落ちる。
そのとき。
「……違います」
黒岩が、低い声で言った。
「天城さんは、
“選ばない”選択を
してきた」
神代が黒岩を見る。
「選ばない?」
「はい」
黒岩は続ける。
「踏み込まないことで、
事故を起こさない」
「それは、
“切り捨て”ではなく」
一拍置いて。
「“これ以上増やさない”
という判断です」
神代は、少し考えた。
「……なるほど」
だが、表情は変わらない。
「しかし、
今後はそれでは足りない」
神代は、恒一に向き直る。
「君には、
選ばされる」
「……」
「誰を助け、
誰を切るか」
その言葉が、胸に刺さる。
「……俺は」
恒一は、俯いたまま言った。
「そんな役、
引き受けた覚えはありません」
「覚えがなくても」
神代は、静かに告げる。
「君は、
その場にいる」
会議は、結論を出さないまま終わった。
---
帰り道。
夜の街を歩きながら、恒一は考えていた。
境界で止まったとき。
遠隔で判断したとき。
確かに、
“全員”を救えたわけじゃない。
「……俺」
小さく呟く。
「切り捨ててたのか……?」
スマホが震えた。
【朝霧ルナの投稿】
『全部を背負わせるのは、
違うと思う』
短い文章。
だが、胸に沁みた。
恒一は、空を見上げた。
守るための判断は、
切り捨てを含む。
その現実を、
否定できなくなっていた。
【次回予告】
『配信を続ける意味』
判断は、
配信の外だけで
完結するものではなかった。
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