第15話 視聴者参加型検証、始動
配信開始五分前。
天城恒一は、スマホの画面をじっと見つめていた。
【企画タイトル】
『視聴者参加型・ダンジョン検証配信』
※ルート選択は視聴者投票で決定します
※危険度の高いルートは却下される場合があります
「……正直、逃げ道は残してます」
独り言のように呟く。
事故を起こすための配信じゃない。
でも、何も起きない配信でもない。
――自分で線を引く。
それが、レイの言っていたことだった。
「……よし」
配信を開始する。
【探索配信:天城恒一(視聴者参加型検証)】
視聴者数:63,842
【コメント】
・企画ガチじゃん
・やっと動いた
・事故男、選ぶ側になる
・黒岩さん今日もいる?
「います」
画面の端で、黒岩が小さく頷いた。
今日は腕組みではなく、端末を持っている。
「今日は、俺が勝手に進みません」
恒一は、はっきり言った。
「候補ルートを三つ出します。
その中から、投票で一つ選んでください」
【コメント】
・民主主義きた
・責任分散
・これで事故ったら視聴者のせい?
「事故ったら、俺のせいです!」
即座に否定する。
画面に、簡易マップが表示される。
【候補ルート】
A:公式推奨・完全安全ルート
B:未検証だが危険報告なし
C:過去に軽微な異常報告あり(封鎖解除済)
「Cは……」
言葉を選ぶ。
「異常が“起きたことがある”だけで、
今は問題ないとされています」
【コメント】
・C一択
・Aはつまらん
・Bは中途半端
・事故待機
「……予想通りですね」
苦笑しながらも、恒一は投票を開始した。
数字が動く。
A:18%
B:24%
C:58%
「……Cですね」
心臓が、少しだけ早くなる。
「ただし」
恒一は続けた。
「異常が出たら、即撤退します。
これは絶対です」
【コメント】
・了解
・ちゃんと止まれ
・黒岩さん頼む
黒岩が一歩前に出る。
「公式としても、その判断を支持します」
探索開始。
Cルートは、見た目には何の変哲もない通路だった。
照明も正常。
構造も単純。
「……今のところ、何もないですね」
【コメント】
・静か
・逆に怖い
・来るならここから
恒一は、足取りを慎重に保つ。
視線を落としすぎない。
呼吸を整える。
(……俺は、選んだだけ)
自分で踏み込んだわけじゃない。
だが、逃げてもいない。
そのときだった。
――カチ。
「……今、音しました?」
【コメント】
・した
・小さい音
・罠じゃない?
恒一は、すぐに立ち止まる。
「黒岩さん」
「確認します」
黒岩が端末を操作する。
「……罠反応なし。
ただ――」
「ただ?」
「ダンジョンログに、
一瞬だけ“未定義”が出ています」
空気が、変わった。
【コメント】
・未定義?
・それ異常では
・止まれ
「……撤退します」
恒一は即座に言った。
だが。
視界の端に、
あの“ズレ”が、ほんのわずかに現れた。
壁と床の境界が、
紙一枚分だけ、重なって見える。
「……っ」
【コメント】
・見えてる
・でも動いてない
・事故未満?
恒一は、足を動かさなかった。
代わりに、深く息を吸う。
「……これ以上は行きません」
そう言って、一歩、後ろに下がる。
ズレは、それ以上広がらなかった。
数秒後。
「……消えました」
黒岩が言う。
「記録完了。
“微小歪み、非発現”」
【コメント】
・止めた
・偉い
・初めて制御した感ある
恒一は、ゆっくりと息を吐いた。
「……今の」
カメラに向かって言う。
「多分、
“事故になる前”でした」
【コメント】
・未遂
・事故未満
・それが一番怖い
「そうかもしれません」
恒一は、正直に頷いた。
「でも、
俺は踏み込みませんでした」
その言葉は、
誰かに向けた宣言だった。
探索終了。
無事帰還。
配信終了間際、
視聴者数はほとんど減っていなかった。
【配信終了時 視聴者数】
61,930
「……あれ」
恒一は、少し驚いた。
【コメント】
・今日のは良かった
・事故らないけど緊張感あった
・これが見たかった
・自分で止まるの、評価高い
配信終了。
控室で、恒一は椅子に座り込んだ。
「……正直」
ぽつりと呟く。
「めちゃくちゃ怖かったです」
「でしょうね」
黒岩は、初めて少し笑った。
「ですが」
真剣な表情に戻る。
「今日、初めて
“あなたが主導した検証”になりました」
「……俺が」
「ええ」
恒一は、しばらく考えてから言った。
「……事故は、起きませんでした」
「起きませんでした」
「でも、
“何もなかった”わけじゃない」
黒岩は頷いた。
「それが、
あなたの新しい立ち位置です」
帰り道。
恒一は、夜風に当たりながら思った。
事故を起こさなくても、
異常は消えない。
だが、
飲み込まれる必要もない。
――選ぶことは、できる。
次回予告欄に、
新しい文字が表示されていた。
【次回予告】
『検証枠、確立』
第二部は、
ここから本当の意味で動き始める。
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