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事故を起こさないダンジョン配信者は、なぜか世界の異常が見えてしまう   作者: 相馬カイ


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17/26

第17話 仮説が生まれるコメント欄

 その日の配信は、始まってすぐに異変があった。


【探索配信:天城恒一(検証枠)】

 視聴者数:69,884


 数字はいつも通りだ。

 問題は――コメント欄だった。


【コメント】

・今日は境界パターン確認?

・前回の位置、座標メモった

・床と壁の接合角度が怪しい

・ズレは“線”じゃなく“面”説どう?


「……ちょっと待ってください」


 天城恒一は、思わず足を止めた。


「コメント欄、

 なんでそんな難しい話してるんですか?」


【コメント】

・検証枠だから

・今さら何言ってんだ

・事故待ちじゃないぞ


「……俺の知らないところで、

 役割が確定してる」


 小さく呟きながらも、恒一は苦笑した。


 ダンジョン内部。

 今日も“踏み込まない”前提のルートだ。


「えー、

 今日はですね」


 話しながら、通路の端に立つ。


「前回、

 『境界でズレが起きるんじゃないか』

 って話が出てたので」


【コメント】

・来た

・検証開始

・ここ大事


「俺は、

 そこに近づきません」


【コメント】

・知ってる

・近づくな

・遠目で見ろ


「……信用されてるのか、

 信用されてないのか分かりませんね」


 そう言いつつ、恒一は一定の距離を保つ。


 何も起きない。


「……今のところ、

 ズレは見えません」


【コメント】

・未発生

・距離が原因?

・踏み込みがトリガー説


「……トリガー」


 その言葉を、恒一は繰り返した。


「俺が、

 “引き金”ってことですか?」


【コメント】

・可能性高い

・本人が近づくと揺らぐ

・観測者効果説


「……難しい言葉やめてください」


 思わず頭を掻く。


 そのとき、

 コメント欄に一つ、妙に整理された書き込みが流れた。


【コメント】

・仮説まとめ

 ①ズレは境界で起きる

 ②天城が近づくと発生率上昇

 ③踏み込むと事故化

 ④踏み込まなければ“歪み止まり”


「……誰ですか、

 こんなレポート書いた人」


【コメント】

・考察厨です

・仕事中です

・会社休みました


「休まないでください!」


 だが、恒一はその仮説から目を離せなかった。


「……④が、

 一番重要な気がします」


【コメント】

・それ

・止まれるかが分岐

・事故男→停止男


「停止男はやめてください!」


 笑いが起きる。

 だが、以前のような軽い草ではない。


 理解した上での笑いだった。


 黒岩が、横で端末を操作する。


「……興味深いですね」


「黒岩さんまでその顔やめてください」


「公式ログと、

 かなり一致しています」


「え?」


 恒一は目を丸くした。


「じゃあ、

 コメント欄の仮説って」


「はい」


 黒岩は頷いた。


「“素人考察”としては、

 かなり精度が高い」


【コメント】

・公式認定草

・考察厨昇格

・コメント欄すごくない?


「……コメント欄、

 ダンジョン庁より頭いい説」


【コメント】

・やめろ

・怒られる

・黒岩さんの胃が


「胃はもう諦めています」


 黒岩が淡々と言った。


 探索は続く。

 だが、誰も「事故れ」と言わない。


 代わりに。


【コメント】

・次はどの境界見る?

・この角度は?

・距離測って


「……俺、

 配信者ですよね?」


【コメント】

・司会者

・観測者

・現場責任者


「責任者は聞いてない!」


 だが、否定できなかった。


 配信終了。


 控室で、恒一は椅子に座り込んだ。


「……今日、

 俺ほとんど何もしてないですよね」


「いいえ」


 黒岩は首を振る。


「“選び、止まり、確認した”」


「……それだけです」


「それが、

 一番難しい」


 黒岩は真剣な顔で続ける。


「今日の配信で、

 視聴者は一つの仮説に

 ほぼ合意しました」


「合意……」


「はい」


 端末を見せる。


【コメント集計】

『ズレは境界で起きる』


「次は、

 この仮説を検証する段階に入ります」


 恒一は、息をのんだ。


「……俺が?」


「ええ」


「……失敗したら?」


 黒岩は、少しだけ言葉を選んでから答えた。


「事故では済まないかもしれません」


 恒一は、静かに頷いた。


 次回予告欄には、

 はっきりとした文字が表示されていた。


【次回予告】

『仮説検証:ズレは境界で起きる』


 コメント欄は、

 ただの観客席ではなくなっていた。


 ――思考する場所として、

 物語の中に組み込まれ始めていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

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