第20話 検証枠、確立
その日の配信は、ダンジョンの入口から始まらなかった。
【特別配信:天城恒一(遠隔検証)】
視聴者数:81,406
「……入らないんですね」
画面に映るのは、簡易会議室。
ホワイトボードとモニター、端末が並んでいる。
【コメント】
・現地じゃない?
・事故男ログアウト?
・まさかの司令塔
「今日は、
俺はダンジョンに入りません」
天城恒一は、はっきり言った。
「現地には、
別の探索者チームが入っています」
画面が切り替わる。
高難度指定ダンジョン。
深部手前の通路。
【コメント】
・難易度高くね
・あそこ事故多発地帯
・マジで大丈夫?
「……俺も、
正直怖いです」
恒一は正直に言った。
「でも、
“行かないで判断できるか”を
確かめたい」
黒岩が隣に立つ。
「公式としても、
本検証を承認しています」
【コメント】
・公式ガチ
・責任重すぎ
・黒岩さんの胃……
「胃はもう、
強化されています」
即答だった。
現地チームが進む。
『現在、
第三区画の通路に到達』
映像越しに見える通路。
恒一は、画面を凝視する。
「……少し、止まってください」
『理由は?』
「境界が……
画面越しでも、
重なって見えます」
【コメント】
・遠隔で分かるの?
・もう人間センサー
・怖すぎ
黒岩が即座に確認する。
「……ログに、
微弱な未定義反応」
『……本当だ』
現地チームの声が硬くなる。
「……一歩、
後退してください」
『了解』
探索者が下がる。
数秒後。
「……反応、消えました」
【コメント】
・止めた
・事故回避
・遠隔で防いだ
恒一は、深く息を吐いた。
「……よかった」
だが、安堵は長く続かなかった。
別の映像。
別地点。
『こちら第四区画。
同様の違和感あり』
「……待ってください」
恒一は、すぐに言う。
「そこは、
“まだ行かない方がいい”」
『理由は?』
恒一は、少し考えてから答えた。
「……理由を
言語化できません」
【コメント】
・え
・勘?
・それで止めるの?
「……でも」
恒一は続けた。
「“今は違う”って、
感じます」
黒岩は、数秒黙ったあと、言った。
「公式判断として、
一時停止を指示します」
現地チームが、動きを止める。
――次の瞬間。
別方向の通路で、
小規模な崩落が起きた。
『……っ!
危なかった……』
【コメント】
・当たった
・勘じゃない
・もう無理
恒一は、画面を見つめたまま、動けなかった。
「……俺」
喉が渇く。
「今、
何もしてないですよね」
「ええ」
黒岩は静かに言った。
「あなたは、
“判断した”だけです」
配信終了。
会議室に、静寂が戻る。
「……俺、
ダンジョンに入ってないのに」
恒一は、椅子に座り込んだ。
「事故、
防ぎましたよね」
「はい」
黒岩は、はっきり頷いた。
「本日をもって、
天城恒一は」
一拍置く。
「**検証枠として正式に確立**しました」
恒一は、笑えなかった。
「……喜んでいいんですか」
「分かりません」
黒岩は、正直に答えた。
「ただ一つ言えるのは」
視線を向ける。
「あなたはもう、
“事故男”ではありません」
「……」
「**事故を防ぐ側の人間です**」
その言葉は、
誇らしさよりも、重さを伴っていた。
帰り道。
夜の街を歩きながら、恒一は思った。
ダンジョンに入らなくても、
判断だけで、人の命に関わる。
――逃げ場は、
本当になくなった。
だが同時に。
事故を起こさなくても、
“ここにいる意味”ができてしまった。
配信アプリを開く。
【次回予告】
『国家レベルで、動き出す』
検証枠は、
一人の配信者の枠を超えた。
物語は、
次の段階へ進む。
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