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事故を起こさないダンジョン配信者は、なぜか世界の異常が見えてしまう   作者: 相馬カイ


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第2話 視聴者三人、全員困惑する

 配信を終えたあと、天城恒一はしばらくその場から動けなかった。


「……生きてる」


 探索者として、あまりにも情けない感想だったが、それが正直な実感だった。

 初心者ダンジョンとはいえ、さっきのは完全にミスだ。普通なら医療班に運ばれていてもおかしくない。


 それなのに、体は無傷。

 いや、それどころか――。


 恒一はスマホを見下ろした。


【探索配信:天城恒一(配信終了)】

 総視聴者数:31

 コメント数:146


「……え?」


 思わず声が漏れた。

 三人じゃなかったのか。


 コメント欄を遡る。


【コメント】

・今の絶対当たってた

・壁抜けたの見えたんだが

・初心者ダンジョンってあんな判定ガバいの?

・ラグじゃ説明つかなくね?


「いや、説明つかないのは俺もなんだけど……」


 恒一は頭を掻いた。

 自分でも、さっきの出来事をどう説明していいかわからない。


 結局、配信は途中で切ってしまった。

 あれ以上続ける余裕がなかったからだ。


 帰り道、ダンジョン出口の自動ゲートを抜けながら、周囲の探索者たちの視線を感じる。

 気のせいかもしれない。だが、いつもより刺さる。


「……考えすぎだよな」


 そう自分に言い聞かせ、安アパートに戻った。


 部屋に入るなり、恒一はベッドに倒れ込む。

 天井のシミを眺めながら、今日の出来事を反芻する。


 当たり判定が、ズレた。

 壁に、指が沈んだ。


「……たまたまだろ」


 そうでなければ困る。

 自分が特別だなんて、そんな都合のいい話があるはずがない。


 だが。


 スマホが震えた。


 通知。

 配信アプリからだった。


【あなたの配信がクリップとして共有されています】


「……は?」


 嫌な予感しかしない。


 恐る恐る、リンクを開いた。


 そこには、数十秒の短い動画。

 自分が罠を踏み、攻撃を受け、なぜか生き残る場面。

 そして――壁に指が沈む瞬間。


 再生数:12,843


「……いやいやいや」


 声が裏返った。


 コメント欄も、見覚えのない速度で流れている。


【コメント】

・これガチ?

・仕込みじゃね?

・初心者ダンジョンでこれはおかしい

・検証班行きだろ

・運だけで説明できるか?


「運だけです!!」


 思わず叫んでいた。


 だが、画面の向こうにいる誰かに届くはずもない。


 その日の夜、恒一はほとんど眠れなかった。

 ベッドに横になっても、コメントの文字が脳裏をちらつく。


 ――検証。


 その言葉が、妙に引っかかった。


「……検証、か」


 翌日。


 恒一は再びダンジョン前に立っていた。


 理由は単純だ。

 配信をしないと、探索者として生きていけない。


 そしてもう一つ。

 自分でも、確かめたくなっていた。


 本当に、昨日は偶然だったのか。


「……よし」


 スマホを固定し、配信を開始する。


【探索配信:天城恒一】

 視聴者数:18


「えっと……昨日ぶりです。今日は普通に、いつも通り探索します」


【コメント】

・昨日の人だ

・バグ踏みおじさん来た

・検証枠だな


「いや、検証とかじゃなくて……」


 言い訳するように言いながら、恒一はダンジョン内部へ進む。


 昨日と同じ区画。

 同じ通路。

 同じ壁。


「……」


 恒一は足を止めた。


 正直、怖い。

 またおかしなことが起きたらどうする?


 だが、立ち止まっていても始まらない。


 恒一は、そっと壁に手を伸ばした。


 ――スッ。


 抵抗が、ない。


「……え?」


 指先が、壁の中に入った。


【コメント】

・入った

・再現性あり

・おいおいおい


「ちょ、待って待って」


 慌てて手を引っ込める。

 心臓が跳ねる。


「これ、ダメなやつじゃない?」


【コメント】

・本人が一番困惑してて草

・顔引きつってる

・仕様理解してない男


「理解してたらこんな反応しませんよ……」


 恒一は深呼吸した。

 落ち着け。冷静に考えろ。


 壁をすり抜けられるなら、向こう側はどうなっている?


「……ちょっとだけ、ですよ?」


 誰に言うでもなく確認し、恒一は半身を壁に入れた。


 視界が、切り替わる。


「……うわ」


 そこは、本来マップに存在しないはずの空間だった。

 通路と通路の“隙間”。

 配線のような光の筋が、宙に走っている。


【コメント】

・裏世界じゃん

・運営仕事しろ

・これ見ちゃいけないやつだろ


「いや、俺もそう思います」


 背中が冷たくなる。


 その瞬間、背後で物音がした。


 モンスターだ。

 巡回ルートから外れた個体が、こちらに向かってくる。


「え、待っ――」


 逃げ場はない。

 戦えば負ける。


 恒一は、反射的に一歩下がった。


 ――ズン。


 足が、壁をすり抜けた。


 次の瞬間、元の通路に戻っていた。

 モンスターは壁の向こう側で立ち止まり、こちらを認識できずにいる。


「……助かった?」


【コメント】

・今の回避天才か?

・いや偶然だろ

・でも偶然で二回は無理じゃね?


 恒一は、荒い息を吐いた。


「……たまたまです。ほんとに」


 そう言いながら、彼は気づいていなかった。


 視聴者数が、いつの間にか「312」になっていることに。

 そしてこの配信が、すでに“検証枠”として拡散され始めていることにも。


 恒一は、ただ思った。


 ――初心者ダンジョン、優しくない。


 そして、

 自分の探索者人生が、静かにズレ始めていることを。


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